🌻🌷🌸祝祭が始まる🌼☀️🥩

※これより先はアリ・アスター監督最新作「ミッドサマー」のネタバレしかない感想文です。まだ観ていない、これから観る予定の方は注意して下さい。
ちょっとグロテスクな話もしてるよ。

2月28日夜、今話題のミッドサマーを観てきました。
事前に「家族に不幸があった人は観ない方がいい」「追い詰められてる人が観たら自殺のきっかけになりかねない」「最悪(褒め言葉)」といった感想を見かけていたのでハラハラしながら観に行ったのですが、いや〜〜凄まじい映画だったわ…！
しかし興味深かったのも事実。なので非常にまとまりが無い「ここがすげえ！」を羅列していこうと思います。よろしくね〜

ゴア描写や話の怖さよりも、音が怖い

「明るい事が怖い」がミッドサマーのキャッチコピーですがぶっちゃけそれ以前の問題だわと思った。とにかくBGMで流れる不協和音が凄まじい。強制的に不快感と不安感を煽る。
というより「ミッドサマー」は音の使い方が非常に上手い。どのタイミングでどういう音(決してBGMとは限らない、環境音も含む)を使えば観てる側が不安感が増すのか分かってるだろ。序盤、ダニーの妹が両親を巻き込んで自殺しそれにショックを受けたダニーがクリスチャンに泣きながら電話するシーンがあり、彼が電話出てすぐ唸り声のような彼女の泣き声を聞く事になるのですが、言葉にする事が出来ないのだがこれがすっごいんだわ。あ、まずいって問答無用でこっちに分らせてくる。
そして両親と妹が亡くなってるシーンで流れるBGMが凄まじい。胸が重くなるような音が劇場中に流れる。これまだ序盤なのだが？
メイ・クイーンを決めるダンスバトルでも音楽が流れるのだが、これが非常に重厚で軽快とは程遠く、映像と相まって不安感を煽る煽る。このまだと絶対まずい事になる、だけどどうすれば逃げられるのか分からない。そんな気分になった。
勿論いい感じに救済のようなBGMも流れるのだがそれがよりにもよってクライマックス、ダニーがクリスチャンを焼き殺すシーン。確かにダニーにとっちゃ救済だったかもしれないけどそれでもここで使うかそのBGM。それも段々不穏なものへと変わっていく。馬鹿野郎………。

音楽への注意喚起をほとんど見なかったので、私は声を大にして言いたい。音が怖い。

個というものを徹底的に潰した結果生まれた多様性では？

ミッドサマーの舞台、ホルガ村ではプライバシーというものが存在しない。みんなで笑うしみんなで泣くし、人生すらも大っぴらに公開されている。
確かこんな感じだった気がする(うろ覚えでごめん)

0〜18歳
子供の時期。人生の春。
18〜36歳
若者の時期。人生の夏。巡礼する為にホルガから出るのもこの年代。
36〜54歳。
労働者の時期。人生の秋。ホルガ村で働く。
54〜72歳
師の時期。人生の冬。

そして72歳以降に生きていた場合、これから生まれてくる子供の為に命を譲り渡す、という名目で崖からフライハイ。彼らはこれを「生命の輪」と呼んでいた。
そしてプライバシーも無けりゃなんでもみんなででやる村なので「赤ん坊はみんなで育てる」し「セックスするにはライセンスが必要」だし「セックスする時すらみんなが見守っている」ような感じである。世界一嫌なセックスしないと出られない部屋だな…。

ただこれ、確かにスゲ〜嫌なのだが「子供を作りホルガ村の伝統を受け継いでいく」という一つの目的の為なのだ。もっと言っちゃえばその目的が達成出来るのならそれまでの過程についてはペレの言う通り相当自由な村だなと思った。私はね！

マヤは自分でクリスチャンの精子を欲しがりシヴに伝えシヴがそれを許可した。言ってしまえば家族であるマヤの意思をとことん尊重したのである。家族じゃないクリスチャンの意思は完全に無視してるけど…。
おそらくあの「運命共同体」な村では、例えば村人に性的マイノリティの人が居たとしても「じゃあ無理に異性とセックスしなくていいよ」に自然とシフトしていくのだと思う。子供作りは他の人に任せて、他の役割を果たしましょう、と。
ダニーがセックスしないと出られない部屋を覗く前に村人の女の子がダニーを止める際「私たちには関係のない事よ」と言っていたので多分この解釈は間違ってない。
おそらくダニーと一緒にいた女の子達はまだセックスのライセンスを取得していないか、そういうのに興味がない子達なんじゃないかな。

一人を殺したら一人を産む、という必要最低限の人数しか求めないホルガ村は「産めよ孕めよ繁栄せよ」とは無縁、現代社会の「みんな子供作って当然だよね」という無言の圧力とは真逆なんだわ。
一つの目的を達成する為にどの方向から関わってもいいんだから、成る程ミッドサマーの象徴でもある輪だわと思った。違ったらごめんね。

ある意味どんな人間でも「目的の共用」さえ出来ればスゲー生きやすい世界だな、と。

でもやっぱりホルガ村は嫌だ。

ここまでホルガ村そこまで悪くないんじゃない？とは言って来たがやっぱりホルガ村は嫌だ。行きたくない。

現代ではよく「他人の思想、考えを否定しないで受け入れましょう」とは言うけど、じゃあホルガ村の思想や考えや伝統や文化を受け入れられるか？私は無理です、野蛮だと言いたいしみんな間違ってると言う。
でもホルガではずっと受け継がれて来た当たり前の事だしホルガの外から来た人たちから「あなた達の伝統は間違ってる」と言われたところで何それ？あんた誰？って感じなんですよね。当たり前だ。
この映画、そういうとこがえげつない。他人をどこまで受け入れられるかなんて人によって違うし、どこまで受け入れて欲しいのかも人によって違うという当たり前だけどどうしようもない断絶をめちゃくちゃ丁寧に描いてる。

ダニーは家族を一度に亡くし非常に不安定で、恋人であるクリスチャンに依存するけど、クリスチャンが自分を鬱陶しいと思っている事に薄々気が付いている。
クリスチャンはとにかく不安がるダニーを理解出来ない。鬱とかそういうのとは本当に無縁な人なんだと思う。
ダニーはただクリスチャンに共感して欲しいんだけど、クリスチャンにはそれが一番出来ない。
クリスチャン、なんかキャラクター的に現代社会における「他人の考えを否定し傷付けてはいけない」「でも個として自立し責任を持ちましょう」という矛盾を表してる気がする。自分らしく生きましょう、でも人を傷付けてはいけませんって確かに理想だけどやっぱり死ぬほど難しい事なんだよ。でも今ってそういう事を強要しつつある世の中だなぁと思う次第。クリスチャンみたいに主体性が無く流されて生きてる人間、めちゃめちゃいっぱい居るよ…。

そんな中ホルガ村は「みんなで」共感し、泣き笑い苦しむ。言ってしまえばホルガはかなり前時代的な思考だけど、ダニーが一番欲しかったものはそれなんだわ。ダニーは多分ずっと、現代の思想の中で生きていくのが苦しかった。クリスチャンが自分を理解出来ないのは仕方ないその考えを否定しちゃ駄目だと己を責め、自分で立って歩かなくちゃいけないと思って、でもそれが出来なくてまた自分を責めて葛藤して、すごくすごく苦しかったんだと思う。
そんな時欲しかったものをお出しされたらそりゃ依存するしクリスチャンを焼き殺すし最後のあの笑みになるよなぁ…と納得してしまった。

でもホルガ村が信仰と伝統を守り清く正しく生きてる村だとはやっぱり思えない。ペレの「僕の両親は焼け死んだ」の発言、夜になるたびに響く赤ん坊の泣き声、ダニーやクリスチャンに飲ませた薬入りの飲み物、「痛みを感じさせない」と言っていたのに最期絶叫しながら焼け死んだ生贄の一人、多分あの村は相当嘘が蔓延してる。
さっき言った「一つの目的を達成できればどの方向から関わってもいい」が最悪の方向で成されてるのがこれかな、と。

ペレのご両親が「焼け死んだ」と言ってる以上おそらく生贄になったんだろうな。90年に一度の祝祭と言っていたが、どう考えても計算が合わない。多分あの祭り自体はもっと短いスパンで定期的に開催している。「外の血を入れる」と言い村には産まれたばかりの赤ん坊もおり近親で交わるのは意図的に障害を持つ子を作る時だけらしいので、下手したら毎年開催してるんじゃない？
90年に一度、一生に一度と言うけど多分そう言って外の人間を惹き寄せてるだけなんだと思う…。

そして何が一番嫌って彼らから悪意というものを感じないところなんだわ。

外からやって来た人間の皮を剥ぎ、背中から肺を飛び出させ、同意も得ずに生贄にした。でもそれは姥捨山のごとく崖から落ちた老人達の儀式の時「ただ老いて死ぬより次に命を与える事は大いなる喜び」と言ったところで理由はもう判明してる。彼らにとっては喜びなんだわ。善意なんだわ。これはとっても良い事だからあなた達も仲間に入れてあげるという純粋な親切心なんだわ。SIRENかよ。
人間が目も当てられないような悪逆に走るのは悪を自覚した時では無くこれは善だと信じた時である。私は正しい、私は正義、これは正しい行い、そう信じて疑わない時、外から見るとその人間はとんでもなく醜悪に見える。そういう、人が見たくないものをよりにもよって明るい真昼間に隠しもせずお出しされる。そりゃ気分悪くなるって…。
ただ作る側だって絶対メンタルやられるだろこれと思ったんですけど、アリ・アスター監督なんで平気なの？すごいな？

うーん思ってた以上にまとまりがない感想文になってしまったな。私が思った事は以上です。

すごい映画なのは確かです。私はあともう一回…二回…？くらいは観たい。壁にかけられている絵とかも伏線らしいので。
ただ「これは無理だ」と思った人の気持ちも分かる。映画館という声も出せない逃げられない場でグロやエロとはまた違った人間としての醜く出来れば見たくないものを次々とお出しされるんだから。監督〜〜！！もしかしてそれ狙ってます〜〜！？

だからセラピー映画か、と言われるとそんな事はないです…私的に…。
でもお伽話だと言われると納得です…。
ホラー映画かと言われるとホラーでは無い。癒されるかと言われればそれも違う。上手く言葉に出来ない。どのジャンルに当てはめていいのか分からない。多分「ミッドサマー」はそういうところが怖いし駄目な人は本当に駄目だしでもそれこそが魅力なんだと思います。分からんけど…。

それにしてもThe Strange Thing About the Johnsonsとミッドサマーの二つしか観てないのにアリ・アスター監督が家族というものを呪い性愛というものを非常に嫌悪しているのがスゲー分かる。

ここまでセックスを「なーにが愛の営みだよこんなもんただの粘膜接触だろうが！！子供を作るための作業だよ作業！！」と言わんばかりに描写したのもう一周回って拍手しかない。
マヤがクリスチャンに恋をしているかも、みたいな描写がセックスに至る前に全部終わってたのが凄まじかったな…。