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ありのままの暮らしに光を当て地域を元気に 【前編】

福井県南越前町にある今庄宿は、江戸時代に滋賀から新潟をつないだ北国街道の宿場町。今も当時の街並みが色濃く残っています。「地域まるっと体感宿 玉村屋」は2019年2月に今庄宿に誕生したゲストハウス。宿泊を通してそこで暮らす人たちと交流し、一年を通してさまざまな地域の営みを体験できると人気を集めています。玉村屋を運営するのは京都府出身の中谷翔さん。南越前町で暮らすことになったきっかけや、現在の活動について伺っていきます。

中谷翔さん
京都出身。京都の大学を卒業後、東京の旅行会社に就職。その後、岐阜県白川郷にある宿泊施設を経て、2016年、福井県南越前町の地域おこし協力隊に着任。「地域の人の生きがい」と「都市で頑張る人の第二の実家」をつくるため、2019年に地域をまるごと体感できる宿「玉村屋」を開業した。

京都以外の世界を見てみたい

大学まで京都で暮らしていた中谷さん。
「地域」に興味を持ったのは、
高校生の時に観た、あるTVドラマがきっかけでした。

中谷さん:
離島で医療に情熱をかける医師の物語を描いたドラマ、『Dr.コトー診療所』をみて、すごく憧れました。地域の人を支える仕事をしたい…でも医者になるのは難しそうなので、人の心に関わる仕事なら、と大学では臨床心理学を専攻しました。

ずっと京都で暮らしていたので、京都以外の世界を見たいという思いもあり、大学1年生の時に長野県のペンションで住み込みのアルバイトをしたんです。そこで日本一周した人に出会い、僕も影響を受けて大学3年生の時に1年休学して自転車で日本一周の旅に出ました。

20歳の頃の中谷さん

日本一周では、行く先々で人の出会いが広がったそう。
「人は今いる場所から離れるほど、新しい価値観に触れられる」
そんな実体験から「人を遠くに運ぶ仕事がしたい」と
大学卒業後は東京の旅行会社に就職します。

「地域に貢献すること」の本当の意味とは

中谷さん:
旅行会社ではツアーの企画や添乗を担当していました。ある時、バスツアーの添乗で、道中いろんな場所に立ち寄ってもバスから一切降りないお客様がいらっしゃったんです。不思議に思い理由を伺うと「足が悪く、歩くのが辛いのでバスに乗ったままでいい。車窓からの景色を見るだけでも、家でテレビを見るよりずっと刺激を受けられる」と仰っていて。人によって求める旅のかたちはさまざまであることを痛感し、この仕事の奥深さを感じました。

一方で単に都会から送客するだけでは、主要観光地は潤っても地域を支える地元商店などに還元することはできないという現実に、旅行業の限界を感じていました。地域に貢献するとはどういうことなのか、都会ではなく地方で働きながらその意味を考えてみたいと思うようになったんです。


その後、中谷さんは岐阜県にある世界遺産・白川郷の宿泊施設に転職。
白川郷では雪深い地域の暮らしや自然の美しさに魅了される日々。
多くの宿泊客とかかわる楽しさを味わうとともに、
次第にもっと地域に深く入り込みたいと考えるようになります。

中谷さん:
白川郷は全国から観光客が訪れます。しかし、地元の道路が観光バスで毎日大渋滞したり、私有地に入る観光客がいたりなど、地域で暮らす人たちにとって必ずしもプラスになっているとは思えない時がありました。そんな様子を見ていて、いち宿泊施設のスタッフとしてではなく、地域の資源を使って地域の人が楽しめる関わり方を自分から仕掛けていきたいと次の道を考えるようになったんです。観光の分野に携わった経験を生かし、将来的には自分で事業をしたい。そこで選んだのが、南越前町の地域おこし協力隊でした。

南越前町を選んだ理由

自分の経験を活かせるなら、地域にはこだわりがなかったと語る中谷さん。
実際に北海道、長野、鹿児島なども候補に挙がっていたそう。
南越前町を選んだ理由は何だったのでしょうか。

中谷さん:
地域おこし協力隊を検索すると、「協力隊 失敗」というキーワードが出てくることも。全国各地の事例を調べながら、自分に合う地域を探していました。南越前町を選んだ決め手は、協力隊を応募する前に地元の農家の方と話す機会があり、協力隊に対して好意的だったこと。「ここなら移住しても受け入れてもらえる」という安心感がありましたね。

また、ほかの地域では、カフェやゲストハウスなど移住者による取り組みがすでに行われていましたが、南越前町は移住者がそこまで入っていなかったので、チャンスに溢れているのもいいなと思いました。


2016年4月、南越前町の地域おこし協力隊として着任した中谷さん。
任期中から地域の営みを体験できる滞在をテーマにした
宿づくりに取り組んでいきます。

後編へ続く

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