脇起こし半歌仙「春の叉焼」の巻
中華屋の麦茶に揺るる油膜かな 塚本櫻𩵋
麒麟の食す春の叉焼 日比谷虚俊
花ふぶき髪をさらさら靡かせて 仝
引つ張つてゐる凧の手応へ 仝
満月は豆電球の大きさの 佐藤知春
もう動かざる鵙の早贄 俊
自転車の空気入れたる末枯野 仝
二人で歩く下校楽しき 仝
なりゆきで初めて君の家に来て 仝
長きスマブラ長きまぐはひ 𩵋
くちなはが此方をぢつと見てゐたる 俊
ネットニュースが暴く不祥事 仝
ニコニコで話上手で優しくて 仝
寒月を指し語り出す夢 仝
線引いてToDoリスト消してゆく 仝
祖父の日記の表紙真つ青 仝
旅立のリュック重たき花盛り 仝
朝寝から醒め軽く伸びして 仝
発句には櫻𩵋さんの名刺にあった句をそのままいただいた。季語は「麦茶」で夏なのだが当季が春なので脇を春に。春と秋は三句続けるという制約のもとでやると表が季の句でギチギチになる。なかなかレアな体験だ。
月の座は同席していた佐藤知春さん。必死に店の中から句材を探していて、でも当然「皿」や「箸」は発句の「中華屋」に帰るのでNG。苦吟の果てに吊されていた「豆電球」(というにはおしゃれだったけど)を発見。「満月」「豆」から供え物を連想し「鵙の早贄」を出したが表で「贄」はどうなんだろうか。許されたい。
そしてなんといっても恋句。近くに座った櫻𩵋さんに「作ってみますか?」と振ったところ「任せてください!」と力強く答えてくださった。恋を経験していてもそれを句にするということに尻込みする人が多かったのでとても意外だった。連句に慣れていないのにこんなに積極的に恋句に取り組んでくれる人がいるとは。
恋句として最初に〈だきよせてから罅薬塗る〉という句をいただいたが「罅薬」が盛り上がりに欠けると思って修正をお願いした。「"だきよせてから"は問題ないんですけど……」と言ったので下七を変えてくれるのを想定していたが全部変えてきた。しかもよい。「まぐはひ」という言葉を使いながらも、七七の持つ軽さと対句表現によってあっさりとした句になっている。原句は口語だったのだが発句に合わせて文語に。「絶対原句の方がいいのに……」という悔しさはこれからもずっと付き合っていくのだろう。
酔うとまったく句ができなくなるのが弱点で、その克服に飲みながら巻くようにしたら今度は飲むと連句を巻きたくなるようになってしまった。素面のときはもちろん、酔いながらでも良い作品が残せるようになりたい。