ボブ・ディランの謙虚な歌
「シャドウズ・イン・ザ・ナイト」
70歳を超えてからのこのアルバムを知っているでしょうか。
フランク・シナトラのカバーを多く収めた、オリジナルなしのスタジオアルバムです。
録音はライブ1発で、トニー・ガーニエやチャーリー・セクストンといったツアーメンバーと緊張感ある時間を創り出すことに成功しています。
さて、ディランといえば、瞬間ごとに自在に、気ままに変化するヴォーカルで知られていますが、そのため時に捉えづらいとか、わからないという批評を受けることもあると思います。
ところが、このアルバムでは、メロディーを丁寧に、愛おしむように歌っているのです。
そのため、本作には、初期のアルバム「フリーホイーリン・ボブ・ディラン」のような、歌の塊の感触があります。これは、とても珍しいことです。
円熟味のあるディランのヴォーカルパフォーマンスを、夜の静けさの中で、ゆっくりと楽しめます。
歌詞は彼が書いたものではないですが、歌にある誠実さ、あるいは真実を捉えるディランには、ほんとうに凄みを感じます。
煩雑な日々の中、孤独と人との関係の不自由さに懊悩し、音楽に安息を求めている人に、特におすすめします。30分ほどのアルバムですので、ぜひ全部聴いてほしいと思います。