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同級生
ミライと出会ったのは彼女がまだ学生の時であった。年相応の優しげな相貌を持ち、周りよりも少しキーの高い声で話す彼女は、愛想よくいつも楽しそうに人と笑い合っていた。彼女の周りに集まる人たちは男女を問わず彼女がそうであるように皆明るく楽しげで、何がそんなに面白いのか、とにかく笑い声がよく廊下に響いていた。彼女と隣のクラスであった私は、その華やかな一団を一歩離れたところから小さな焦燥と羨望を感じながら眺め、決まってこう思った。きっと私には縁のない人間なのだ、と。もう10年も前の話だ。
そのミライが今私の目の前で顔を真っ赤にしながら酒をあおっている。
「ちょっとマキ、聞いてるの。」
「ごめんごめん。少しボーッとしてた。それで、なんの話だっけ。」
「もう。だからね、たいちゃんが最近冷たいの。」
「どうして。喧嘩したとか。」
「それがちっとも見当がつかなくて。だから尚更不安でどうにかなりそうなの。」
彼女はそう言ってあどけなさの抜けた顔を、テーブルに肘をつけ両手で支えながら、視線は下に向け気難しそうに溜息を吐いた。あの頃の笑顔は、今は少しも見当らない。
たいちゃんというのは彼女の付き合って3年になる恋人だ。3年も一緒にいれば互いを理解し不満もほとんどなさそうなものだが、案外そうでもないらしい。
「そっか。原因がわからないんじゃあ、どうしようもないものね。」
「そうなの。どうしてって聞きたいけど、もしそれで別れを切り出されたりしたらと思うと、何も言えなくて。」
「それは考えすぎだと思うけど。」
彼女は人並みに悩むし、人よりもしかすると悲観的だ。なんてことはないごく普通の人間。そんな彼女を私は好いている。
私がどうしてミライとこうやって顔を突き合わせ、共に酒を飲み、時には悩みを聞くようになったのか。あの頃の私には不思議でならない出来事であろう。けれど何も不思議なことはなく、ミライもただの人で、私もただの人だったからに過ぎないのだと今の私には分かる。
「不安は尽きないだろうけど、まあ今は呑もうや。」
そうして二人、今日二度目の乾杯を交わす。ミライの顔は晴れないけれど、今は目の前のレモン酎ハイとホルモンのもつ煮に集中することを決めた様だ。
さあ、これから二人で何の話を始めようか。