完全リモートワークの会社を2年間やってみて

目を覚ますと雨がふっている。21世紀だというのに、あいかわらず歩くと靴の中が濡れてしまう。出かけたくない。自宅の机で仕事をする。しばらくすると雨は止み、お昼には青空が広がる。ランチを食べるついでにオフィスに行って仕事をすることにする。今日は近いほうのオフィスで。歩いていると通りすぎるバスにたくさんの人が乗っている。朝の雨の時間帯だったら湿度の高い空間にギュウギュウに詰め込まれて運ばれていただろう。人類に雨の日の通勤は負荷が高すぎる。そんなことを考えながらランチを食べる。午後はオフィスで仕事をして、夕方になると読書のためにカフェに移動する。スマホに時折とどく仕事の連絡に返信をする。

うちの会社ではオフィスには「来てもいいよ」ということにしている。ミーティングの日以外はオフィスに来ない場合でも連絡する必要はない。自宅で仕事をしてもいいし、気分を変えたければカフェや公園でもかまわない。一番性能のよいMacBook Proを支給しているので、モバイルWi-Fiがあればどこででも仕事ができる。会社を立ち上げて2年間、ずっと完全リモートワークでやってきた。通勤をしたくないというのが一番の理由だっただろうか。それからメンバーにはみんな子どもがいるので、自宅で子どもの世話をしてほしい。ということにしているのだけど、そもそもオフィスに出社するという発想が僕らにはなかった。

ここで言うリモートには2種類ある。クライアントがリモートにいる場合と、チームメンバーがリモートにいる場合だ。うちはどちらも合わせた完全リモートになっている。クライアントはすべて県外にいて、ビデオチャットで打ち合わせをする。出張してミーティングをすることもあるが、プロジェクトがはじまって終わるまで一度も物理的に顔を合わせないクライアントもいる。チームメンバーについては、社員のひとりは市外に住んでいるので基本的に出社はしていない。大きなプロジェクトではリモートチームを組んでいて、東京、京都、福岡、宮崎の最大4拠点でプロジェクトを進めていた時期もある。外注をお願いするときにも居住場所にはこだわらない。基本的にはテキストチャット、たまにビデオチャットでコミュニケーションをとる。

リモートワークには大きすぎるメリットがいくつかある。一番大きいのは、通勤がいらないということだろう。朝の混雑でストレスがたまることがない。雨の日はとくにそうだ。朝の時間をゆっくり使えるので、子どもと接する時間にしたり、逆に早朝からロケットスタートで仕事をしたりできる。日中は休憩時間に家事をこなせるので、仕事と家事育児をひとりでこなすシングルファーザーには自宅で仕事ができるのはうれしい。子どもが体調を崩せばすぐに学校に迎えに行き病院に連れて行くことができる。メンバーによっては住む場所が自由に決められるというメリットがある。僕は環境のよい小学校の校区に住みたかったし、実家の近くに住むメンバーもいる。仕事に関しては、割り込みなしでひとりで集中したいときには、自宅のほうが実現しやすいだろう。それから、気分が落ちていて人と会いたくないときに、無理して会わなくてもいいというのもある。

反対にデメリットはなにがあるだろうか。人によっては孤独感を感じてしまう人もいるらしい。それは社内でひとりだけがリモートワークだとそう感じるので、全員がリモートで働いているとそれほど孤独になることはないのではないかと思っている。ひきこもりがちになるため、心と体が衰えるということはある。セキュリティに気をつければ近所のカフェなどで仕事をしてもいいので、1日に1回は外に出るようにしたい。コミュニケーションが不足するのは、チャットである程度補える。ある程度というのがポイントで、やはり対面で会話したときの情報量には適わない。ここがリモートワークの一番の問題点かもしれない。チャット上で雑談はするけれども、対面での雑談からアイデアが生まれる現象を再現するのは困難に感じる。単に情報共有という点で言えば、リモートのほうが気をつけて資料を残すようになるので、オフィスで口頭で済ませるよりも情報共有のモレは少ない。

自宅で仕事をしていると、仕事とプライベートのメリハリがなくなってしまうという意見がある。けれども、オフィスにいても常に集中しているわけではないし、すき間時間にSNSをやったりしているのだから、そこはリモートワークだからという問題ではないと思う。メンバーの主に心の状態を把握しづらいちおうのも、リモートワークに限らない話だ。同じ場所にいたとして、他のメンバーがどんな状態なのか把握できているだろうか。それよりも、テキストチャットに業務連絡とは別のチャンネルをつくって、そこで各自の思考のだだ流しをするとよい。たとえば「いまこれをやってるんだけど悩んでいてつらい」という現状をチャットに投稿していく。そのチャンネルは他のメンバーが頻繁に見るものではなく、気が向いたときにながめて「いまそこで悩んでるのか」とか「なんだか調子がよさそう」というのを知ることができればいい。以前から「1 on 1」というメンバーが話したいことを話すビデオチャットを週に1時間やっている。そこでは仕事の進捗確認ではなく、リモートメンバーの「感じ」を把握するようにしている。

僕らは人を採用するときに「性格のよさ」を重視する。とくに、素直であることは重要な要素だと考える。離れて仕事をしていると進捗の確認がしづらい。素直にありのままの進捗を報告してもらいたい。リモートワークだとメンバーがサボっているんじゃないかと疑うマネージャーもいるかもしれない。僕らはメンバーはきちんと仕事をしていると信じるところからはじめている。まあ個人的には期日までにやるべきことが終われば、残りの時間は遊んでいてもいいと考えているのだけど。それから性格で言うと、コミュニケーションの基本がテキストチャットになるので、攻撃的だととらえられるような発言をしがちな人だとやっていけない。逆に発言に感情が見えづらい人も難しい。テキストでの表現能力は重要だ。そういう意味では、Twitterをうまく使っている人のほうが向いている気がする。リモートワークをするためには「リモートワークをするスキル」が必要だと考えている。

すでに完全リモートワークになっているのだけど、もっともっと発展させていきたいと考えている。ひとつの問題は、職種が限られていること。ソフトウェアエンジニアだからこの働き方ができるのであって、これを他の職種にも広げようとすると工夫が必要だ。そしてメンバーを増やしたい。仕事のスキルに加えて性格のよさも重視しているので、現状では採用が難しい。けれども居住場所を問わなければチャンスはあると考えている。それから、個人的にはノートパソコンを持ち歩かずに手ぶらで移動して、スマホだけで仕事ができる環境をつくりたい。何年かしたら子どもたちも手が離れる。そうしたら国内外を旅しながら仕事をしたい。そのときには荷物を減らしてフットワーク軽く移動したいと思っている。いまはその準備期間だ。こういう明るい未来を妄想する一方で、子育て中の多くの親たちがリモートで働けるようにするためにはどうすればいいかという解決しづらい問題も常に頭の片隅にあったりもする。みんなリモートワークでしあわせになってほしい。そのためのノウハウをためていくのが、いまの僕らの役割なのだろう。

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宮崎ひび
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