とことん具体的に考える位相空間のお気持ち
この記事は、大学数学の初見殺し(?)である 位相空間 について、その概要をとことん具体的に考えることで導入しやすくすることが目的です。
距離とキョリ
突然ですが、距離 について考えてみましょう。
「東京駅からみて、京都駅と奥多摩駅はどちらが 近い か?」
地理的に近いのはもちろん奥多摩駅です。しかし、実際に移動することを考えれば、新幹線を使える京都駅の方が圧倒的に「近い」です。
なるほど、例えば所要時間で「近さ」が定義できるから、そういう広い意味での「距離」を定義しよう、という話だな! 三角不等式とか出てくるんだな! と思った方。
甘いです。この記事ではその話もしますが、更にその先をいきます。
「ソウルとロンドン、どちらが東京に近いでしょうか?」
地理的に近いのはもちろんソウルです。しかし、こういう人もいるかもしれません。
「国際都市という立ち位置でいえば、むしろロンドンの方が東京に近い」
この考え方にも一理あります。ここまでくると「近い」というより 似ている といった方が想像しやすいかもしれません。
「距離」だとどうしても、地理的な要素、計量的な要素がちらつくので、この記事では、そういったしがらみを一旦捨てるために キョリ という表記にします。
よく考えると、我々は普段の生活でこのような色々なキョリを柔軟に使い分けています。あそことあそこはなんとなく似ている。あの人とは近づきたくない……。こういった「感覚」もキョリだとして、これらを定量的な量がなくても定義できるものはないか?
それが 位相空間 です。
位相空間の定義
という訳でお待たせしました。位相空間の定義になります。
集合 $${X}$$ に含まれる要素の部分集合(たち)からなる集合系 $${\mathcal{O}}$$ が以下の性質を満たす時、組 $${(X,\mathcal O)}$$ を $${\mathcal{O}}$$ を開集合系とする位相空間と呼び、$${\mathcal{O}}$$ の元を $${X}$$ の開集合と呼ぶ。
$${\varnothing,X \in \mathcal{O}}$$
$${\forall O_{1},\forall O_{2}\in \mathcal{O} : O_{1}\cap O_{2}\in \mathcal O}$$
$${\forall \left\{ O_{\lambda }\right\} _{\lambda \in \Lambda } \subset \mathcal{O} : \bigcup \limits_{\lambda \in \Lambda} O_\lambda\in \mathcal{O} }$$
これを初見で「おお、なんとわかりやすい!」と思える人はいないと思います。初見だと意味不明だと思います。そこで、具体例で考えてみます。
なお、説明のために、上の $${1,2,3}$$ の定義を、今後 $${O1,O2,O3}$$ と表記します。
具体例:4つの文字列からなる集合
イギリス(UK)
フランス(FR)
ドイツ(DE)
日本(JP)
という 4 つの文字列からなる集合があったとします。これをグループ分けする方法を考えます。
「何もない」と「すべてある」
まず、「何も含まない状態」(∅)と「すべての要素」(UK、FR、DE、JP)を含むグループを設定します。$${O1}$$ はこの「何もない」と「すべてある」がグループの候補に含まれます、ということです。
グループのグループ
それらを含めて、グループのグループ を以下のように提案します。
∅(どのような文字列も含まない)
UK
UK、FR
UK、FR、DE
JP
UK、JP
UK、FR、JP
UK、FR、DE、JP(=X)
長くて恐縮ですが、この記事では冗長になろうとも意地でも具体的に説明します。
なお、「グループのグループ」ではまだるっこしいので以下、グループ族 とします。記号では $${\mathcal O}$$ と表記されます。$${O}$$ とは別の記号なので注意してください。紛らわしすぎるので本記事では二度とこの記号は使いません。
積集合
さて、これらのグループ族に含まれるグループの積集合(共通部分)を考えます。例えば、「UK、FR、DE」と「UK」の積集合である「UK」はこのグループ族に含まれています。
和集合
また、グループの和集合(合併)も考えます。例えば、「UK」と「JP」の和集合である「UK、JP」はこのグループ族に含まれています。
位相空間の定義 $${O2}$$ と $${O3}$$ で述べられていることは上のようなことになります。
一部を抜粋すると、このような図になります。
ここで違和感を持った方もいるのではないでしょうか。
イギリスとフランスの位置関係、逆じゃない? と。
そのような感想を持った方は、残念ながらまだ地理的な距離や固定観念に囚われています。定義において、「イギリス、フランス、ドイツ、日本」が「文字列」であるとは言いましたが、それが地球上にある同名の国と対応しているとは一言も言っていません。
偶然、あたかも地球上のヨーロッパとアジア「っぽい」分け方をしましたが、この文字列同士の位置関係が地球上のそれと同じとは限りません。位相空間においては位置関係など「無い」のです。上の図も、数ある図示方法のひとつで、どれだけ位置がシャッフルされようが、定義したグループ族に矛盾しないように包含関係を描ければ、なんでも構いません。
極端な話、上の文字列を、ニョフ、ピケン、ザッタ、シュクンという何の意味もない文字列(これは AI にいま考えてもらった文字列で、本当に何の意味もないです)に置き換えても、グループ族の包含関係が同じならば、位相空間としては同じです。
開集合
ところで、位相空間の定義において、開集合 という言葉が出てきました。より正確には、上の $${O1,O2,O3}$$ を満たすグループ族を 開集合系 といい、開集合系が定められた集合を位相空間と呼ぶ、ということでした。つまり、ほぼ 位相空間とは開集合系である と言っていいです。
前セクションに出てきた国名もどき空間においても、以下のようなことがいえます。
空集合は開集合である
グループ「UK」は開集合である
グループ「UK、FR、DE」は開集合である
グループ「UK、FR、DE、JP」は開集合である
ほかにも、このグループ族に含まれるグループはすべて開集合である
じゃあ「開」ってなんやねん。数学的には、そのようなグループ含まれるグループを「開集合」と名付けた、という説明が最も正しいです。
しかし、お気持ちとしては、もともとユークリッド距離やその他距離において、「開」っぽい要素を持つ集合を定めたものをより一般化した時に、位相空間上の開集合の定義が導かれた、という流れが正しいです。それを無視して「この定義を満たすものが開集合です」というのは天下り的です。
なので、「開」っぽさを説明するために、一旦話をキョリから距離に戻して、開集合の気持ちになります。
ユークリッド距離の開集合
まずは、一番想像しやすいユークリッド距離から。以下が、ユークリッド距離空間における開集合の図です。
集合 E は、点 O を中心とした円板です(ただし円周を含まない)。「※現実」と描いたのは、これは抽象的なイメージではなく、実際に紙にそういう円板が描かれている、という状況と同じだからです。この中に新たな円板を描くことは可能でしょうか? 適当に新たな中心を定めて、十分小さい半径 δ を持つ円板である集合 D を描けばいいので、これは可能です。
このように、集合内にどのような新点を取ろうとも、その集合内部に含まれる新点を中心とした集合を描ける、というのが(ユークリッド距離空間の)開集合の定義になります。
では、このような集合がなぜ「開」っぽさを持つか。ちょっと戯画的な説明として、以下のような 領土ゲーム を考えます。
あなたは開集合 E の領主です。あるとき、あなたの子分が「E 内のある点を中心にした円を、自分の自治領 D としたい」と言い始めました。諸事情であなたは絶対に正の面積を持つ領土を与えなければいけませんが、自分が管理していない土地を与える訳にはいきません。自治領 D を自分の領土 E 内に収めることができたらあなたの勝ちです。開集合とは、このような時に絶対に勝利できるものです。
具体的に、E を $${(0,0)}$$ を中心とした半径 1 の円とします(ただし、円周を含まない)。子分が $${(\frac{1}{2},0)}$$ を指定したら、半径 $${\frac{1}{2}}$$ 以下とすればいいです。$${(\frac{2}{3},0)}$$ を指定したら、半径 $${\frac{1}{3}}$$ 以下とすればいいです。子分がいくらギリギリを攻めても、あなたにはいくらでも後出しジャンケンをできる余地があります。より正確にいえば、距離 ε であるような以下なる点に対しても、それに対応した $${1-\varepsilon}$$ 以下の半径を指定すれば問題ありません。
ちなみに、このような「後出しジャンケンの無限ループ」は、大学数学の初見殺しの双璧として名高い ε-δ 論法においても出てきます。
こうして考えると、実数全体は明らかに開集合です。ある(有限の)座標とある(有限の)半径では、いくら大きくしても無限大に到達することはできませんから。
距離(一般)の開集合
ところで、距離はユークリッド距離に限りません。マンハッタン距離、チェビシェフ距離、マハラノビス汎化距離……。
一般に、以下の「距離の公理」を満たすものは距離と定義できます。
それらの距離において球は定義できるでしょうか?
より一般化して キュウ とします。球の定義は、ある点からのユークリッド距離が等しい点の集合でした。だとすれば、キュウの定義も「ある点からの距離が等しい点の集合」と拡張できます。
という訳で、これがより一般化した、距離空間における開集合の定義です。
さっきとほとんど同じじゃねえか! と思った方、よくみると注釈が「※まるいとは限らない」とあります。色々な距離を反映したキュウ(2 次元だと「エンバン」?)を描いているとキリがないので、やむなく抽象化させていただきました。決して手抜きではありません。
図だけで終わるのもアレなので、Wikipedia の定義も引用しておきます。
位相空間の開集合
一旦、ユークリッド距離にまで戻した話を再び位相空間まで引き上げます。
ここで議論の範囲を整理します。もともと、位相空間のお気持ちは「距離や類似度といった概念を、より拡張できないか?」というものでした。そのような広い概念を、本記事では「キョリ」として定義しました。そして、距離の中で、一番身近で想像しやすいのがユークリッド距離でした。
つまり、距離はキョリの特殊系であり、ユークリッド距離は距離の特殊系です。
包含図にするとこのようになります。
開集合を説明するために、一旦ユークリッド距離の世界までおりてきました。それを距離の世界まで拡張しましたが、定義はほとんど同じでした。
しかし、位相空間になると開集合の定義は一気に雰囲気が変わります。再び定義を載せます。
$${\varnothing,X \in \mathcal{O}}$$
$${\forall O_{1},\forall O_{2}\in \mathcal{O} : O_{1}\cap O_{2}\in \mathcal O}$$
$${\forall \left\{ O_{\lambda }\right\} _{\lambda \in \Lambda } \subset \mathcal{O} : \bigcup \limits_{\lambda \in \Lambda} O_\lambda\in \mathcal{O} }$$
まず、$${O1}$$ はスルーします。空集合の中に空集合を含められるか、みたいのはちょっと特殊な例なので(あとでちゃんと説明します)。
$${O2}$$ と $${O3}$$ の操作は、「具体例」のセクションにおいて、共通部分と合併であると説明しました。実は、その時はあえて説明をスルーしていたのですが、$${O2}$$ と $${O3}$$ では微妙に表記が違います。具体的には $${O3}$$ だけ謎の記号がいっぱいあります。
端的に言うと、$${O2}$$ は有限個の集合について述べており、$${O3}$$ は無限個の集合について述べています。つまり、日本語でシンプルに表現すると以下になります。
有限個の開集合の共通部分は開集合
無限個の開集合の合併は開集合
一番クリティカルなポイントを抜き出すと以下になります。
無限個の開集合の共通部分は開集合にならないことがある
具体例を出しましょう。1 次元ユークリッド直線で、$${(-\frac{1}{n},\frac{1}{n}) \quad (n=1,2,3,\cdots)}$$ の共通部分を考えます。この中に完全に含まれる開球を取ることはできません。
より正確に言うと、0 を中心とした「自治領」を作った場合、いかなる半径 ε に対しても、$${n}$$ を $${\frac{1}{\varepsilon}}$$ より大きな整数としてとればこの範囲を超えます。よって、 領土ゲーム自治領 ver において敗北する場合があります。以上から、開集合ではありません。
よって、この無限個の開集合の共通部分は開区間ではありません。
おおまかなイメージとしては、無限に共通部分を取ることにより、「開」っぽさが失われてしまうことがある、ということです。
閉集合
やっとここから 閉集合 の話ができます。閉集合とはなんでしょうか。開集合の補集合です。説明終わり。
冗談です。ちゃんと説明します。
距離距離の閉集合
まずは距離空間でのイメージから。
開集合と違うのは、円周を含むことです。これがどのような意味を持つのか。
領土ゲームにおける「開」っぽさは「自治領を必ず領土内に収められること」でした。「閉」っぽさは逆で、「敵対領土の侵入を必ず防げること」と解釈できます。
あなたは閉集合 E の領主です。あるとき、敵対勢力が「E 外のある点を中心にした円を、自分の領土 F としたい」と言い始めました。諸事情であなたは絶対に正の面積を持つ領土を与えなければいけませんが、自分の領土に侵入させる訳にはいきません。敵対領土 F を絶対に自分の領土 E 内に侵入させなければあなたの勝利です。閉集合とは、このような時に絶対に勝利できるものです。これは、開集合のときとまったく同じように後出しジャンケンができるので、あなたは絶対に勝利します。
これを数学的にシンプルに定義すると、「開集合の補集合である」になります。
つまり、開集合と閉集合は、あるグループ族(=位相空間)をどちら側から見るかの違いに過ぎません。領土ゲームの例えでも、やっていることは結局後出しジャンケンであることには変わりません。光あるところに闇があるように、開集合あるところにもまた閉集合あり……。
位相空間での閉集合
開集合で位相空間を定義したものの裏返しが、位相空間での閉集合になります。数学的な定義は以下になります。
集合 $${X}$$ に含まれる要素の部分集合(たち)からなる集合系 $${\mathcal{F}}$$ が以下の性質を満たす時、組 $${(X,\mathcal F)}$$ を $${\mathcal{F}}$$ を閉集合系とする位相空間と呼び、$${\mathcal{F}}$$ の元を $${X}$$ の閉集合と呼ぶ。
$${\varnothing,X \in \mathcal{F}}$$
$${\forall F_{1},\forall F_{2}\in \mathcal{F} : F_{1}\cup F_{2}\in \mathcal F}$$
$${\forall \left\{ F_{\lambda }\right\} _{\lambda \in \Lambda }\subset \mathcal{F} : \bigcap \limits_{\lambda \in \Lambda} F_\lambda\in \mathcal{F} }$$
ほとんど開集合と同じですが、閉集合の場合は以下のようになる点が違います。
有限個の閉集合の合併は閉集合
無限個の閉集合の共通部分は閉集合
同じようにクリティカルなポイントを出します。
無限個の閉集合の合併は閉集合にならないことがある
これらのルールは、開集合のルールをド・モルガンの法則により機械的に変形することにより導出もできますが、具体例も出しておきましょう。
1 次元ユークリッド直線で $${[-1+\frac{1}{n},1-\frac{1}{n}] \quad (n=1,2,3, \cdots)}$$ の合併を考えます。点 $${1}$$ はこの範囲に含まれないので、この点を中心に「敵対領土」を作ることができます。このとき、敵対領土の半径 ε をいくら小さく取ろうが、$${n > \frac{1}{\varepsilon}}$$ なる整数を取れば確実に「侵入」されます。よって、領土ゲーム(敵対勢力 ver)に敗北するので、これは閉集合ではありません。
開集合と閉集合まとめ
数学的な定義は既に載せたので、ここからはお気持ち全開で開集合と閉集合の定義をします。
開集合の定義は以下です。
自治領を領土内に収めるゲームにおいては絶対に勝利できる
閉集合の定義は以下です。
敵対勢力を領土内に侵入させないゲームにおいては絶対に勝利できる
そう、両者はまるでけして交わることのない、合せ鏡のような存在……
あれ?
$${\varnothing,X \in \mathcal{O}}$$
$${\forall O_{1},\forall O_{2}\in \mathcal{O} : O_{1}\cap O_{2}\in \mathcal O}$$
$${\forall \left\{ O_{\lambda }\right\} _{\lambda \in \Lambda } \subset \mathcal{O} : \bigcup \limits_{\lambda \in \Lambda} O_\lambda\in \mathcal{O} }$$
$${\varnothing,X \in \mathcal{F}}$$
$${\forall F_{1},\forall F_{2}\in \mathcal{F} : F_{1}\cup F_{2}\in \mathcal F}$$
$${\forall \left\{ F_{\lambda }\right\} _{\lambda \in \Lambda } \subset\mathcal{F} : \bigcap \limits_{\lambda \in \Lambda} F_\lambda\in \mathcal{F} }$$
両者の定義、2 番と 3 番はともかく、1 番はまったく同じじゃない?
じゃあ、空集合と全体集合は、開集合か閉集合か、一体どっちなんだい。
どっちもです。
今まで隠していたことを話しますと、実は、開集合と閉集合は相反するものではありません。えー、補集合って言ってたのに!?
これは間違ったイメージ。
これが正しいイメージ。
空集合と全体集合が開かつ閉集合であるのは、もう「そう決めた方が説明しやすいから公理として決めている」という状態に近いですが、せっかくなのであえてお気持ちで証明しましょう。
空集合
そもそも子分がいないので、自治領が領土をオーバーする危険はない。よって開集合
領土がないので、敵対勢力によって領土が侵される危険がない。よって閉集合
全体集合
領土が無限にあるので、自治領が領土をオーバーする危険はない。よって開集合
そもそも敵対勢力がいないので、敵対勢力によって領土が侵される危険がない。よって閉集合
証明終了!
ユークリッド距離空間における具体例
開かつ閉集合
空集合
実数全体
開集合であるが閉集合でない
$${(0,1)}$$
閉集合であるが開集合でない
$${[0,1]}$$
開集合でも閉集合でもない
$${[0,1)}$$
有限集合上の位相空間
開集合
さて、今までの話は、
∅(どのような文字列も含まない)
UK
UK、FR
UK、FR、DE
JP
UK、JP
UK、FR、JP
UK、FR、DE、JP(=X)
というグループ族において、各グループは開集合という話が本当かということを検討するためのものでした。定義を満たしている以上、数学的には開集合であるとしか言えませんが、せっかくなので証明します。
といっても、考え方によっては距離空間よりも簡単です。距離がなくても、集合の要素数が有限である限り、全部確認すればいいだけです。
「UK、FR」が開集合であることを証明します。
このグループに包含される点は「UK」「FR」のみです。領土ゲームにおいては、どの「中心」を選ばれようが、それを含む集合ならば後出しで好きなものを選べます。
子分が「UK」を選ぶ→あなたは「UK」を含むグループ族から「UK」を領土として与える→勝利
子分が「FR」を選ぶ→(中略)「UK、FR」を領土として与える→勝利(領土を全部取られていますが……)
あなたの勝利は確定しました。よって「UK、FR」は開集合です。
閉集合
これが閉集合でないことも確認します。このグループの外にある点は「DE」「JP」があります。
敵対勢力が「JP」を選ぶ→(中略)「JP」を領土として与える→勝利
敵対勢力が「DE」を選ぶ→DEを含む領土は「UK、FR、DE」「UK、FR、DE、JP」のみである。どちらを領土として与えても「UK、FR」に侵入される→敗北
よって、「UK、FR」は閉集合ではありません。つまり、この集合は開集合であり閉集合ではありません。
開集合系と閉集合系の違い?
開集合系であるということは、それらに含まれる集合たちの補集合たちは必然的に閉集合系になります。つまり、以下のグループ族は閉集合系と見なせます。
UK、FR、DE、JP(=X)
FR、DE、JP
DE、JP
JP
UK、FR、DE
FR、DE
DE
∅
ここで、「開集合系」と「閉集合系」の違いは一体何でしょうか。
ユークリッド距離空間では、開球という明白な「開」っぽさがありました。つまり、開区間は開集合で閉区間は閉集合です。しかし、文字列のグループ分けは恣意的です。「俺は UK が『UK、FR、DE』の中心だと思う」という人から見たら、最初に述べたグループ族が開集合ですが、逆に「俺は DE こそが『DE、FR、UK』の中心だと思う」という人がいたら、「いや、俺が考えるグループ族こそが開集合系で、お前達が閉集合系だ」と言うこともできます。現実世界における「グループ分け」がそうであるように、ここまでくるともう考え方次第です。
つまり、有限個の要素からなる位相空間においては、任意の開集合系に対して、それが(その補集合たちを開集合系としたときの)閉集合系であると考えることもできます。
開かつ閉集合
ところで、この 「開集合系」と「閉集合系」の両方に出てきた集合に着目してみます。それは(∅と全体集合を除くと)「JP」と「UK、FR、DE」です。
これは、両者に出てくることから明らかですが、もう一度領土ゲームを考えてみます。
例えば、「JP」は、自分自身を自治領に取るしかないので明らかに開集合です。一方で、「JP」に含まれない UK、FR、DE、いずれにおいても、その敵対勢力を JP を含まない範囲に収めることができます。よって、これは閉集合でもあります。
よって、「JP」は開かつ閉集合です。
その補集合である「UK、FR、DE」も当然、開かつ閉集合です。
より極端な場合を考えてみます。
「すべての文字列がそれ自身からなるグループを持っている」場合、どんな集合に対しても、自治領 ver でも敵対勢力 ver でも絶対に勝利できます。
なので、このような位相空間に属する集合はすべて開かつ閉集合になります。必ず「スキマ」があり、そのスキマに壁を作ることにより、領土からはみ出させないという目的と、敵対勢力の侵入をさせないという目的を同時に果たせるので。
という訳で、有限個の要素における位相空間の世界では、開集合「系」と閉集合「系」の区別はなく、開集合と閉集合の境目も時に曖昧になります。
開集合と閉集合まとめ
元々、位相空間における開集合と閉集合の違いは、共通部分と合併を取った時の挙動の違いでした。そして、その挙動が変わってくるのは、有限個の集合を対象にした場合と、無限個の集合を対象にした場合でした。
しかし、有限個の要素においては、そもそも無限個の集合を対象にするのは不可能です。よって、共通部分を取った時の挙動と、合併を取った時の挙動の違いはなくなるはずです。
という訳で、有限集合上の位相空間の定義を改めてまとめました。グループ族の記号は、有限(Limited)の頭文字の L とさせていただきます。
有限数の集合 $${X}$$ の部分集合たちからなる集合族 $${\mathcal L}$$ が以下の性質を満たすとき、$${(X,\mathcal L)}$$ は位相空間であり、$${\mathcal L}$$ を開集合系としても閉集合系としても $${(X,\mathcal L)}$$ は位相空間となる
$${1 \quad \varnothing,X \in \mathcal L}$$
$${2 \quad \forall L_1,\forall L_2 \in \mathcal L : L_1 \cap L_2 \in \mathcal L}$$
$${3 \quad \forall L_1,\forall L_2 \in \mathcal L : L_1 \cup L_2 \in \mathcal L}$$
だいぶスッキリしました。これは位相空間の中の特殊な形ですが、有限数の要素で具体的に考えるには見通しが良いのではないでしょうか。
連続性の確認
高校数学までの世界では連続の定義は以下のような感じでした。
$${f(x)}$$ が $${a}$$ において連続であるとは、$${\lim\limits_{x\to a}f(x)=f(a)}$$
大学数学では、以下のような定義になります。
$${\forall \varepsilon >0,\exists \delta >0 : \left| x-a\right| <\delta \Rightarrow \left| f\left( x\right) -f\left( a\right) \right| < \varepsilon }$$
全国の ε-δ ファンの皆様、お待たせしました。ようやくここで出てきます。一応、距離全般まで拡大すると以下の形になります。
$${\forall \varepsilon >0,\exists \delta >0 : d(x,a) <\delta \Rightarrow d(f(x),f(a)) < \varepsilon }$$ ※$${d(x,y)}$$ は距離関数
この記事では位相空間の説明をすることに主眼を置いているので、ε-δ 論法については深入りしません。とは言っても、今までの議論で、ほぼ同じ考え方をする ε-N 論法を使っているので、それが実質的な説明になっています。ようは、後出しジャンケンで δ を決められれば連続、そうでなければ不連続です。
しかし、これには「距離」の定義が必要です。我々はキョリの世界においても成り立つような連続性、いわば「レンゾク」性を定義したい。そのような定義はあるでしょうか。
これは結論から言うと、ありまして、以下のような定義になります。
写像 $${f: X \to Y}$$ が連続であるとは、$${Y}$$ 上の任意の開集合 $${V}$$ に対して、$${f^{-1}(V)}$$ が $${X}$$ 上の開集合となることである。
非常に便利な概念である「距離」がなくなってしまいました。どうやってこれを検証すれば良いでしょうか。全く同じ議論を先程もしたので、答えは明白です。有限個だから全部確認すればいいのです。
有限集合上の連続
冒頭の文字列集合に出てきてもらって、以下のような写像 $${f}$$ を定めます。
$${f(\text{UK}) = f(\text{FR}) = f(\text{DE}) = f(\text{JP)} = \text{JP}}$$
このとき、例えば $${f(\text{UK,FR,DE})=\{f(\text{UK}),f(\text{FR}),f(\text{DE})\}=\{\text{JP}\}}$$ などとなります。
この写像は連続でしょうか?
$${f^{-1}(\text{JPを含む集合}) = \{\text{UK,FR,DE,JP}\}}$$
$${f^{-1}(\text{JP を含まない集合}) = \varnothing}$$
これらはすべて元々のグループ族に属しています。つまり開集合です。よって連続!
結論
位相空間とは、地理的な距離の感覚を出発点として、「近さ」や「類似度」といった曖昧な距離感も含めて、それらを包括的に定義できる空間である
開集合は、集合内の任意の点に対して、自らに含まれる開集合を絶対に取れる集合
閉集合は、集合外の任意の点に対して、自らの外に含まれる開集合を絶対に取れる集合
有限個の要素からなる集合においては、開集合系の定義と閉集合系の定義は一致する
謝辞
本記事の執筆にあたり、こたつがめ(@kotatsugame_t)さんに助言をいただき、多くの点を改善することができました。この場を借りて御礼を申し上げます。
本記事が、位相空間に面食らって困っている B1 諸氏におかれまして、ほんの少しでも手助けになれば幸いです。
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