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【Myノマド#12 @シェムリアップ】アンコール・ワットのサンライズは、「音」がする

アンコール・ワットと、サンライズ。そんな言葉を聞いたら、どうしたってその光景を想像してしまう。

けれども、本当に感動したのは朝日を背景に煌々と輝くアンコール・ワットではなかった。「サンライズの音」にこそ、眠い目をこすってでもここに来る価値があるのだと確信した——。


前日にタイのチェンマイからバンコクを経て、ここ、カンボジアのシェムリアップに到着した。当然、移動疲れで身体は睡眠を欲しているわけだが、そんなのはお構いなしにスマホのアラームが部屋に響き渡る。

時間は朝の3時半。「アンコール・ワットのサンライズツアー」を申し込んだ前日の自分を呪いたくなるほどの眠さとだるさだった。

ツアーといってもプライベートだから、トゥクトゥクのドライバーがホテルに迎えに来てくれる。集合時間は4時だから、すぐにシャワーを浴びて自分を起こした。

部屋にドライヤーがないため、濡れた髪の状態でトゥクトゥクに乗り込む。日中は猛暑となるシェムリアップだが、早朝はさすがに気温が低い。加えて、速度を上げたトゥクトゥクに吹き込む風が寒く、風邪をひくかと思うくらいだった。

早朝の闇の中を走るトゥクトゥク

トゥクトゥクが走る道は、まるでゴーストタウン。人なんかは見当たらず、寝ている野良犬が時折視界に入るくらいだった。

しかし、アンコール・ワットのチケット売り場に到着すると、早朝にもかかわらず大勢の人が列をなしてチケットを買っている。まるで、ゾンビに占領された街にある唯一の避難場所のようだった。

チケット売り場は人でいっぱい

無事にチケットが買えたことをドライバーに伝えると、トゥクトゥクはアンコール・ワットに向けてまた走り出した。チケット売り場から漏れる光は次第に薄くなり、再び真っ暗な道を進んだ。


補足情報ではあるが、チケットカウンターはアンコール・ワットから離れた場所にある。

まずはチケットカウンターで入場券を購入し、そこからアンコール・ワットに向かう必要がある。しかも、アンコール・ワットまでの道中に「チケット確認ポイント」がいくつかあり、毎回トゥクトゥクを止めて係の人にチケットを見せなくてはならない。

だから、もしアンコール・ワットに行くときは、チケットをすぐに取り出せるようにしておくのがおすすめだ。


さて、ようやくアンコール・ワットに到着した……らしい。なぜ断言できないかというと、アンコール・ワットらしいものなんてどこにもないからだ。

もちろん、最初は「まだ暗いから」だと思った。じつはすでに目の前にあるけど、暗いから見えないだけなのだと。

しかし、どうやらそうではない。トゥクトゥクはアンコール・ワット付近までは入れず、最後は自分の足で向かわなくてはならないのだ。

トゥクトゥクの運転手は駐車場で待っているとのことだったので、念のため連絡先を聞いておく。そして、真っ暗な道を歩き始めた。

遥か頭上には月が輝いていて、星も見える。それくらいの暗さの中を、なんとか目を凝らしながら歩いた。

頭上に輝く月と星

ただ、幸いにもほかの観光客がいて、なかには懐中電灯を持っている人もいる。その人たちの照らす灯りが道標となり、なんとか進む方向が分かった。


15分ほど歩いだだろうか。周囲に遺跡群のようなものが見えてきて、人が集まっている場所も確認できた。そして、その奥にとてつもないオーラを発している「何か」がある。暗くてはっきりとは分からないが、それがアンコール・ワットと直感で分かるくらいに荘厳だった。

日の出を待つべく、適当な場所に腰を下ろす。じつは待機場所は争奪戦で、「アンコール・ワットが中心にくるように写真を撮れて、かつ目の前の池も写せる位置」がここでの特等席だ。

なぜ目の前の池がキーポイントなのかというと、朝日に照らされたアンコール・ワットが水面に映り、逆さ富士ならぬ「逆さアンコール・ワット」となるからだ。その様子を写真におさめるため、日の出よりかなり早くから待つ人もいるらしい。

頑張って撮った「逆さアンコール・ワット」

みんな"椅子取りゲーム"に必死で、三脚の前に人が座ると大声で怒鳴る人もいる。サンライズも「逆さアンコール・ワット」もどこからでも見えるのに、写真のために暗闇の中怒号が飛ぶとは……「誰だよ、カメラなんて発明したやつは」と少し思った。


石の上に腰を下ろして30分ほど経ち、ついに「そのとき」を迎える。真っ黒の空間に青が染み渡っていくような、そんな幻想的なサンライズだ。

先ほどまで場所取り合戦をしていた人たちも、この一瞬だけは休戦。皆、アンコール・ワットが暗闇からお披露目される瞬間に目を奪われていた。

しかし、実際に早朝のアンコール・ワットを訪れて感じたのは、本当に感動するのはサンライズではない、ということ。この時間に、この場所にいることに真の価値を与えてくれるのは、「音」なのだ。

じつは、彼方から光が差し込むと同時に、とても神秘的な音がする。虫なのか鳥なのかは分からないが、「朝日の音」と言えてしまうくらい不思議な音が聞こえるのだ。

そして、アンコール・ワットが完全に見えるくらい空が明るくなると、この音は消える。1日中いたわけではないから断言はできないけれど、きっと日が昇る一瞬にしか聴けない音なのだろう。

音の正体が知りたくてGoogle先生に尋ねようとしてみたけれど……やっぱり、自分の中では、あれは「神秘的な『朝日の音』だった」ということにしておこう——。

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