大票田の旧市で激しい舌戦 現職、元職どぶ板選 新人SNSで透明性
1週間の短期決戦である石巻市議選(22日投開票)は折り返しを過ぎ、後半戦に突入した。現職25人、元職2人、新人16人の計43人が立候補し、30議席を巡ってまれにみる大激戦。選車から聞こえる候補者の訴えは日増しに熱を帯びる。第一線で取材する記者たちが各地区の情勢を語り合った。【市議選取材班】=2回続き=
―各地区の情勢を見ていく。まず最も有権者が多い石巻地区(旧石巻市)の旧北上川を挟んで西側(西部)はどうか。東日本大震災で沿岸部が被災し、新たな市街地整備と内陸部への移転が進んだ地区だ。
■A記者 西部は、旧牡鹿町出身の候補を含めて現職12人、新人9人の最多21陣営が選挙事務所を構える。労組や政党など強固な支持母体がある候補を中心に、たいていの現職が有利な戦いを進めている。復興支援をきっかけに移住した新人が複数おり、地縁血縁が頼りの地方選でどこまで食い込めるか。独自の戦いをする候補者もいる。前市長が応援する新人もおり、また女性の候補も多い地区だ。
―蛇田地区は三陸自動車道沿いに都市化が進み、集団移転地として人口が急増した。よそから流入した若い世代や無党派層が多い。
■A記者 連日、よそからの候補者が街頭演説を行うなど草刈り場となり、厳しい戦いを強いられている現職もいる。新人も数が多い分、埋もれてしまう心配がある。前回選挙から着々と準備を進めてきた新人は、一定の票を集めていそうだ。
―東部はどうか。やはり西部と同様に沿岸部が被災し、内陸部への移転が進んだ。内陸部は農業、沿岸部は漁業と水産加工が盛んな地区だ。
■B記者 現職5人と元職2人、新人2人が事務所を置く。やはり組織票を持つ現職の陣営が安定した戦い。稲井地区はベテラン1人が引退し、他の候補に一定の票が流れる可能性がある。渡波地区は半島部と結びつきが強い地域。ベテランが漁業関係に食い込み、新人は陸上競技関係をつてに支持を広げようとしている。元職も実績と経験から基礎票を積み上げてくるだろう。
―その半島部である牡鹿、さらに雄勝地区は。漁業が産業の中心で人口減少が大きい地域だ。
■C記者 牡鹿地区は新人1人が事務所を置き、漁業関係や若い世代の評判もよい。ベテランが引退した地区だが、地盤を引き継ぐわけでもなく、他の牡鹿出身の候補者などに票が分散される可能性がある。現職1人が立候補している雄勝地区は有権者が1千人ほどだが、集団移転先から手堅く票を集める。
―河北、北上地区はどうか。河北は事業所も多く、二子団地には北上や雄勝地区で被災した人も移転した。
■D記者 河北地区は現職、新人が1人ずつ出たが、引退した現職から地盤を受け継いだ新人がかなりの票を得そうだ。一方、再選を目指す現職は危機感を強く抱く。北上地区は地盤とする現職2人のうち1人が引退。残る現職1人も地元の信頼が厚く盤石とみられ、ここでの新人は独自の戦いを繰り広げている。
―河南、桃生地区はどうだろうか。農業が基幹であり、震災後の移転需要で人口が増加している。民間のバイオマス発電事業計画では住民の反対運動も起きた。
■E記者 河南地区は旧市に次いで2番目に有権者数が多く、4年前は地元から立候補した現職2人が共に2千票を超えた。今回は新人2人が加わり、1人はバイオマスの反対運動で知られ、もう1人は元町長(故人)が父。有権者数は多いが、投票率が旧市内に次いで低い地区。新たな票を掘り起こせるかが、当選の鍵を握る。桃生地区からは現職2人が立候補。前回と比べて立候補者数は1人減り、波風が立っていない印象を受ける。合併後の地域振興を巡って不満がくすぶる地区でもあり、有権者の受け皿となれるかどうか。
―新人16人おり、全員が新人となった合併時の市議選を除けば最多。今選挙の特徴は。
■E記者 新型コロナの影響が続き、以前のように屋内で個人演説会を開く陣営は見られない。その分、街頭での演説が盛んだ。
■A記者 実質的な事務所がない新人もいる。事務所が機能していないということは、戦略がないということ。
■D記者 多くの候補者がインターネットやSNSで情報を発信しており、選挙の透明性は高くなっていると感じる。ただし広がりは限定的。電話での投票依頼など高齢者が多い地方では、昔ながらの「どぶ板選挙」が強い。
■C記者 誰が足を運んでいるのか分かりにくくするためか、選挙事務所は外から中が見えないようにしている陣営が多い。逆に雰囲気が伝わりにくく、入りにくさもあるね。
―齋藤正美市長の姿勢は。昨年の市長選では現職の多くが対立候補を推した。
■A記者 オール市民での市政運営を掲げており、為書きや後援会パンフレットへの応援メッセージを頼まれれば誰でも応じるという姿勢だ。
■B記者 市長選で対立候補を支援した県議がテコ入れしている立候補者も多い。改選後の議会構成がどうなるかが注目される。
―地縁がものをいう市議選は地域の代表を選ぶ戦いに見られがちだが、本来は「全市民の代表」。復興の先をどう見据え、何に力を入れていくのか。座談会の後半は争点と投票率を中心に意見交換しよう。