ベス・オートンの危なっかしさ
ルシンダ・ウイリアムズに続き、最近聴いているもう一人のアーティストはイギリスのベス・オートンだ。たまたま女性シンガー2人に注目しているのはなぜだろう。とにかくベスについて今回は書いてみよう。
ケミカルブラザーズのアルバムにシンガーとして参加したことで世に知られるようになったベスだけど、もともとは女優志望。182.9センチあるらしいその立ち姿はモデルのようでもある。彼女のインタビューを観ると、持ち前の愛嬌やユーモア、それに聡明さを感じる。
歌については、ジョニ・ミッチェルに憧れて、声を一生懸命に潰したらしい。イギリスにいながら、そのボーカルスタイルはブルースやカントリーのルーツを持っている。背が高いので、楽器がそうであるように、アルトヴォイスが彼女の魅力。
彼女の歌は繊細で、一瞬一瞬の変化に富んでいるので、スタジオレコーディングされたものやアコースティックライブでその真価が発揮されている。
ソングライティングに関しては比較的奔放なほうだと思う。ギタリストとの共作も多く、歌うことを通してベスらしさを曲に打ち出している。
一枚オススメを挙げるとしたら、これは迷うけれど、2024年の“Daybreaker”(デイブレイカー)になるかな。ストリングスとデジタルクラブミュージックの要素があって、かつてデジタルフォークと呼ばれた彼女のスタンスが色濃く出ているアルバムだと思う。やや大衆よりとも言われるけど、それにしては暗い曲が後半に多いので、ご安心を。2曲目はザ・スミスのギタリスト、ジョニー・マー作の”Concrete sky“で、シングルカット曲です。最後の曲“Thinking about tomorrow“は構造も表現もものすごくいい曲で、アレンジもとても決まってる。
このあとのアルバムもいくつか良いのだけど、ベスは病気を患い、声があまり出なくなってしまった。それでも創作をやめない彼女には本当に頭が下がる。
ときに輝き、ときに崩れることもあるけど、一瞬の尊さを感じていきましょうよ!そんなふうにベスは語りかけてくれている気がする。
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