「神様、僕は気づいてしまった」1st Tour "From 20XX" ファイナル公演レポート
「神様、僕は気づいてしまった」が、5月15日発売の1stアルバム「20XX」を引っさげて、初のワンマンライブでもある東名阪Zeppツアー "From 20XX" を行った。本日、Zepp Osaka Baysideで開催されたファイナル公演に参加したので、個人的にレポートする。
心地良くも印象的な曲調、難解で深みのある歌詞、そしてそれらを紡ぐボーカルのハイトーンボイスが魅力の「神様、僕は気づいてしまった」(通称:神僕)。彼らのプロフィールはほとんど明かされておらず、MVやライブなどあらゆる露出で仮面をかぶっている。手がかりは自身らが発表する曲と、いくつかのインタビュー記事ぐらいだ。謎多き存在にも関わらず、これまでの誰とも違う唯一無二の音楽は、若い男女を中心に人気を集めてきた。
定刻を迎えると注意事項を告げるアナウンスが流れ、暗転。1Fスタンディングも2F自由席も満員だ。ステージには全面に薄膜が張られ、スクリーンの役割を果たしていた。向こう側にバンドセットが透けて見える。
OPムービーが始まった。スクリーンに浮かぶ、天体と音の波形。言語化しがたい映像は、しかし彼らのバンドコンセプトをよく表している。
ムービーの終了と共に、幕の向こう側に登場したメンバー。センターにVo/G:どこのだれか、上手にG:東野へいと、上手寄り奥にDr:蓮、そして下手にBa:和泉りゅーしんという布陣だ。
4人は頭から「オーバータイムオーバーラン」、「ストレイシープ」をたたみかける。今回は全ての楽曲で彼らの前に張られた薄いスクリーンに映像が映し出され、向こう側には彼らの実体が透けて見えるという、文字通り次元を超越した世界が広がっていた。「ストレイシープ」では白背景に彼らのシルエットが黒く写る映像。映像の体越しに現実の彼らの姿が見え、自らの姿をクロマキーにしているような演出が興味深い。
2曲終えた所で、ようやくどこのだれか(以下、だれか)が「大阪ファイナル!!」と叫ぶ。続けて「20XX」、「UNHAPPY CLUB」。青のライトが左右にゆらゆら揺れる中、ノッてきた東野へいとが右手を上げて跳ねる。「僕の手に触れるな」では、映像に白いレーザーのような細い光が大量に放たれ、歌詞通り自らを塞ぎ込めた雁字搦めの閉塞感を表現しているようだった。
浸る間も無く、「わたしの命を抉ってみせて」のリズミカルなギターフレーズが鳴り出す。スクリーンを囲む形で額縁が映され、白い羽衣のような衣装を纏った4人は、意思を持った絵画のように奏で、踊る。嘲笑うかの如く少し震えた声で「勘定はまたにして お釣りなどいらないわ」と歌い上げると、幕が閉じる粋なエフェクト。
「Troll Inc.」でダウナーなサウンドに身を委ねれば、蓮がスティックを頭上で大きく振り回し、指揮者のように会場を統治する。そして後半のこのタイミングで、だれかのハイトーンボイスの真骨頂ともいうべき「ウォッチドッグス」。これまでハイカロリーなセットリストを全力で歌ってきたにも関わらず、その疲れを一切感じさせない。心地良いファルセットが、遠吠えのように響く。
ポツリと「最後の曲です」とこぼして、放たれたのは「だから僕は不幸に縋っていました」。2016年11月、初めてYouTubeに投稿された曲だ。
アンコールは、彼らの代名詞とも言える「CQCQ」。昨年のサマソニを彷彿とさせるイントロアレンジに、喜びの歓声が沸き起こる。2017年5月に投稿されたこの曲は彼らのデビューシングルであり、同時に神僕伝説の始まりでもある。いきなりドラマ「あなたのことはそれほど」主題歌に抜擢され、一気にその存在感を知らしめた。当時の興奮が蘇り、目の前のステージを見ながらもこみ上げてくるものがある。
ラストはマイクを通さず、だれかと観客の肉声で「CQCQ 聞こえますか」。「ありがとう、ありがとう、またいつか」(だれか)とだけ伝え、4人はステージを後にした。ツアーファイナルにも関わらず、余計な言葉は発さない。この潔さも、いかにも神僕だ。
だれかは以前、skream!のインタビューで下記のように話している。
あの無表情な被り物でいることで、誰の姿にもなり代われるし、極論で言うと、あの被り物の中は僕じゃなくたっていいんですよ。そんなものには意味がない
「神様、僕は気づいてしまった」が何者なのか、誰も知らない。それでも彼らの音楽は、心のこんなに深い所に届く。衣食住そろった現代を生きる私たちは、「誰が発したか」にこだわるクセに、知らない誰かの言葉にも身勝手に傷つく。それなら、顔も知らない誰かの音楽で救われたって良いはずだ。