あったかく、行こう
心の暖炉に薪を。
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自分は冷え性だ。なんとなくイライラしたり心に元気がないときは、どこかが冷たい。足元の場合が多いかな。
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今年は、冷たかった。夏はうだるくらい暑いのに、こころが冷え切っていた。
自分の心の中にある暖炉は、熱量が足りなくて。くべる薪もだんだん少なくなって、いつも小さな紅が燃えかすの端で鈍く光るだけ。
万策尽きて、暖炉が聴こえない声でさけぶ。誰かから薪をもらいたい。あたたかさを分けてほしい。
でも、自分の冷たさを知られたくない。
この冷たさが指先から伝わって、助けてくれる誰かが凍えてしまったら…それは嫌だ。
どうしようもなくなった。でも、どうにかしないと火が消えてしまう。
寒くて、悲しくて、心細いままなら、いっそのこと、火を消してしまおうか。
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そんな毎日の中で、小さな炎がポッと光って、消えた。しばらくすると、また、光った。
それは、知恵だった。誰かの知だった。
久しぶりに学んだ。新しい薪を欲していた心は、丸呑みするようにつぎつぎに取り込んだ。
薪は少しずつ、ほんの数ミリずつ、燃えた。
でも、同時に凍りついていた心の片隅が、溶け出す。薪に湿気を含ませてしまう。 まるで、あたたまるのを怖がるように、薪にポトリポトリと涙を落とす。
その涙は、欲望のうらがえし。湿気を左手で撫でて、右手で火をくべよう。あたためよう。
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本はお医者さんかもしれない。古い友達かもしれない。本は、ページをめくる指が冷たくても気にしないみたい。自分の冷たさを悟られないことに、ホッとする。
勉強だけじゃなくて、たまにはなんにも教えようとしない本を読もう。書き出しが「そのご婦人はたいそう気だるい口調で…」とか「そのとき、いつかの夕暮れが小走りで追いかけてきたかのような…」とか、そういうのがいいな。
知恵はあたたかい。物語は優しい薪だ。
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自分の生きる道も、あったかいほうを選ぶことにしよう。たまに冷たいものをとりたくなるけれど。そのあと意識的にぬくぬくしよう。あたたかい布団に包まれて早めに眠ろう。冷や水を浴びせられても、自分で自分に冷や水をぶっかけても、あたたかい風をいれて乾かそう。薪をくべて、あたためよう。
薪には種類があって、イライラとか強い言葉とか憎しみも薪の顔をして近寄ってくる。
自分が集めたい薪は、笑顔、感謝、愛、喜び、柔らかさ、心の交流とか、いろんな種類の薪。小枝や葉っぱのような幸せも。そして、自分が誰かの小さな薪になれたら、なおさらいい。
足先は相変わらず冷たい。
でも、心の暖炉では、微笑むように炎が揺らめいている。