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シカとサルの生態伝える 写真集「金華山の鹿たち」
石巻市中里・三上さん|鹿角プロジェクト制作
石巻市中里の三上義弘さん(86)が、約60年前の金華山でニホンジカやサルの様子を捉えた写真が一冊の本になった。題名は「霊島 金華山の鹿たち」。東日本大震災後の金華山で復興支援を行ったボランティアによる「鹿角(ろっかく)プロジェクト」が被災を免れたネガを用いて制作、発行した。フィルムカメラで撮影したモノクロ写真が野生動物の暮らしや当時の島の自然を物語っている。
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三上さんは同市住吉生まれ。幼少期から父親に連れられ、金華山黄金山神社を参拝していた。当時の境内にはたくさんのシカがいて、見上げるほどの大きさに圧倒されたという。
しかし、境内の様子は第二次世界大戦後に一変。「矢本飛行場に来ていた進駐軍がライフルを手に金華山でシカ狩りをして遊んでいた。ジープからナツジカの頭をぶら下げて彼らが矢本に戻る姿をよく覚えている」と三上さん。おびえたシカは山へ逃げ、境内に姿を見せなくなった。
家業である金物屋の傍ら、写真を趣味としていた三上さん。金華山で撮影を始めたのは昭和39年で、現在の参集殿付近の杉林でシカの親子に遭遇したのがきっかけ。境内でシカを見かけるのは久しぶり。「ここまでシカが出てくるなんて」と衝撃を受け、手持ちのカメラですぐシャッターを切った。
以来、休日は島へ行き、雄大な自然とシカにレンズを向けた。勇ましいオスの姿、縄張り争い、子ジカの愛らしい表情、親子でじゃれあう様子。「近づいては何度も角で突かれたが、いろんな姿を見せてくれるのが面白くてやめられなかったな」と笑う。
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シカだけでなくサルも撮った。両者の攻防を何度も見てきた三上さんいわく「最初にちょっかいを出すのはサル」だそう。持参した菓子をサルに奪われたこともあった。
撮影は60年ごろまで続けた。長年、島に入っていた縁で58年―平成22年まで黄金山神社の崇敬者総代も務めた。
自宅で保管していたネガは震災の津波で全て流失したが、黄金山神社に奉納していたものが一部無事。それを知った鹿角プロジェクトが、昨年ごろから制作をはじめ、写真集にした。三上さんは「心底うれしく、この世で生きた証をもらったみたい。シカやサルの暮らし、当時の金華山を知ってほしい」と話していた。
B5サイズ、全94ページ。写真には当時を振り返る三上さんの言葉が添えられている。価格は2750円。鹿角プロジェクトのオンラインショップから購入できる。市内では5月中旬ごろから「石巻まちの本棚」=石巻市中央二丁目=に並ぶ予定。【泉野帆薫】
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