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魔法少女リリカルなのは Reflection 30
同時刻――ディアーチェもまた自身の『オリジナル』と相対していた。
通信の不通から部下の戦線離脱を直感したらしい。
「ちっ、シュテルとレヴィが敗れたか。すぐに救出してやると言いたいところだが……」
頭上の相手を睨みあげ、苛立たしそうに怒号を張りあげる。
「この小ガラスが鬱陶しい!」
しかしディアーチェの魔弾ははやてのスピードを追いきれずに、散っていった。
一方のはやてはディアーチェを引きつけること、そして回避に専念する。
(私のほうが『頭が高い』位置におるから、怒ってるみたいやな)
幸いにして、ディアーチェにイリスのような狡猾さはなかった。強敵には違いないものの、感情の起伏は意外に激しいようで、挑発が効く。
「この羽根をカラスゆうたら、王様もやで?」
「小賢しいわっ!」
同じ力を有するおかげで、ある程度は手の内も読めた。クラウソラスにはクラウソラスをぶつけ、確実に相殺する。
だが、はやての相手はディアーチェのほかにもいた。飛行タイプの大型機動外殻、獄炎のアメフィスタもはやてを撃沈すべく、一帯の夜空に弾幕を張る。
この巨体に乗り込まれては、オールストン・シーなどひとたまりもないだろう。
「リイン! どうや?」
「もうちょっとだけ待ってください!」
はやてとともに東京湾の上空を舞いながら、リインフォースが対応する。
(シャマルの言う通りなら、どこかにコアがあるはずや)
すでに灰燼のトゥルケーゼ、城塞のグラナートは轟沈した。しかしアメフィスタは飛行タイプのせいか、ほかの二機とは形状が異なり、同じ箇所にコアが見当たらない。
リインフォースがコアを発見するまで、はやては時間稼ぎに徹する。
「お話は聞かせてもらえへんのかなあ? 王様」
「ほざけ! 我を愚弄しおって!」
ディアーチェの魔弾ははやてを外れるも、アメフィスタに命中してしまった。
(これは怒っとるで! リイン、早く!)
このままではアメフィスタを止めるより先に、ディアーチェの堪忍袋の緒が切れかねない。はやてが冷や汗をかき始めて、ようやくリインフォースが報告の声を弾ませた。
「はやてちゃん! コアの位置、発見しました!」
「上出来や! 一気に片付けるで」
はやては六枚の翼をはためかせ、アメフィスタの真上を取る。
アメフィスタの両翼、その付け根のあたりにコアの反応があった。弾幕がこちらへ届かないうちに、はやてとリインフォースはベルカ式の魔方陣を三重に展開。
「リイン、コントロールは任せたよ」
「ハイです」
一枚目で波動を発射、二枚目で制御、さらに三枚目で貫通力を高め、アメフィスタを一撃のもとに撃ち貫く。
アメフィスタの飛行が惰性となった。
みるみる姿勢を維持できなくなり、翼の片方が海面と接触。巨体ゆえの運動エネルギーがアメフィスタを前のめりにぐらつかせて、ついには転倒させる。
アメフィスタが沈むと同時に大きな水柱が上がった。海水の雨が降り、はやてとディアーチェに数秒ほど打ちつける。
忌々しそうにディアーチェがはやてを睨んだ。
「やってくれたな。こんなところで使いたくはなかったが……どうやら貴様には、我の偉大さを教えてやらねばならんようだ」
ベルカ式の魔方陣を広げ、膨大な魔力を一点に凝縮させていく。
「あ、あれは……」
「アロンダイトが来ます!」
未熟なはやてではまだ使えない高度な魔法だった。
「高まれ、我が魔力。震えるほどに暗黒……!」
はやての上下を含めた全方位で、無数の黒い『穴』が一挙に出現する。
次元跳躍と原理は同じ。ディアーチェの魔弾が続々と空間を超え、はやてとリインフォースへ不意打ち同然に殺到する。
「絶望に足掻け! アロンダイト!」
「――ッ!」
瞬間、はやてとリインフォースは決断した。
黒い魔弾がオールレンジでターゲットを打ちのめす。のみならず、ディアーチェも自ら魔弾を追加で連射し、はやてをアメフィスタの残骸へ叩きつける。
煤だらけの黒煙がもうもうと立ち込めた。ディアーチェは射撃を止め、八神はやてが倒れているはずの場所を見下ろす。
「ちっ」
その唇から舌打ちが漏れた。
夏の夜風が煙を晴らし、五体満足のはやてが姿を現す。
「はあ、はあ……」
間一髪だった。
はやてはリインフォースと融合(ユニゾン)することで、守護騎士をも上まわる力を発揮できる。その影響で、はやての髪は色がリインフォースのものに変わっていた。
『なんとか間に合いましたね、はやてちゃん』
「おおきに、リイン。助かった」
先ほどは被弾の直前にユニゾンし、球状の防壁だけを展開。
回避が不可能なら、防御力を高めるだけ高めて凌いだほうが、消耗も少なくて済む。そう判断し、ユニゾンしての守備一辺倒だ。
ディアーチェが眉根を寄せる。
「融合騎に救われたか……だが、もう戦えまい」
対し、はやては疲労の色を浮かべながらも、あどけなく微笑んだ。
「王様も相当、はあ、お疲れのようで」
はやてとディアーチェの戦いは終わらない。
ところが、不意にディアーチェが顔の向きを変えた。
「……む? この気配は」
はやても妙な怖気を感じ、融合中のリインフォースに尋ねる。
「王様が言うとるんはこれか? リイン、場所はわかる?」
『ええと……オールストン・シーです!』
開戦してすぐクロノから緊急の連絡があったことを、ふたりは思い出した。
「永遠結晶はオールストン・シーの中に……まさか」
「勝負は預けるぞ、小ガラス!」
夜空の一点を目指し、ディアーチェが一直線に飛翔する。
「ちょ、ちょっと待ってぇや、王様! あと、私の名前は八神はやて!」
『追いかけましょう、はやてちゃん!』
慌ててはやても飛ぶ。
この東京湾で何かが目覚めようとしていた。