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Hickory Sound Excursion #442 ▶ 新潟 × ウエストコーストの旅 (Transcript)

『Hickory Sound Excursion』(FMまつもと・2024年10月3日放送)
スクリプト/ 選曲 : 久納ヒサシ


今回お話しする旅は、新潟の中心部、信濃川の河口付近にあたります万代エリアからスタートします。ぼくはもともと、このエリアにある万代橋のアーチが信濃川を跨いで連なる風景が好きで今回もそれを見たいなと思って足を運んだんですけど、思いがけず、ちょうど今、川沿いの道がイルミネーションで彩られていまして。これはですね、「万代島 光の航路1マイルVoyage2024」という企画らしいんですけど、青をテーマカラーに、散策路の木々までもライトアップされていたりしていて、なかなか綺麗でした。あと、この企画は音楽にも力が入っていて、軽いスウィング系のジャズが流れていたんですけど、野外に設置したスピーカーから、けっこう低音の効いた良い音が出ていました。このイルミネーション、12月上旬まで続くそうなので、新潟に行かれる予定のある方は立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

万代エリアのホテルで泊まった翌朝は古町の商店街を散歩がてら、シャモニーという喫茶店でモーニングをとることにしました。ぼくは名古屋出身で喫茶店文化の中で育ってきましたので、こういう昭和な雰囲気の喫茶店は、旅先でアウェイではあっても、うん、落ち着きましたね。そして、美味しいコーヒーを飲みながらですね、チーズトーストをほおばりまして、ふと見た会計伝票の裏側には、こんな一文が書かれていました。

“あわただしい日々の生活のリズムの中、自己中心的で他人を思いやらない風潮がはびこっているこの頃。そこでコーヒーです。コーヒーは飲んでもおいしい。でもそれ以上に人と人との潤滑油になれる。知らない者同士でも、ケンカをした後の夫婦でも、バラバラだった家族でも、夢破れた男にも、恋を失った女にも、。テーブルにコーヒーがのっていれば温かく滑らかになれる。”

喫茶シャモニー古町店の会計伝票

 うーん、なんだか名文の雰囲気が漂っていますね。コーヒーの豊かな香りと、この確信に満ちた文体に乗せられまして、思わず、理解する前に納得してしまいそうになりました。

(風鈴のフィールドレコーディング音源)

先ほどお聴きいただきましたのは、新潟市内にあります白山神社の手水車(てみずや)に吊るされていた風鈴の音です。そして、コロナ対策ということで、現時点では水を掬うことができないんですけれども、その代わりということでしょうか。水面にはに色とりどりの菊の花が敷き詰められていまして、この聴覚と視覚の両面で心を清めるということなのかなと思います。この白山神社ですけど、調べてみますと、ここでは夏には「七夕風鈴まつり」というお祭りがあるそうで、写真をみると、境内にもっとたくさんの風鈴が飾られるようですね。これは夏の夜に訪れてみるのもまたいいかもしれません。それにしてもこの白山神社は、社殿も立派な造りだし、敷地も広々として、居心地のよい場所でしたね。その一角には、燕喜館という明治時代の豪商の邸宅の一部が見学できるようになっていました。豪華な建材を用いて贅を尽くした前座敷、奥座敷、茶室を擁するお屋敷は、港町として繁栄した明治大正期の新潟の活気を偲ばせるものでした。そういえば白山神社ではおみくじも引いたんですよ。そのおみくじにはですね、「社の上に輝く月が恵の光明となって幸せを与えてくれる」という内容が書いてありました。そして空を見上げると、青い空の中に下弦に近づいた半月のような月が白くうっすらと、でも、ちゃんと社の上に見ることができました。これはきっとこの先も、いい旅ができるということなのでしょう。それで、海へと車を走らせることにしました。

Sheryl Crow “Sweet Child O' Mine”お聴きいただいています。ちょうど最近、ふと思い立って、朝っぱらからガンズの1stをレコードで聞いていたのですが、このシェリル・クロウのバージョンは、ウエスコーストロックなテイストでいいですよね。さて、新潟市内でお寿司を食べたり、コーヒーを飲んだり、お土産をかったりしているうちに時刻は午後3時。まあ、最寄りのインターからあっさり松本へ向かってもよかったのですが、なにしろ天気がとても良かったので、できるだけ長く海をみていたいなーと思い、ちょっと遠回りをすることになりました。選んだのは新潟市街地から海岸線に沿って走る国道402号線。防風林に並走する変化の乏しい道がしばらく続いたあと、角田浜海水浴場を過ぎたあたりから車窓からの眺めは一変します。通称「越後七浦シーサイドライン 」 。断崖絶壁のゴツゴツしたワイルドな岩山と日本海を横目に、カーブとアップダウンを繰り返す絶景ルートです。アメリカ西海岸カリフォルニアにBig Surという、ジャック・ケルアックやヘンリー・ミラーが愛した風光明媚な土地があります。そこには Highway 1 という海沿いの絶景を楽しめるドライブルートがあるそうで。もちろん、今ではウェブで調べればいくらでもその画像や動画が見られるのですが、10代の頃、ぼくはもっぱら文字情報でその地にある岩山や海岸の光景を想像していました。越後七浦シーサイドラインを車で走りながら、そのかつて思い描いていたイメージが蘇って目の前の景色とぴたりと重なったような気がしました。もちろん、ここがアメリカの代わりとなる風景だというわけではありません。アメリカはアメリカだし、新潟は新潟です。でも、ぼくがずっと見てみたかったような風景がここ日本の西海岸にもあったということを知ったのです。

(波音のフィールドレコーディング音源)

海岸沿いを車で走っているうちに、日はどんどん暮れてゆきます。ここは西海岸。天気は快晴。ということは、この場所で水平線に沈む夕陽を眺めない手はありません。出雲崎の道の駅に車をとめ、自動販売機で買ったジュースを飲みながら日が沈んでゆくのをゆっくりと眺めました。その間には、もう年内でみることができないと思っていたツバメたちの姿も見えました。太陽が水平線にさしかかると、夕陽はまるでスピードをあげるかのようにあっというまに沈んでいきました。いきあたりばったりで訪れたはずなのに、そこに来ることがあたかも必然であったかのように思えて、それまでのでたらめの集積が、まるでパズルのピースがはまるように、全部つじつまがあってしまうようなことが、旅の中ではときどき起こります。夕陽を見ながら感じたその瞬間のなんともいえない気持ちは、なかなか言葉におきかえて説明できるものではないですが、それに近い音楽は、探せばわりとあるものです。「新潟×ウエストコーストの旅」。最後にもう一曲お届けします。キリンジ、「クレイジーサマー」。

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