想い出をたたえた木
木のことが書かれた本は、やっぱり気になってしまいます。
『年輪で読む世界史』
バレリー・トロエ 著
佐野弘好 訳
築地書館
年輪年代学研究の第一人者である著者が、その手法と、それによって解明された自然環境や人類の歴史を教えてくれます。
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木の年輪の数を数える年輪年代学。
年輪ひとつひとつの層には、年ごとの地域の記憶が残されています。
たとえばアメリカ南西部なら、年によって多湿気候と乾燥気候が交互につづくので、幅広い年輪の年と幅の狭い年輪の年がくり返され、一連の年輪パターンができていきます。
この年輪のパターンには明瞭な特徴があるため、地域のすべての樹木で認識可能な、わかりやすい産地のサインになります。
暴風やハリケーンで木の葉が落とされ、枝が折られると、樹冠の損傷が年輪に記録されます。
大量の葉を一度に失って光合成能力を欠いたその木は、樹冠をふたたび完全に成長させるときまで成長の抑制がつづき、一連の年輪のなかで目立つ歪みをつくります。
そうした年輪の特徴は、考古学的または歴史的木製品の年代を測定するときの、重要な手がかりになります。
暴風やハリケーンのほかにも、旱魃、熱波、降霜、洪水、地震、火山噴火、森林火災や、原子力発電所のメルトダウンまで、木部組織が受けた影響は、ある特定の地域の永続的な記憶として、年輪に残されます。
また、年輪は、樹木の化石である珪化木や炭化した木材からも読みとれるそうです。
1939年に、オックスフォードのアシュモレアン博物館に寄贈されたストラディヴァリの伝説的なヴァイオリン 「メシア」 (1716年製作) は、1855年以降のある期間に、パリの楽器商で、楽器の複製でもよく知られた、優れたヴァイオリン製作者のジャン・バプティスト・ヴィヨームが所蔵していたことから、その真贋に異議が唱えられます。
決着がついたのは2016年。
アシュモレアン博物館のメシアの年輪は、ストラディヴァリが製作したヴァイオリン 「Ex-ウィルヘルミ」 (1724年製作) の年輪パターンと合致することが、年輪年代学者によって明らかにされ、本物であると裏付けられました。
過去の気候を研究するにも、年ごとの確実な記録を提供できる樹木の年輪は、氷床コア中の堆積物、湖底堆積物、サンゴなどの生物学的・地質学的なほかの記録媒体とともに、重要な情報源として用いられます。
フロリダ半島の南端沖にある島列、フロリダキーズ。その島のひとつ、ビッグパインキー島は、カリブ海に近い場所柄、たびたびハリケーンに襲われます。
ビッグパインキー島の年輪記録と海難事故の記録から、過去500年におよぶカリブ海でのハリケーン発生状況を復元した著者らは、ハリケーン発生件数減少の時期が、太陽黒点数が少なかった17世紀後半のマウンダー極小期と重なっていることに気づきます。
ハリケーンが発生し、成長するには、海水温が少なくとも約28℃であることが必要です。
マウンダー極小期のあいだは、地表に到達する太陽放射エネルギーの量が通常よりも小さく、大西洋とカリブ海の海水温は低下し、その結果、ハリケーンの発生は海難事故発生とともに沈静化しました。
そこにもうひとつ一致するのが、海賊の黄金時代です。
1650年〜1720年のこの時期は、ヨーロッパに帰る途中のスペインの商船を襲った、カリブ海を拠点にする英仏の無法者集団と海賊の全盛期でした。
マウンダー極小期でのハリケーン発生件数の減少は、スペインの大西洋横断貿易、ひいてはヨーロッパの経済と政治におけるパワーバランスに影響を及ぼした一因である、という可能性を、年輪年代学はビッグパインキー島の樹木から導きだしました。
また、年輪年代学は、地球の炭素循環の謎を解く研究手法としても期待されています。
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樹木は想い出を湛えながら、傷ついた部分を徐々に覆うように成長していく。
人間も同じですね。
それならいっそ樹木のように、あるがままで立っていたいなと思います。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。
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先日、友人に、あっぱれ!と言われて、スコンと憑きものがとれたすがすがしい気持ちになりました。
ありがたいこともつづいています。
日本の言葉ひと文字ひと文字の音には 、「音霊」 と呼ばれる霊力が宿っていると、昔なにかで読んだ記憶があります。
だとすると、組み合わせや配列によって、なんらかのおまじない効果があってもおかしくないですね。
あっぱれ 漢字で書けば 天晴
当て字のようですが、いかにもよいパワーがありそうです。
ちょっと大きめの声で言えば、かなりすっきりします。
言ってみませんか。
きっと、天が心を晴らしてくれます!
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あなたとあなたの大切なひとが
今日もよい一日でありますように