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香る人

街でふとすれ違った香りに
鼻腔から脳へ、脳から胸が
戸惑うほど反応してしまう経験はあるだろうか。

そんなことがたまにある。
そして、つい先日あった。

なんて魅惑的な香りなんだ。。
この香りはどこから?
誰から?

先日美術館に行った時、
官能的なクリムトと呼応するかのように
香っては消え
消えてはまた香り
ここよ、こっちよ、と弄ばれるような
絶妙な品と色気と凛とした奥ゆかしさを
何度も波のように心地良く漂ってくる。

ついに出口でこの人だ!とつきとめ、
思わず声を掛ける。
「この香りはあなたですか?
ずっとどなただろうと思ってました!」

ふふっ、と上品に微笑んだその方は、
ご自身で香水店を経営されている香りのスペシャリストだった。

嗅覚ほど繊細で、鮮烈にあらゆる感情を呼び起こすものはないように思う。
脳とどこよりも近く太くつながっているのではないかと思うくらい一気に時空を超えるパワフルな感覚。

日本にはそれこそ繊細な香りの文化が昔からあった。
香道、匂ひ袋、香枕など、こと女性は文に髪に衣にと、香りの効力を知っていた。

さり気なくそこはかとなく(香る、わかる)、というのは日本文化の最も特徴的な美だと思う。

お茶道具の取り合わせや着物や帯、小物の柄合わせは繊細な感覚と知識をひけらかすわけでなく、やり過ぎず、わかる人にはわかるくらいの、
おぉ!そんな組み合わせをされますか!
という大人の表現が無限にある。
そんな遊び心ある本物の日本人女性に憧れる。

一方で西洋の文化の中で生まれた香りは、完全美を目指して足していく、塗り替えていく油絵のような相反するイメージがあって、自分も含めて、負けてしまうのか、上手に自分のものとして使いこなせている日本人は少ない気がする。

自分で自分の香りはわからない上、
刻々と香りは変化していくので、
つける香りもつける箇所も量も、
何が最適か自信がいまいち持てず、
若い頃免税店で買った香水はどれも使い切ったことがない。

それだけに、
彼女の香りの選択が、身にまとい方が、あまりに稀に素敵で尻尾ふってついて行きたくなる。

この私の反応は彼女が
「こう言っては失礼かもしれませんが、」
と前置きの上、
「計算通り」
だったそうで、香水選びのプロの彼女にはよくあるご経験だそう。

早速翌々日、彼女のお店に伺い、
コンサルテーションを。
という間もないくらい、
私の表現する言葉の奥深くの、
本当はこうありたい
を私よりも的確に捉えられ、
一瞬で丸裸。
まるで子供のように。

普段「こうありたい」と思っているいつもの私が選ぶだろう3本と、
そんな私がもっと出した方がいい、そして本当は出したい私
に合う2本を選んでくださった。

前者3本のうち一本はあの日彼女がつけていたCartierのPanther。
後者2本は自分では決して到達しなかっただろう香りでありながら、
私の中心、奥深くにキュッと蕾でいた子をはらはらはらと開かせてくれるような、
私でいていい、
と力が抜け血色が蘇ってくるような
穏やかに溢れる歓びの香りだった。

もう
イチコロですわ。

これは、
買ってしまう。
おそらく10年以上ぶりの香水購入。

彼女とこの香りとの出会いにも増して、
香水の良さがわかったのはそのあと。
時折ふと自分から香るこの香りがアンカーとなり、
ありたい自分への誤差をアジャストしてくれる。
一日に何度も、ひとりでに新しい理想のdefaultが自分と重なり本当にdefaultとなっていくのを感じることができる。

どんな出会い、どんなご縁が
本当の私らしさを開かせ香らせるか、
試してみないとわからない。

ただ、自分の感覚はやっぱりいつも知っている。

※今月末この‘彼女’、こと内海氏と“あなたの香りを感じる会”を開きます。
https://www.facebook.com/events/2219871564755404?sfns=mo

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