【非認知能力とは】世界で重要視されている子どもに必要な資質
子育てにおいて、多少なりとも「勉強のできる子に育って欲しい」「スポーツの世界で活躍してほしい」など夢や希望を持つことがあると思います。
それ自体は非常に重要な問いかけです。あらゆる成功や目標達成の考え方と同様、子育てにおいても「どのような子供(大人)に育てるべきか」といったゴール設定や、「そのためにどのような力を身につけるべきか」といった基準を明確にした上で取り組むことが必要不可欠です。間違っても、ただやみくもに成功事例の真似だけをすることは、避けなければなりません。
では「夢を実現するために、どのような能力が必要ですか?」と問われたら、何と答えるでしょうか。
もちろん正解などなく、人それぞれ、様々なことを挙げると思います。ただし世界中の研究者がこのテーマについて思考や実験を繰り返し、少しずつ見えているものがあります。
そこで本記事では、「どのような力を身につけるべきか」という基準にフォーカスし、世界最先端の教育ではどのような資質を身につけることを重視されているのかをご紹介します。
1. 最も重視されるのは「非認知能力」
年収や学歴、就業形態といった労働市場での成果のほか、スポーツやアートの成果にも影響することが明らかになっている能力、それが「非認知能力」と呼ばれているものです。(「非認知スキル」と呼ばれることもあります。)
非認知能力とは、学力テストやIQで計測される認知能力とは異なるもので、具体的には以下のようなものを指します。
■自己認識
自分に対する自信、やり抜く力、グリット(GRIT)
■やる気
やる気がある、意欲的
■忍耐力
粘り強い、根気がある
■自制心
意志力がある、精神力が強い
■メタ認知ストラテジー
自分の状況を把握する、理解度を把握する
■社会的適正
リーダーシップがある、社会性がある
■回復力と対処能力
すぐに立ち直る、うまく対応する
■創造性
工夫する、創造性に富む
■性格的な特性
神経質、外交的、協調性、好奇心、誠実さ
※IQや学力テストでの点数など計測可能な認知能力に対して、計測不能であるから非認知能力と呼ばれています。
これらの「非認知能力」は一般的にいわゆる「生きる力」と言われるようなものであり、「人から学び、獲得するもの」として認識されています。さらに、この非認知能力は学力やIQといった認知能力の形成にも一役買っています。
2. 「非認知能力」の重要性に関する研究
「非認知能力」の重要性は様々な研究でも明らかになっておりますが、ここでは代表的なものを2つご紹介します。
2.1. ヘッグマン氏による一般教育修了検定の分析
教育経済学の代表的な研究者に、2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン氏が挙げられます。
ヘッグマン氏は、アメリカの一般教育修了検定(日本でいう高卒認定試験にあたる)の分析を行った結果、高校に通わずに一般教育修了検定に合格した生徒は、高校を卒業した生徒に比べて、年収や就職率が低い傾向にあることを発見しました。もし、学力などで計測される認知能力のみが重要であれば、同程度の学力を持つ一般教育修了検定の合格者と高校卒業者との間に大きな差がつくはずがありません。
このことから、ヘッグマン氏らは学力テストでは計測することのできない非認知能力こそが、人生の成功において極めて重要であるとしました。
2.2. ボーウェン教授によるSAT・通知表の成績と大学卒業の傾向分析
経済学者でプリンストン大学の学長でもあったボーウェン教授らも、違った角度から非認知能力の重要性を明らかにしています。
ボーウェン教授らは、アメリカでは大学生の中退率が40%近くもあるという事実に着目して、中退する学生と中退せずに卒業する学生の特徴や傾向について調査を行いました。
そもそも前提としてアメリカでは、大学に入学するためにはSATと呼ばれる共通テストと、高校時代の通知表の両方を提出する必要があります。ボーウェン教授はSATは認知能力の結果が主に反映され、通知表には提出物の締め切りを守れるか、授業中に積極的に発言しているかといった非認知能力も反映されていると仮定し、これらが与える大学の中退率への影響を調査しました。
結果としては、中退をせずに大学を卒業できた学生の割合が、SATの成績が良かった学生よりも、出身高校のレベルにかかわらず通知表の成績が良い学生の方が高かったことが判明しました。このことから、高校で良い成績を獲得するために身につけた非認知能力(真面目さ、先生との関係構築力、計画性、やり抜く力など)が、高校を卒業した後も彼らを成功に導く要因になったと考えました。
これらの研究から言えることとしては、学校とは単に勉強をする場所である以上に、先生や同級生から多くのことを学び、非認知能力を培う場所であるということなのでしょう。
3. 特に重要な非認知能力①:自制心
人生を成功に導く非認知能力の中でも特に重要なもののひとつとして、「自制心」が挙げられます。自制心とは、勉強やスポーツ、仕事のほか、ダイエットなどの生活面でも、自分をコントロールする能力のことを言います。
人間はつい、気が緩んでしまうと怠けてしまい、やらなければいけない事まで疎かにしてしまうことが多くあります。それをぐっと我慢して自らをコントロールすることができる、自制心が強い人の特徴としては、以下のようなものが挙げられます。
■二度寝をしない
目覚めが良く、速やかに起き上がる。
■欲しいものを我慢できる
欲望を一度持ち帰ることができる。衝動買いをしない。
■イライラすることが少ない
思いどおりにならない時に他にあたらない。怒りの引きが早い。
■健康である
元気な方が多い。暴飲暴食や睡眠不足などを避けることができる。
■お酒の量を調整できる
お酒を飲んでも呑まれることがない。
■腹八分目で止められる
お腹いっぱいになる前に、気を収めることができる。
■夜更かしをしない
自分の体調を重視し、計画的に寝る。(寝起きも良い)
3. 特に重要な非認知能力②:やり抜く力・グリット(GRIT)
「すごい人は、全員やり抜く力を持っている」。そう言っても過言ではないほど、非認知能力の中でも特に重要なものが「やり抜く力」であり、「グリット(GRIT)」とも呼ばれています。
3.1. やり抜く力・グリット(GRIT)とは
グリット(GRIT)とは「長期的なゴールを決めて、それが実現するまで何がなんでも諦めない」力です。これは心理学者のアンジェラ・ダックワース教授によって提唱されてから世界で注目を浴びているのですが、彼がシカゴの公立高校、民間企業、ウエストポイント陸軍士官学校など様々な機関で調査を行った結果、成功を収めるためには社会的知性やIQ、身体的な健康、ルックス以上にグリット(GRIT)が大きな影響を及ぼしていることが発見されました。
さらに嬉しいことに、このグリットは誰でも後天的に高めていくことのできる性質を持つことから、才能や素質と呼ばれる先天性の要素との関連性が低いことも判明しました。誰でも手に入れることができ、様々な能力に多大な影響を及ぼすグリットは、可能性に満ちた素晴らしい成功因子として今もさらなる研究が進められています。
また、研究の過程で悲観主義者よりも楽観主義者の方がグリットを持ち合わせていることが判明しました。グリットが高い人物ほど幸福感が強く健康面においても良好なことから、グリットはメンタルヘルスや自己管理に対しても少なからず影響を与えているといえます。
3.2. やり抜く力・グリット(GRIT)の測定方法
このグリットは、「グリット・スケール」と呼ばれるツールにより計測することができます。
「グリット・スケール」とは10個の質問に答えるだけで、自分の持つグリットを簡易に測定することができる非常に優れたツールです。 合計点を10で割って出た数値が自分の持つグリットのスコアとなり、その最高値は5となっています。
また、やり抜く力は『情熱』と『粘り強さ』という2つの要素から構成されており、奇数の問題の合計点を5で割ることで『情熱』のスコアを、偶数の問題の合計点を5で割ることで『粘り強さ』のスコアを算出することができます。
4. 非認知能力を鍛える方法
最新の研究では、認知能力の成長には年齢的な制限があるとされていますが、非認知能力の成長は成人後でも可能であるものも少なくないことが分かっています。
では、非認知能力はどのようにして鍛えていけば良いのでしょうか。ここでは、先ほどご紹介した、特に重要な非認知能力である「自制心」と「やり抜く力(グリット)」について解説します。
4.1. 「自制心」を鍛えるには
重要な非認知能力の一つとしてご紹介したい「自制心」は筋肉のように鍛えると良いと言われています。
筋肉を鍛えるときに重要なのことは継続と反復です。腹筋や腕立て伏せのように、自制心も何かを繰り返し継続的に行うことで向上します。例えば、先生に「背筋を伸ばせ」と言われ続けてそれを忠実に実行した学生は、成績の向上が見られたことを報告している研究があります。もちろん背筋を伸ばしたことが直接成績に影響を与えたわけではありません。「背筋を伸ばす」のような意識しないとしづらいことを継続的に行ったことで、学生の自制心が鍛えられ、成績にも良い影響を及ぼしたのでしょう。
また心理学の分野でも、「細かく計画を立てて記録し、達成度を自分で管理すること」が自制心を鍛えるのに有効であると、多数の研究で報告されています。
かつて「レコーディングダイエット」なるものが流行したことがありました。このダイエット法で減量に成功する人が多かったのは「日々摂取した食事とそのカロリーを継続的に記録し体重を確認すること」を通じて、自制心が鍛えられたという面もあったのではないかと考えられています。
4.2. 「やり抜く力(グリット)」を鍛えるには
もうひとつの重要な非認知能力である「やり抜く力(グリット)」はどうでしょうか。スタンフォード大学の心理学者であるドゥエック教授は、この力を伸ばすためには「心の持ちよう」が大切であると主張しています。
教授らの研究によると、「しなやかな心」を持つ、つまり「自分の元々の能力は生まれつきのものではなくて、努力によって後天的に伸ばすことができる」ということを信じる子供は「やり抜く力」が強いことが分かっています。
教授らの実験では、親や教師から定期的にそのようなメッセージを伝えられた子供たちはしなやかな心を手に入れ、やり抜く力が強くなり、その結果成績も改善したことが明らかにされています。
逆に、「やり抜く力を弱める心の持ちよう」もあります。「ステレオタイプの脅威」と言われるものです。
とある研究では、年齢とともに記憶力は低下するという記事を、読んだ人と読まなかった人とで「記憶している単語量」を比較した結果、記事を読んだ人の方が実際に少なかったことが示されています。またインドの実験では、農村の少年達に「カースト」と呼ばれる自分たちの社会的な身分を思い出させてからスタートを受けさせた場合は、そうしなかった時に比べて成績が悪くなったそうです。
つまり、「年齢とともに記憶力は悪くなる」とか「社会的な身分が低いと成功できない」というステレオタイプを刷り込まれると、まさに自分自身がそれを踏襲してしまうということです。
したがって親や教師などが子供と接するに気をつけるべきこととして、「自分の元々の能力は生まれつきのものではなくて、努力によって後天的に伸ばすことができる」ということメッセージとして継続的に反復して伝えることが重要になります。
最後に:成功の基礎作りにお金が必須ではない
前述のとおり、「非認知能力」が年収や学歴、就業形態といった労働市場での成果のほか、スポーツやアートの成果にも影響することが明らかになっており、どのような子育てにおいても無視できない存在となっています。
一方で、これらを身につけることに、必ずしもお金は必要ではありません。何を身につけるべきかを考え、そのための習慣づくりや繰り返しメッセージを伝えることが最も重要です。