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【旅エッセイ】長崎一人旅vol.8

7月の初旬はもう初夏ではなく、真夏と化している。電動アシスト自転車で、急な坂を登り、急な坂を下る。風が髪をわけ、現れたおでこに直射日光が暴力的に直撃する。汗だくになりながら、僕はこのアップダウンの激しい県道をかれこれ30分以上レンタル自転車で走っていた。蝉が鳴いていることに気付いたのはだいぶ後になった頃でクマゼミだった。

五島は有川港に着いたらすぐに五島うどんの里という観光センターでうどんを食べた。時刻は12時半頃、半日間の五島の過ごし方を考える。定石はレンタルカーを借りること。ただペーパードライバーを通り越して殺人ドライバー予備軍の僕は自分の恐怖の克服と、人生への快楽よりも人の命を選んで、自転車を借りることにした。上五島の観光サイトか何かにレンタルサイクルで、頭ヶ島天主堂まで行こうの文言を見た僕はその文言を再現するべく、五島での目的を頭ヶ島天主堂に行くこととした。

五島うどんの里から頭ヶ島天主堂までは7km。スマホの地図アプリには45分の表示。中々だなと思いつつも、車無し族の僕は日常的に徒歩30分はスタンダードになっていたので、チャリ45分は何も脅し文句にならなかった。
15分程走ったところで、この道程の厳しさを思い知ることとなる。まずはこの暑さだった。県道はほぼ山道で所々道路沿いに木々があり、日陰をつくってはくれるもの、ほとんどの時間で日差しを直に浴びる。そしてアップダウンの激しい坂道だった。これで45分だと、、と感じ初め、脱水熱中症でぶっ倒れる命の危険性も感じ初めていた。制限時間は3時間。正直3時間を超えても延長料金が発生するだけだが、問題はうどんの里の営業時間が17時までなことであった。道中で所々見える絶景。随分と遠くまで来たなと感じた。そしてこの距離が信仰が脅かされ、隠れていた事実を物語っているようだった。天主堂が見えはじめて感動しつつあった。車では得られなかった感情だろうと思った。

僕が五島に来た理由、それは遠藤周作の沈黙を読んだから。僕が沈黙を読んだ理由、それは恋人が信仰を持っていて、それを理由に僕が彼女と別れたからだった。
その意味と自分の存在をなぞる様に、僕はこの島にひとりで来た。

車がほとんど走っていない。県道には男が一人、ママチャリを漕いでいるだけだった。

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