見出し画像

大学生雀士が麻雀に寄せて

我々麻雀打ちは、麻雀を心から愛し、四六時中麻雀のことを考えているといっても過言ではない。用事のない週末には雀荘へと出かけ、同じく麻雀を愛する仲間と切磋琢磨し、自分の腕を磨いている。麻雀打ちは勉強家が多く、麻雀の勉強には余念がない。自らが放銃(他の人にロンされること、点棒を支払わなければならない。)に回った局では、その放銃は果たして仕方のないものであったかを何回も回顧し、時にはNAGAやmortalなどのAIに分析をかけて検討する。

麻雀ではリーチと呼ばれる役がある。リーチは簡単に言えば点数が跳ね上がる代わりに自分が引いてきた牌を全てそのままツモ切らねばならず、自分の手牌構成を変えることができない。つまりリーチは防御力はゼロになるかわりに点数も大幅に上がる諸刃の剣である。ここで追っかけリーチが来れば最悪である。本来なら相手の当たり牌になりうる危険な牌は打つことを避けたいものの、リーチをかけているときは全部の牌をツモ切らねばならないため、場に切るしか選択肢がないのである。追っかけリーチが来た時、最初に全く通っていないドラを引いてきた時は最悪としか言いようがない。無論それが自分の上がりになる牌なら良いのだが、そうでないことも多く、もしドラで放銃した場合は「リーチ」「一発」「ドラ」の役が確定し、相手が子の場合5200点からの放銃となる。しかも、追っかけリーチは高いのが通例でありだいたい+αの役が付いてきて満貫(=8000点)以上の支払いは覚悟すべきである。

麻雀では思いもしないこと、あり得ないと考えられることが、結構な確率であり得るということを感覚的に知れる良い教材である。天気予報で明日の晴れの確率が10%と言われて、女の子とキャンプのデートを入れるだろうか?いや、入れないのが無難だろう。俺は麻雀で、満貫直撃条件の他家に清一色(役出現率0.8%)を放銃し、4位に沈んだことが何回もある。そんな確率の低いことは起こらないだろう、と思っていたことが麻雀ではいとも簡単に起こる。これは条件を作った他家がえらいことは間違いないが、0.8%なんて麻雀ではザラに発生する。国士無双という役は役満の1つであり、最も点数の高い出現頻度の低い役で、その確率は0.04%と言われるが、それなりに麻雀を打っている人ならみんな上がっているし、もし同じ卓で囲って遭遇しても、まああるよな、で終わる程度である。もし、仮に1pが3切れの場で、2pが河に4枚見えている時、国士無双の可能性が否定されていれば1pの放銃率は0%である。俺はこういう時だけ真に安心できる。つまり、晴れの確率が100%の時、ようやくキャンプデートのGOサインである。10%なんて余裕で引き当てるのだから。

麻雀を普通に打てるようになるには、俺は1500半荘くらい要した。勉強時間や打つ時間、見た時間を合計すればざっと2500時間くらいになると思う。これまでにざっと2500半荘くらい打ったと思うので、現在のところ合計では4000時間くらい麻雀に費やしていると思われる。ここでいう普通に打てるというのは、リアルで知らない人と卓を囲み、点数計算をこなし、迷惑をかけることなく平着2.5をキープできるような成績と定義している。麻雀を親切に教えてくれる人がいたり、要領の良い人だとすぐ打てるようになると思うのだが、残念ながら自分はそうではなかったので、Mリーグなどの放送対局を見つつネット麻雀で腕を磨き、最近やっと人並みに打てるようになってきたところである。でも、いまだにミスやチョンボもするので、まだまだ中級者や上級者とは言えないと思う。

先ほど4000時間麻雀に費やしたと述べたが、麻雀を愛してしまったばかりに多量の時間を割いてしまった。大学受験よりも余裕で時間を費やしている。4000時間あれば難関資格を複数個取れるかもしれない。きっと同じ時間勉強し続けて東大に合格した人もいただろう。友達と遊ぶこともできただろう。バイトでお金をたくさん稼げただろう。そうして蓄えたお金で友人と何回も飲みにいけただろう。こういう風に考えるとなんて麻雀は罪深いんだろうと思うが、麻雀は楽しいからしょうがない。麻雀は薬物と同じである。

麻雀を始めて悪いことばかりではなかった。もともと結構なギャンブル好きだった俺は、学生の分際で競輪で数百万円負けてしまったことがあったのだが、麻雀を始めてからはぴたりと競馬や競輪は一切しなくなった。その代わり、これまでギャンブルに費やしていた時間は麻雀が肩代わりすることになった。

麻雀を20時間くらい連続で打ち続けたある日、不思議な感覚に襲われることがあった。それは山の牌が透けて見えるような感覚だった。普通麻雀牌は自分の手牌しか見れないのだが、ある時他家(ターチャ;ほかのプレーヤー)のリーチが飛んできたときに、リーチ宣言牌の五萬を無意識のうちに大ミンカンしていた。AIに相当怒られる打牌である。誰の目にも見ても悪手である。しかし、山が透けた感覚があった自分は一発で嶺上牌(リンシャンパイ;カンした後にツモってくる牌のこと)から上がり牌をツモりあげ、嶺上開花、赤、ドラドラの満貫のツモって見せた。その日は極度に疲労していたが、20時間麻雀と対峙したことで、第六感を得ていたのかもしれない。その後のことは疲れすぎて覚えていない。

最近レートがテンサンの雀荘に行ったときに、他家が「なんでそんなに手が入るんだ。自分は鳴ける牌すら切られない。」と不満をこぼしていた。嫌味ではなくて、本当にそう思っている感じだった。そこはレートが低いこともあって、他家の雀力はお世辞にも高いとは言えなかった。俺はその日平着2.0前後でそこそこ勝っていて、無理やりにでも鳴いたりして、上がりをもぎとってるだけなのになあなどと思いつつ、「いやー、今日は手が入ってます、運がいいです」などと言った直後、その人からこぼれたドラで12000点を上がった。

フリー雀荘デビューは散々だった。忘れもしない。雀魂で雀傑3(初心者レベル、麻雀の役はわかるが、まだまだ甘い放銃が多いレベル帯)だった自分は44444という成績をたたき出してしまった。4人でやるゲームなので、同じ実力者同士で対決したとき、4連続でラスを引く(最下位をとる)確率は1024分の1である。あっという間に2万円くらい無くなって体調が悪くなったことを覚えている。その上店主に「下手くそだ」と言われ、悔しくて強くなる決意をした瞬間でもある。煙がもくもくと立ち上る場末の雀荘で、朝までしっかりお金を搾り取られてしまった。

しばらく雀荘には行かなかったが、雀傑区間を乗り越えて雀豪になったころ、札幌のマーチャオに友達と行った。そこでは最初のトン発で他家の国士無双に放銃し、5000円を支払った後、次戦に同じ人が四暗刻を上がり、見事に親被りをした俺はあっという間にラスに沈んだ。3000円の出費となった。この悪運の下振れはあれど、やっぱり勝ち越すことはできなかった。2日連続でマーチャオに行って合計20000円の出費になった。

麻雀で明確に勝てるようになったのは雀豪の終わり区間から雀聖になったころである。どんな雀荘に行っても、お金が減ることが少なくなった。むしろ日によってはプラスで帰れるようになった。牌効率を大切にする、両面は押す、リーチには降りる、対局中にスマホを見ない、そういう当たり前のことを当たり前にする麻雀ができるようになったからだと思う。最近では雀荘に行くと平着は2.35~2.40に落ち着くようになった。

都会(札幌)の雀荘は本当に良いと思う。俺は函館から札幌に行くときは必ず雀荘に寄る。若い人も女の人も多いし、接客も元気で、明るく話しかけてくれる。関係ないが、お客さんや雀荘メンバー(従業員)にはイケメンや、かわいい人も多い。一方、函館はほぼ中年男性層しかおらず、それは全く問題ないのだが、ヒキヅモや打牌批判されたことも少なくなく、もやもやすることが多い。

麻雀業界の初心者を排除したがる心理が好きではない。初心者にやけに厳しく、マナーにうるさい人が少なくない。対局中にイヤホンをしているとか、発声をしないとか、そういう論外な行為を除いては、初心者には寛容であるべきである。最近Mリーグ等で活気を戻しつつある麻雀業界であるが最盛期の人気から見れば、まだまだ衰退している産業である。牌を両手で触ることや、小考(時間をかけて考えること)にあまりに厳しい人がいるが、ある程度は大目に見るべきだと思う。麻雀の所作や、思考時間は回数を経るごとに改善されていくものなので、そんなことにいちいちキレていたら麻雀を打つ人は益々減るばかりである。

麻雀では嫌な思いをたくさんしてきた。六筒宣言牌リーチに筋の九筒を切ったところ、リーチ一発七対子ドラドラ、親の18000点を放銃したり、最近では17000点離れたラス目(その時点で4着の人)がリーチ後に四筒を切ったので、唯一の安全牌である筋の七筒を切ったところ、リーチ白ホンイツドラの12000に放銃した。自分はドラの赤五萬を2枚所持していた。

七筒が放銃となった局

以前には台パンしてマウスが壊れたこともあった。どうしても打ちたくない牌を食べようとしたことも、カンチャン待ち(例えば24と牌を所持していて3の牌で待つこと、35、46のとき、4と5で待つことも同様。)で、待ち牌がカンされて5枚目を必死にツモろうと盲牌したこともある。いったい何度麻雀をやめると宣言したことだろう。その度に復活しては、今日まで打ち続けてきたのである。麻雀に真摯に取り組み、少しでも強くなろうと思いもがきながら強くなる過程は本当に尊いものだと俺は思っている。

麻雀を作った昔の中国人、競技性を高めて今日の麻雀を作り上げた日本人、マウスを壊す俺。みんな違ってみんな尊い。麻雀本当にありがとう。


いいなと思ったら応援しよう!