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言いたいことが多すぎる『THE FIRST SLAM DANK』レビュー

【概要】

2022年公開のアニメ映画。
原作・脚本・監督 井上 雄彦

【あらすじ】

いつも余裕をかましながら
頭脳的なプレーと電光石火のスピードで相手を翻弄する
湘北の切り込み隊長、ポイントガード・宮城リョータ。
沖縄で生まれ育ったリョータには3つ上の兄がいた。
幼いころから地元で有名だった兄の背中を追うように
リョータもバスケにのめりこむ。
高校2年生になったリョータは、
湘北高校バスケ部で、桜木、流川、赤木、三井たちとインターハイに出場。
今まさに、最強王者山王工業に挑もうとしていた。
公式HPより引用

【見る前の気持ち】

世代的にドンピシャな「SLAM DANK」のアニメ化。
不安と期待が渦巻く中、事前情報はほぼ入れず、20年来の友人と観てきました。

結果・・・なんとも評価に困る映画でした。

<注意>
ネタバレします!

【登場人物】

宮城リョータ(仲村宗悟)
本作の主人公。湘北高校のポイントガードの2年生。
原作ではマッチアップ相手(牧や藤間、板倉。もちろん本作での深津も)がえぐすぎるためか、なかなか目立てなかったが、主人公に抜擢。
原作では描かれなかった彼の過去・家族関係が明らかになる。

三井寿(笠間淳)
 湘北のシューティングガード。3年生。
 湘北バスケ部にかつて混乱をもたらした男。好き。

流川楓(神尾晋一郎)
 湘北のスモールフォワード。エースの1年生。
 寡黙で孤高に見えて、熱いハートを持った天才。

桜木花道(木村昴)
 湘北のパワーフォワード。1年生。原作の主人公。
 素人ながら身体能力を活かして戦う赤坊主。

赤木剛憲(三宅健太)
 湘北のセンター。キャプテンを務める3年生で大黒柱。
ゴリ

【よかった点】

①    アニメーションが素晴らしい
 3DCGと聞いていたので若干の不安があったが、素晴らしい映像。
 原作の山王戦時の井上雄彦の絵が見事に再現されていたし、プレーの描写も良かった。

②    原作で描写のなかったリョータの掘り下げ
 リョータのコートリーダーとして成長した姿が描かれた。
ボールを入れる赤木の前に河田弟が立ちふさがり、ボール運びを担うリョータをつぶしに来た深津。それに対して、リョータの指示通りに流川に預ける赤木。残り数秒の駆け引きで見事に出し抜いたリョータの戦術眼。本当に良かった。
あと、妹がかわいい。あの家庭が何とか保たれていたのは妹の力。

しかし…宮城家をあそこまで不幸にする必要、ありましたかね…。

【悪かった点】

①    一見さんお断り
 キャラクター紹介一切なしで、いきなり始まる山王戦。
「原作をがっつり読み込んでいるファンのみなさん、細かいところは脳内で補完してくださいね!」というのが透けて見える構成。
描写していない部分が多いので、山王工業の凄さがわかりづらい。そもそお選手の名前もほとんど分からない。だから絶望感が足りない。
沢北の凄さも河田の凄さも伝わらない。
一ノ倉のすっぽんDFがボディブローのように効いてるといわれても、前半戦がほぼカットされているせいでそのボディブローがほとんど描かれていないんだからさ。野辺(ポール)もただ桜木に負けた人ぐらいの描写だし、河田弟(マルオ)なんか突然出てきたでくの坊。

②    ファン向けの映画の割には重要なシーンがカットされている
これは時間的に仕方ない部分があるが…。
(1)試合前日のミーティングがほぼカットされている
   「断固たる決意」の話もない。
(2)   魚住がいないや海南の面々がいない
   今時、刃物をもったおっさん(18歳)が乱入するのはまずいのか。
(3)三井がバスケ部に乗り込むシーンがない
   リョータと喧嘩して負けただけでバスケ部に戻ってきてるように
   見える。三井のバスケへの思いも、一応仄めかされているけど弱い。
   当然「諦めたら試合終了」も「先生、バスケがしたいです」もない
(4)   桜木がうっかり流川の突破を妨害してしまってからの水戸「バスケット選手になっちまったのさ」もない
  「借りは即返さなければならない」もない。
(5)「大好きです。今度は嘘じゃないっす」もない
(6)2万本合宿の描写もほぼないからラストの感動も薄い
  最後のシュートが身体能力を活かしたダンクではなく、努力の成果で
  ある45度からのシュートであるところが「SLAM DUNK」が最高
  の作品である理由なのにね。


③    原作との齟齬や補完されなかった部分
 原作では、リョータは高校入学の前に陵南高校の田岡茂一監督からスカウトを受けている。そのため中学時点から神奈川では有名な選手として活躍しているはず。しかし本作では中学時代にそこまで活躍していないと読み取れてしまう。
 また、リョータは湘北の安西先生存在を理由に上記のスカウトを断っているが、どこで安西先生を慕うようになったのかの描写は本作でも無かった。非常に残念。

④    映画オリジナルシーンに蛇足が多い
  不良時代の三井が安西先生を見かけるシーンとかいらないと思う。
もっとも不要なのはエピローグ
   渡米した沢北が現地で日本人記者からインタビューを受けた後試合に
   臨むが、対戦相手にリョータがいるというもの。
   何年後かは分からないが…そこまで時間は経っていないと思われる。
リョータは絶っっっっ対に渡米しないと思う。彼の家庭環境的に
  留学する余裕はないはず。山王戦の翌年だとすれば、キャプテンとして
  チームを引っ張っているはず。
  ついでに言えば、リョータはアメリカでは絶対に通用しない。
  身長が低すぎて、ジャンプシュートの確率が低く、3Pシュートが
  無い。無理でしょ。

【まとめ】

ご新規さんを完全に無視したファン向けの映画でした。面白かった。
 ただ、ガチオタからすると「え、そのシーンをカットするの!?」という部分が多かったです。そもそもファン向けの作品であるなら、声優も変更しなくて良かったんじゃない?余計な炎上せずに済んだよね。
 個人的には、山王戦の合間に過去シーンが差し込まれるために試合の流れを分断してしまっていることが気になった。ただ、試合描写は原作を再現したものでしたし、文句があるわけではないです。それだけにもったいない。そんな映画でした。

評価 ☆2 原作ファンにはおススメ
本当に評価が難しい。
面白かったのは間違いないが、原作を超えているわけではないし…。
リョータの掘り下げも良かったんだけど、不満も多いし…。
映画単体としてみると描写が足りなさ過ぎて☆2、下手したら☆1。
ファン向けとしては☆4。画面の端々に「ふふっ」てなる細かいネタがあったりもする。ただ、それでも描写が足りなくて物足りない。
結果、中途半端な印象。どちらかに完全に振り切った方が良かったんじゃないかな。

【改善案】

もう、完全にファン向けに振り切っちゃいましょう。
①    リョータと三井が中学時代に会っていたシーン
1on1をするのではなく、人数足りないから助っ人でリョータに入ってもらう形にして、リョータに自信をつけるシーンにするとかどうですかね。
あと、山王戦終盤の三井の4点プレーに近いプレーをやらせるとかね。そうすればまた違った盛り上がりが作れたんじゃないかな。
②    リョータが立ち直るシーン
 不良時代の三井との喧嘩のあと、バイクで盛大に事故ったリョータが、故郷に帰って自らのアイデンティティを見つめなおす大事なシーン。
これ、原作のことを考えるとこれを中学時代にやっていないとおかしいんですよね…。
中学時代に安西先生とのやり取りで復活のきっかけをつかんで、結果慕うようになって、湘北に入学で良かったんじゃないの?
③    そもそも完全にリョータ目線だけで描いた方がいいんじゃない?
 赤木の心理描写とか、桜木の内面描写とか、三井が安西先生を見かけるシーンとか、そういうのは全部カットしてさ。後述の続編にも繋がるし。

【続編の噂】

 本作のタイトルが「THE FIRST」であることから続編がありそう。噂では5作やる説まであるみたいですが…。ちょっと考察してみる。
(1)   湘北スタメンそれぞれに焦点を当てた作品を作る
バスケはポジションを番号で呼ぶ。
1番 ポイントガード(宮城リョータ)
2番 シューティングガード(三井寿)
3番 スモールフォワード(流川楓)
4番 パワーフォワード(桜木花道)
5番 センター(赤木剛)
ということで、次作は三井編
試合中の描写が半端なのは続編以降で使うため…ならある程度納得できる。
山王戦を各キャラクターの目線だけで描くというのは見てみたい。
ただ、それなら赤木が一瞬倒れるシーン(原作では魚住がでてくるところ)の描写を本作でやる必要はなかったよね。

個人的には、赤木&三井&木暮で1本、流川(&仙道)で1本、桜木で1本
やって最後に安西先生視点で1本が最高

(2)   沢北編を皮切りに湘北以外に焦点を当てる
 エピローグやオリジナルシーンで沢北を出したし、渡米後の沢北を完全新作でやるというなら見たい。でも、それならますますリョータの渡米はいらない。普通に流川で良かった。
 その後も陵南(というか仙道)編、翔陽編とかね。

(3)   日本代表編
 日本代表に選ばれた流川と、原作で鎬を削ったライバルたちのチーム(河田兄・深津・牧・神ら)とか、ファンの夢だよね。森重とか土屋とか、原作で描かれなかったキャラのプレーも見たい。 

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