【着ぐるみ制作】ケモノ着ぐるみのはじめかた【アドカレ1日目】
この記事は日陰工房アドベントカレンダーの1日目の記事です。
響音カゲです。
ケモノになってみたいとか、憧れの子になってみたいとか、そういう思いを大人になっても忘れられなかったあなたに向けて、この記事を贈ります。
可愛いキャラクターを見てずっとワクワクしていたあの頃から、ドキドキの気持ちを変わらず持っている人って、少なくないと思います。
大人になっても好きな気持ちはなかなか変わらないもの。
Twitterで着ぐるみを見かけて、自分のドキドキを形にした人がこんなにたくさんいるんだ! と驚いた人も少なくないと思います。
自分だけの好きを詰め込んだ子を作りたい! という気持ちで、絵を描いてみたり、小説を書いてみたりした人。
他の人の素敵な作品をいっぱい見て、感動したり、こんな姿になってみたいと想いを馳せた人。
そんな夢の一つとして、着ぐるみっていうものがあって、同じ思いを持つ人がいっぱいいるからこそ、着ぐるみ制作がここ日本でも少しずつ広まっているんじゃないかなと思います。
みんな可愛いもの大好きだからね。
この記事では、ケモノ着ぐるみ趣味のはじめかたについて書いていこうと思います。
そもそも、ケモノ着ぐるみとは?
ケモノ着ぐるみは、アメリカ発祥のファースーツが元になっています。
アメリカではこういった集まりのことをファーリー・ファンダム(ケモノ好きの趣味の集まりみたいなもの)と呼んでいて、そのうちの一部の層が着ぐるみにも興味があって着ぐるみを持っている、という感じですね。
この文化が日本にも入ってきた、というのが大雑把な経緯です(ちゃんと話すとSF大会の話とかも出てくるのでそれだけで記事が書けてしまう)
日本でも、今でこそケモノ着ぐるみも作り始めたよって人がだいぶ増えましたが、ひと昔前、2010年の頃はもっと着ぐるみの認知度は低かったと思います。
その頃は、着ぐるみをやっている人とそうでない人の間の交流がもっと薄かった感じはします。着ぐるみの存在はちらと見かけたことがあるぐらいで、基本は同人誌即売会とかしかイベントは知らないよ、みたいな人もたくさんいましたしね。
自分のケモノキャラクターの着ぐるみとか、ケモノ系のキャラクターの二次創作着ぐるみとかをケモノ着ぐるみとこの記事では呼んでます。
ケモノ着ぐるみってテーマパークとかの着ぐるみとなにが違うの?
テーマパーク等の着ぐるみと違って、基本的にオリジナルキャラクターです。テーマパーク等の着ぐるみが2~3等身が多いのに対して、ケモノ着ぐるみはだいたい4~5等身、リアル系だと6等身ぐらいでもっと人型に近いです。もちろん例外もいるんですけど、言い出すとキリがなのでこの辺にしておきます。
等身の大きさが違うから、作り方も構造も全然違います。テーマパークとかゆるキャラの着ぐるみだとエア系とかも多いんですけど、ケモノ着ぐるみは概ねウレタンとか3Dプリントとか粘土とかが多いです。
造形もケモノ系のイラストに近いですね。リアルな動物というよりかは人と動物のちょうど間ぐらい。
下にあるかびーにょさんの絵でいうと、だいたい2~3.5ぐらいかな?
あとは、デザインも基本的には自分のキャラクター(ファーソナ、うちの子、OCとかっていうやつですね)です。企業のキャラクターはPRのためとか目的がありますが、自分のキャラクターはそのオーナーさんの好きを詰め込んだような子ですね。
ケモノ着ぐるみの種類
ケモノ着ぐるみには、ざっくり分けてフルスーツとハーフスーツ(パーシャルスーツ)があります。
フルスーツ
全身を覆うタイプのがフルスーツ、頭と手足としっぽだけというのがハーフスーツです。
フルスーツのほうが値段は2倍以上します。おおよそ自作で10万から、個人工房の安いところで20万~、アトリエあまのじゃくとかだと100万以上するのもざらです。素材とか作り方とかこだわれば、いくらでも高くなります。
2020年ぐらいからファーが値上がり、2023年末ぐらいからひどい円安なので、最近はさらに相場が高くなっている印象です。
ヤフオクとかだと15万ぐらいから買えることもありますけど、フルスーツはサイズが合うかどうかとか確認できないのでかなりリスキーです。
身長だけでなく、股下、肩幅、腕の長さ、頭の大きさなど、詰め物でカバーできない体格の違いが影響してくるためです。
サイズが合わないと衣服みたいなシワができてすごくみっともないです。
ハーフスーツ
ハーフスーツはだいたい安いものだと10万円ぐらいから手に入ります。自作すれば、頑張れば5万ぐらいで済ませられないこともないです。
衣装を着る前提なので、服のセンスが要ります。頭が人間よりも一回り大きいので、普段着と合わないケースが結構多いです。頭のサイズに合わせた服を選ばないといけないので、衣装オーダーしたりとか、ちゃんと揃えようとすると結局フルスーツ並にお金がかかります。服って分かる人には値段が見えるからね……。
レディースだったらとりあえずメイド服やら量産型ワンピース(DearMyLoveとかのやつ)やら着とけば安いものでもそれなりには可愛いんですけど、メンズは選択肢が少なくて困ります。
ハーフの服に関しては、12月の別日の連載で触れる予定です。→12/5に書きました。
その他
他にも特殊な例はあるけど、そういうのは一般論で語れないので自分で調べてなんとかしてください!
作り方
ケモノ着ぐるみではデザイナー、制作者、オーナーが一緒のこともあれば、全部分かれていることも珍しくないです。
やり方も、
全部自作する
デザインを買って自作する
工房が出しているデザインの子を作ってもらう
工房と打ち合わせてデザインを作って制作してもらう
デザインを買って、工房に持ち込みする
自分でデザインを作って工房に持ち込みする
ヘッドだけ工房に作ってもらってボディは自作する
最初はハーフスーツ(頭と手足としっぽだけ)で出して、後からお金がたまったらボディを作る
etc…
と、どこまで自分でやるか、というのはものすごく幅があります。
このあたりの妥協点は、自分の環境などから現実的な落とし所を付けていく必要があります。
まず、どういう子が作りたいのか、何のために作るのか
まずは、どんな子がほしいのかと、なぜほしいのかを考えましょう。
例えば、単にぼんやりと「着ぐるみを着てみたいな~」ぐらいだったら、はつじゅー会というイベントが獣化体験をやっているので、そこで着ぐるみを着てみると良いと思います。
関東まで行けない人は、他に着ぐるみを持っている知り合いがいれば着せてもらえるかもしれません。ただ、そこまでの人望を作るのって何かしら一芸必要になってくるので、お願いすれば着せてもらえるようなものでもないです。学生なら、ファーリー研究会のようなインカレサークル(大学をまたいだサークル)に入ってコネ作るのもよいかもしれません。自作してる人も多いので教えを乞うのもよいでしょう。
人によっては獣化してみたら「なんか思ってたのと違ったな」とか「やってみるとキツイな」とかってなるかもしれません。逆に鏡を見て「めっちゃ楽しい!!!」ってなるかもしれません。
着ぐるみを実際に体験して知っていくところからスタートするのは、ゆるやかな始め方として1つの正攻法です。着ぐるみイベントでは生身の時間もすごく長いし、キャラをお迎えする前からできるだけコネを作っておいたほうが、後々いろんなイベントに行ったりするときに役立ちます。
獣化体験まではできなくとも、実際の着ぐるみを適当なケモノイベントに行って見て、それがどういうものなのか、彼らは何を楽しんでいるのかというのを知ったほうがいいです。着ぐるみ自体、数十万掛かるような趣味なので、始めてから「やっぱあんまり楽しくないからいいかな……」ってヤフオクで着ぐるみを売ってる人を見かけますが、これはイベントの楽しみ方が思っていたのと違うってなったタイプの人ですね。
別にケモノイベントって着ぐるみがない状態で行っても誰も怒らないです。というか、日本のケモノイベントはアメリカやヨーロッパと比べて着ぐるみ人口が極度に多いと言われています。特に、JMoFは着ぐるみ参加率が異様に高く、体感7割ぐらいいた時期もあったそうです(詳しくは知らない)。海外だとイベントやコンベンションに行く層のうち、着ぐるみを持っているのは多くて3割ほどだと言われています。Furscienceによれば、着ぐるみを持っている層はファーリーのうち約10〜15%と言われています。(参考:https://furscience.com/research-findings/fandom-participation/2-8-fursuits/)
着る着ないは別にしても、気軽にイベントに行ってみて、着ぐるみがどういうものなのかを交流を通じて体験してみてください。
着ぐるみがほしい欲望は高まった。どうするか
ここで、実際に自分のキャラがほしいとか、ちやほやされたいとか、着ぐるみ着てダンスしたいとか、色々欲望が出てくると思います。自分が着て活動したい側の人間っていうのを確信できてからでも遅くはないです。
この段階で、着ぐるみを着て何をしたいのか、という点を明確にしておきます。これによって、着ぐるみのデザインに影響が出てくるからです。
余談ですが、キャラクターは最初に発表したときのツイートが特に伸びやすい傾向があります。最近はキャラクター数も増えてきて埋もれがちなのですが、キャラクターで人気者になりたいのであれば、デビューまでにある程度活動はしておいたほうがよいです。
例①:着ぐるみでダンスをしたい人の場合
ダンスがメインの場合、視界や動きやすさをある程度確保する必要があります。また、見栄えもある程度あったほうが良いです。
フルスーツだと、ダンスの種類によっては細かい動きが見えなくなりますので、若干ダンスのジャンルを選びます。その代わり、着ぐるみらしい体型を作れるので可愛さはアップします。
ハーフスーツだと衣装をかなり自由に着れるし、動きやすいです。かっこいい系のキャラクターだとハーフスーツでも映えるかもしれません。
TikTokにダンス上げたりとかしたいので、フルスーツを買うことにしようかな、みたいな感じで考えればいいです。
例②:絵を描いている人の場合
普段から絵を描いていて、キャラクターもいっぱいデザインしているタイプの人を考えます。
このタイプの場合、絵のキャラクターを再現したいというケースが多いですね。
絵の再現度の高い工房さんを探すか、絵が上手い人は立体造形力が元々ある程度あるので、自力で造形しても最初からそれなりに良いものができると思います。
この場合は、着ぐるみに合わせて自分のキャラクターのデザインとか等身とかを合わせて落とし所を考えると、作るのが多少楽になると思います。
絵を描いている人なら身近な友達に着ぐるみを作っている人がいると思うので、その人の話を聞いてみましょう。
例③:とりあえず作ってみたい。作ったものを見てもらいたい。
ガチガチのクリエイター器質のタイプですね。見たものをみんなに見せてちやほやされたいのはわかります。私はこれです。このタイプの場合は、とりあえずヘッドだけ作ってみたほうがいいです。現実を見ましょう。さすがに厳しすぎる。諸説ありますが、初心者なら心が折れにくいと言われているのは難易度順に着手する手、足、胴体、頭の順で作ることかと思います。ハーフで出したい欲を抑えきれないぼくみたいな人は頭から作ってもいいんじゃないでしょうか。
自分の理想的なキャラクターがあるタイプだと思うので、(自分で描けないなら)そのデザイン画を描いてくれる人を探すことと、そのデザインを再現できるだけの技量を身につけるのが大切になってきます。造形力はすぐには上がりませんからね。
時には、自分に合ったやり方を探すために回り道する必要も出てきます。険しい道程になるでしょう。
それぐらい、「自分が作りたいキャラを自分で作る」というのはキツイ作業です。このタイプの人間は着ぐるみ自体に期待しているものが大きいので、志が高ければ高いほど普通に挫折します。
特に、2022年以降は急激に自作のレベルが上がっています。自己満足であれば関係ありませんが、自作でキャラを見てもらいたい、というのは才能と歴戦の猛者がひしめく相当な修羅の道です。
例④:学生で金がないけど、着ぐるみを着たい。
自分の姿に満足できなかったりとか、こういう姿になりたいというそのままの欲求で着ぐるみを作るタイプの人です。あとはSNSで見かけて衝動的に欲しい、と思うとか。
とりあえず作ってみると良いと思います。失うものもないし、時間もまだたっぷりある時期ですし。
唯一のハードルは金銭面と親と広さだと思います。金銭面はフルスーツなら最低でも10~15万円、ミシンまで揃えるとなると20万以上は掛かります。実家暮らしとかで金銭的にも余裕がある状態じゃないとかなりキツイです。
着ぐるみは作って終わりじゃなくて、イベントで出して初めて見てもらえます。
着ぐるみにお金を使うだけじゃなくて、イベント費用とか、カメラ代とか、そういうところまで考えてお金の使い方を覚えていけるといいんじゃないかなと思います。
あくまで趣味なので、本業の学業がおざなりになったり、衣食住を極限まで切り詰めるようなことがあってはなりません。卒業後の職業の選択肢が狭まるほど、趣味に費やせる時間もお金も失われます。自分の力や財力で可能な範囲で楽しむようにしましょう。
最後に、親と部屋の広さに関してはどうしようもありません。社会人になって、独立できるまでは我慢するしかないです。
例⑤:VRChatのキャラをリアルに降臨させたい
デザインがもうある例ですね。
VRChat用のモデルはものによっては立体物への応用や二次的著作物の許可がなされているものがあります。こういったキャラですと、元の3Dデータを活用して型紙や3Dプリントヘッドシェルを作成することもできます。
そうでない場合は権利者に許可を取りましょう。
実際に、ぼくのヨナキイヌの桜雨はオリジナルの作者であるHoshinoさんにお願いして、許可をいただいたうえで制作しました。
ヘッドシェルと足は3Dプリント、全身の型紙は3Dモデルを加工して制作しました。
3Dモデルを参考にできるので、資料には困りません。ただし、着ぐるみとして着れるようにするために再デザインは必須です。
そのうち、詳しいことはnoteか本に書こうと思います。
こういう感じで、自分の環境に当てはめてみて、それからどういう着ぐるみを作るか考えても遅くはないです。
着ぐるみを作る環境には広さも金も要ります。コミッションして買ったとしても、置き場所も取るし、イベントに行かなきゃ宝の持ち腐れです。
せっかく何十万も趣味に使うなら、いったんよく考えてみてください。
自分のアイコンとしての着ぐるみ
距離感は人によって違うけど、着ぐるみ持ってる人ってだいたい最初の1, 2体目が自分の代理キャラみたいなポジションに落ち着いてる人がそれなりに多いです。
自分の1つの姿として着ぐるみを持ちたい、という気持ちは、ケモノ系やってる人なら考える人は結構多いんだと思います。
2000年代は着ぐるみ自体の希少価値が高く、着ぐるみを持っていること自体がステータスでした。
今は着ぐるみを持っている人なんてごまんといます。着ぐるみを持てば世界が変わるかというと全然そんなことはないです。結局、着ぐるみを使って何をするかという話になります。
他の人との交流の道具として使うもよし、自分の好きを体現するもよし、着ぐるみという作品を作り上げることを目標にするもよし。
自分なりの活動方針というのをしっかり立ててから、着ぐるみを買うなり作るなりすると、より現実的に夢を叶えられるんじゃないかなと思います。
明日の記事は「【着ぐるみ制作】素人でもできる、着ぐるみのデザインのやり方」です。
それでは。
サムネイルは @yeah_tuna さんに撮ってもらいました。
2024/08/18 追記、一部内容を修正