都合の良い関係
美容室が好きだ。
というか美容師さんが好きなのだ。
美容師さんの仕事は当然髪を切ること。
でもそれ以上に大事なのはお客さんに居心地良く過ごしてもらうことだ(私は美容師をやったことがないから、全然根拠のない考えなのだが)
だからきっと美容師さん達はお客さんの雰囲気によって楽しい話題を提供したり、逆に静かな時間を過ごしてもらったり、日夜工夫を惜しまないのである(何度もいうが私は美容師をやったことがないので、勝手に私がそう思っているだけかもしれない)
そんなわけで、美容室での会話は弾みに弾む。美容師さんの努力はもちろんその理由の一つであるが、他にも理由はある。
責任を感じなくて良いのだ。
どういうことか、例を挙げて説明したい。
職場の同僚とおしゃべりする時のことを考えてみよう。当然だけど休憩中のおしゃべりが終わっても関係は途切れず続く。「昨日YouTubeのショート動画3時間も見ちゃってさ、寝不足だよ、ハハハ」、なんて不用意に言ってしまった日にはすごく困る。午後の仕事中にミスをしようものなら「あーあ、昨日寝てないから、ミスしてらあ。社会人としてどうなのかね、え?」なんて内心で思われることは明白である。
従って、同僚との会話でのトピックは時に制限される。
その点美容室は気楽だ。何せよ頻繁に行く人でも一月に一回しか会わないのだから、美容師さんとの話題は無限大である。「いやあ、最近全然仕事に行く気が起きなくて困りましたよハハハ」と言ったって良いし、「そういえばね、この前納豆のね、賞味期限を2週間くらい切らしちゃって。ちょっとだけ変な匂いしましたけどね、食べられましたねへへへ」と言ったって一向に構わないのである。
その上相手は会話のプロである。なにしろ踏んできた場数が違う。彼らはもれなくみんな聞き上手で、必要な時にさりげなく話題の薪をくべるのだ。かと思えば、こちらが放っておいて下さいオーラを出していれば瞬時に距離を置く。そして話し終わったらすぐ帰る。余計な情は禁物だ。究極に都合の良いおしゃべり相手、それが愛すべき美容師さん達なのだ。
今日も私は都合のよいオシャフレに会いに行く。