人間中心のデザインに関連するあれこれ
システム中心から人間中心へ
かつてインタラクティブシステムは、ユーザが目的を達成できる機能が充足していれば良く、ユーザがシステムに合わせれば良い(使いにくくても)という考え方がされることもあった(参考:ユーザーフレンドリー全史)。しかし、技術の急速な普及にともなってシステムが使われる場面やシステムの数が爆発的に増えることになり、使いにくいシステムにユーザが合わせることは現実的ではなくなっていった。加えて、システムに利用される技術の高度化や複雑化も進み、システムそのものがユーザにとって分かりにくくなりやすい問題も大きくなった。そこでシステムの学習や操作がユーザにとって簡単であることが求められるようになり、ユーザビリティ(使いやすさ)が重視されるようになる。
ユーザ体験(UX)に対する要求の高まり
さらに、システムが使い切れないほどある現代において、インタラクティブシステムには機能や性能や使いやすさだけではなく、魅力的な体験(UX: User Experience)を予期したり体感したりしてもらうことで、ユーザに選ばれる・使い続けてもらえるデザインが必要になっている。
これらの要求は、エンドユーザにシステムを提供するB2Cの領域で顕著であったが、B2Bの領域でも体験のデザインを重視することによって成功する事例が報告されている(参考:Doug Dietz from GE Healthcare)
このような流れもあってか、最初は無料で使いはじめられて使い続けたい場合には継続的に利用料を払うサブスクリプション型で提供されるシステムも増えている。
なお、ここでいうデザインは、意匠だけではなくユーザが目的を達成するまでのプロセスなどの設計までを含む広義のデザインを指す。インタラクティブシステムの設計者には、ユーザの要求を適切に満たすシステムを実現するために、広義のデザインを行えることが求められるようになっている。
人間中心のデザインアプローチの整備
そのため、インタラクティブシステムを人間中心に考え、ユーザにどのようなニーズがあるのか、どのようなことに魅力を感じるのかを熟慮しながらデザインを進める、人間中心のデザインアプローチが普及してきた(参考:ISO9241-210:2019, d.school Design Thinking Bootcamp Bootleg)。
また、インタラクティブシステムをサービスの一環として捉えると、ユーザ要求に応えるだけでなくビジネスや技術的な側面についても検討が必要になる。そのため、サービスデザインと人間中心のデザインが組み合わせて活用されるようになっている。ちなみにサービスデザインとは、領域経営者がシステムの開発を円滑に進めるために、その全体像を客観的に把握し、合理的にシステムの運用プロセスを設計、管理することを支援する方法が研究されてきており、サービスブループリントが提案された研究領域でもある。
人間中心で何を・どのようにデザインするのか
ユーザ体験(UX)とは、ISO9241-210:2010の定義によれば「システムの利用を予期したり、システムを利用したりすることを通じて、ユーザの内部で起こる認知や反応である」 。よって魅力的なユーザ体験を生み出すには、システムをユーザがどのように利用を予期したり利用したりするか(インタラクションするか)を上手くデザインすることが重要となる 。一方、UXはインタラクティブシステムを使うことなどによってユーザの内部で起こるものであるから、それそのものはデザインできるものではないとする見方もある(参考:UX原論)。
このように、使いやすさやUXはあくまでユーザに起こる反応であるから、それらを確かめるにはユーザに実際にシステムを利用してもらって反応を見ることになる。そこで、人間中心のデザインアプローチではデザインとユーザによる評価を繰り返す反復デザインを活用する(参考:Iterative user-interface design)。たとえば、システムのプロトタイプ(試作)を作りプロトタイプをユーザに体験してもらう(プロトタイピングをする)ことで、ユーザの要求を引き出していく。プロトタイピングは、アイデアの段階からUIのデザインの段階まで幅広く活用される(参考:ペーパープロトタイピング、IDEOの動画プロトタイプ)。これによってユーザが意識的に言語化できる要求を得るだけでなく、言語化できていない潜在的な要求まで明らかにすることを目指す。
このような反復型のデザインはシステムをリリースした後であっても継続的なシステムのアップデートのために活用される。特に、インタラクティブシステムをプロダクトとして捉えていた売り切りの時代よりも、システムをサービスとして捉えて利用契約していくサブスクリプションが中心となった現代において存在感を増しているように思う。
おわりに
人間中心のデザインはそれ単体でも大変参考になるが、それに至る過去の検討や関連分野との繋がりがたくさんある。今回紹介したのは私が知ってる一部であって他にも色々あるので、ぜひ調べてみてほしい。