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「偶成和音」とは

割引あり

 noteを始めて間もない私ですが、先日「偶成和音」という用語の酷い乱用を見たので、(略)。

🔹

 まず初めに、この語は「和声法」の文脈で登場する語です。

 『和声 理論と実習』シリーズより前から登場していた概念なのかどうか存じ上げませんが、“このテキストにおける定義” の話から始めますので、ご了承ください。

『和声 理論と実習』Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ巻。左上に映り込んでいるのはみかんです。

 正直、このテキストはもう時代遅れになりつつあると思っています。
ここでの引用は、おそらく最後期の活用ですね。

 読まなくて良いです。

ある和音(X)における転位・修飾の結果、
 同じ和音(X)の他の形体(m)
 同じ和音(X)の同じ形体(l)の他の低音位(n)
 他の音度(y)の和音
が偶然的に成立することがある。これを偶成という。
 この場合、
 m を 偶成形体
 n を 偶成低音位
 y を 偶成音度
という。
 上記3種の要素(m・n・y)のいずれかをもつ和音(Z)を、和音Xにおける偶成和音といい、XをZの原和音という。

注意:太字強調は私によるもの。
出典:島岡譲(1967).『和声 理論と実習 Ⅲ』音楽之友社、p283

 ここまで自然科学の真似事してガチガチ定義しなくても、普通の人は音楽をするのに困りません。
 ヒトにはもっと「“なんとなく察する” 力」があるからです。
こと「音楽」という分野では、こちらの方が遥かに重要な力です。

🔹

 以下の私の翻訳を読んで下さい。この時点でやや取っつき易くなります。

偶成和音:和音(の構成音)の 転位・修飾 の結果 現れる、他の音度の和音のそっくりさん達※。慣用的または秩序的な 転位・修飾 を、議論&実施するためには便利な概念。

※厳密にはこの説明だと「偶成音度の偶成和音」しか網羅できていないが、後で補足します。



 まず、ある程度は和声法をかじってしまっている方向けに、早めに結論を出しておきます。

◆曲中のその瞬間の和音を「偶成和音」として取り扱うべき、その条件
【1】転位音修飾音を含んでいる(と見なす意味がある局面である)。
【2】結果、なお3度堆積の形をしている
【3】和音進行の原則に従わない or 和音の原則通りの挙動を示さない
(【4】「一瞬」よか長い。)

(ある和音の)構成音の転位or修飾の結果、別の和音に「空似している」だけなので、
テキストで過去に見た外見(※重要)なのに、なんか挙動に説明がつかないもの」の総称です。
左と中央の譜例の赤音符が転位音。どう転回しても3度堆積にならないので偶成和音と呼ばない。
(「ミソシレファ」とか言わないでね。理由が欲しけりゃレッスンまで来てくれ。)
右譜例の赤音符は修飾音。「C」を転回した形なので、当然3度堆積。偶成和音と呼び得る。

注:
 
件のテキストに於いては、「修飾音」は「和音構成音の内部で別の構成音を使って遊ぶ」ようなもののことであり、「(和音構成音の隣の音を使う)転位音」と、概念的に重なるものではありません(排他の関係にある)。

 一般に「“装” 飾音」と呼ばれるトリルやプラルトリラーなどは、転位音の用法に分類すべきであり、即ち「装飾音」と「修飾音」は別モノです

件のテキスト独自の用語を含んでいるので、通じないことがあっても、異文化理解の精神で。

 ついて来れなくて大丈夫です。ここから一般人向けに説明します。

🔹

 和声法を習っていないであろう多数派の皆さんが、前述の説明にしっくり来るためには、いくつかの前提条件を理解する必要があります。


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