石巻・担い手センター事業 新規就農者の新妻さん 若手が挑む 半農半漁
農業後継者育成や地域交流を目的に一般社団法人イシノマキ・ファームが取り組む「石巻市農業担い手センター」事業は、今年で3年目を迎えた。農業の現場を学ぶ講座や演習などで全国から多くの人を集め、昨年は7人の新規就農者を送り出した。漁業をはじめ、異業種から就農する人や、半農半漁で生計を立てる若者も出てきた。【渡邊裕紀】
石巻市の委託を受けて平成30年から行っている事業。シェアハウスなどの拠点設備を各地に整え、農業に興味のある人たちを呼び込んで地元農業者との交流や実習を展開している。その一つの就農コンシェルジュは、農業に興味のある人それぞれにあった計画を提示し、就農までを支援している。
農業の楽しさに触れ、充実した日々を過ごす新妻さん
河北地区の石巻市中島で、4月からセリの栽培を始めた新妻拓也さん(29)=須江=は、漁師から新しく農家の道に足を踏み入れた異色の経歴を持つ。
父親の背中を追って15歳から漁船に乗ってきた新妻さんは、昨今の不漁で漁獲量が大幅に減り、収入も激減した。こうした中、以前から興味のあった農業にも取り組むことを決め、地域の農家などの協力を得て休耕地でセリ栽培を始めた。
「土地は放置されていて雑草だらけ。それをセリ田にするまでが大変だった」と振り返る。担い手不足の影響で周辺にはほかにも耕作が放棄されるなどした土地も点在。農業者全体の高齢化も重なり、その数は年々増えているという。
同センターは、新妻さんの就農を支えるため、仲介して地域の人たちとの連携や情報共有などを行う。センターには農業者の研究会や報告会などの情報も入るため、新妻さんは率先して出席し、学びながら交流の輪を広げてきた。
仲間たちとセリ田を整備し、種をまいた
「実際にやってみると農業の楽しさが実感できる。セリ田の整備や作物の成長など達成感が大きい仕事」と新妻さん。漁師の後輩たちに力を借り、セリ田で種まきも行った。ほかにもサツマイモの栽培やニワトリの飼育も精力的に行い、直売所などで販売。地域も協力を惜しまず、新妻さんの挑戦を支え続けている。
農業の楽しさに触れた新妻さんだが、今でも漁師として海に出ている。朝は魚介類を獲り、昼からは農家として土を耕す。「二足のわらじ」を履く多忙な日々で睡眠時間も3時間ほどというが、疲れよりも充実感が勝っているという。
「いずれは米の栽培にも挑戦し、自分でササニシキを作ってみたい」と新妻さん。さらに「法人化し、仲間や地域の人たちと二人三脚で農業ができればうれしい」と将来を見据える。地域の自然に魅せられた新妻さんの目は、未来に向かって輝いていた。
同センターで広報と企画のコーディネートを担当する石牧紘汰さんは「今後も新規就農者を増やし、遊休農地や耕作放棄地、空き家の有効活用を進めていきたい」と話していた。
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