[舞台脚本]突然ですが、地球は滅びました

 バックアップを整理していたら昔書いた脚本が出てきました。 自画自賛はどうかと思いますがわりとよくかけているなと思ったので調子に乗って後半有料で公開してみます。 ざっくり30年前のものなので時代背景が古いところもままありますが、そこらへんも味だと思っていただければ。
 ちなみに、当時公演オファーは若干ありましたが、私の知る限り上演はされていません。 もし、万が一使いたい方がいらっしゃいましたらご相談ください。

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暗転、スポットライト、舞台中央に(優美)。(優美)一人芝居に合わせて後ろにモノトーンの戦争記録映像などあれば尚よし)
(優実:女子高生。土埃にまみれた服。あちこちほころびている。スカート丈短め、まくり上げたすそ、暑いので胸元が大きく開いている)

(優美) 始まりは中東の独裁国家による侵略行為でした。交易港を渇望していた某国は神話時代の記述を根拠に臨海する某々国の領有権を主張しましたが、国際的には完全に無視されました。
某国は新月の未明、予告もなく某々国に侵攻を開始。国力のほとんどを兵力に割き、国家制度の崩壊を迎えて国政定まらない某元大国より大量の武器を輸入した某国に対して、満足な軍事力を持たない某々国は数時間で要所を抑えられ、事実上の侵略が完了しました。
かくの如き暴力に対して世界中が黙認するわけもなく、世界の警察を自認する某連邦国を筆頭に編成された連合軍は某々国の自治権回復の大義の元、某々国に駐留する某国軍と軍事衝突。さらに某国に対する経済封鎖を発動しました。
これに対して某国は戦術核の使用という暴挙に至りました。某国軍に対して圧倒的な兵力を擁した連合軍の心の隙を読んだ絶妙なタイミングであり、某大国自慢のアンチミサイルレーザーの動作不良という不幸な偶然が重なりました。連合艦隊の全滅、戦死者10万人。一発の旧式核ミサイルは某国の予想をも遥かに越える戦果を上げました。
この時某国が使用した核は、宗教上の問題で独立まもなく、母国と未だ険悪な関係の続く某々々国が密かに研究開発していたものであるという事が判明したのは、その某々々国が、国際的視線が某国に向かっている期に乗じて元母国に対して核攻撃を行った後でした。
連合軍の事実上の主力であり、某国の核攻撃で数万の自国民を犠牲にした某連邦国は、全滅報告のたった数時間後、報復攻撃として某国にICBMを発射、無論、核弾頭装備の最新型でした。
某連邦国では近く大統領選を控えていました。再選を狙う某大統領は、即断の出来る人物という評判が欲しかったのです。
ヒロシマ型の1万倍と言われる最新型核弾頭に、旧式の軍備しか持たない某国が対抗できる筈もなく、一瞬にして某国の首都は消滅しました。
しかし、時を同じくした頃、某連邦国の片田舎で核爆発が起こりました。
某連邦国の早計な判断に世界中の世論が反発していましたが、某連邦国は某国を影でバックアップしていた某社会主義国の報復攻撃と断定。即座に反撃の核弾頭を発射しました。報復を予知した某社会主義国はICBMの弾道を変更することに成功。核弾頭は某社会主義国に隣接する某民主主義国に着弾しました。
とばっちりを受けた某民主主義国は、さらに隣接する某大国に協力を仰ぎ、某連邦国に対して宣戦布告、その一報が某連邦国内に伝わる前に、某連邦国の主要都市は某大国の核攻撃を被っていました。
その後、某連邦国内での核爆発は、某国とは全く無関係な某小国のゲリラ的破壊活動であることが判明しましたが、時既に遅く、前大戦以来着実に積み上げられていた国際的な信頼関係は跡形もなく吹き飛んでしまっていました。
某連邦国は某社会主義国に対する誤射を詫びる前に、某小国へ攻撃。某大国は某連邦国への報復と称して隣接する某連邦国と関係の深い某大資本国に核攻撃、国体定まらぬ某元大国では、分裂した某独立国家に核攻撃、さらに危機を脱していた某国元首より譲り受けた核弾頭を某宗教国が某対立宗教国に対して使用。某々々国は某々々々国に対して報復、某々々々々国は某々々々々々国に対して…
(優美)…(露骨に疲れる。大きくため息をつく)
(優美)つまり…世界は滅びました。

(照明入る。舞台は白の砂が敷き詰められている。 瓦礫のようなオブジェがあればよし。 砂漠のような白く強い照明)

(優美)今日も快晴…か。ほんっと馬鹿みたいな晴天。
(優美)やっぱ私が最後の一人なのかなー。
(優美)そりゃそうよね。なんで私が生きてるのか、自分自身で不思議だもんなー。
(優美)おなか減った…
(足元の砂を掘る。袋入りのアンパンを掘り出す。)
(優美) 賞味期限<本番の一ヶ月前>?ああ、やめようと思ったのにまた見ちゃった。こんなもん今更なーんの関係もないのに。
(優美) (袋を開けて匂いを嗅ぐ)…うーん、大丈夫。優美ちゃんが太鼓判!(ハイテンションで一人芝居)
(優美)わーい!
(優美)(しらけて)はぁ…食べよう。
(優美)飲み物欲しいな。
(また、足元を掘る。缶コーヒーが出てくる)
(優美)お茶がいいな
(缶コーヒーを投げ捨て、また掘る。烏龍茶が出てくる)
(優美)アンパンには煎茶なんだけど…ま、いいか
(腰を下ろして食べ始める)
(優美)…おいしい…放射能って、食べ物痛まなくする効果があるのかしら。
(優美)不思議よね。ここらへんだって何百ワットの放射能で満たされてるはずなのに。
(優美)ppmだっけ? …ま、いいか
(優美)これからどうなるのかな。食べ物はそこらを掘ればなんかしら出てくるから心配ないとして…
(優美)お天気はずーっとピーカン…地球が狂っちゃったのかしら。無理もないけど。結局何発ぶっ放したのかしら。最初から数えてれば良かった。
(優美)私が…地球最後の女…か
(優美)(一人芝居を始める。立ち位置を変えて自分にインタビューしている記者になり切り)篠原優美さん、地球最後の女になられた感想は?
(優美)えー、よくわかんなーい。
(優美)地球最後の男、オメガマンという映画がありましたが、優美さんはさしずめ
(優美)ええ、おめがまんk…ああ!カットね、ここかっと!
(優美)地球最後の女に選ばれた決め手は何だったと思われますか?
(優美)やっぱり、元気で…かわいいからかな?なんちゃって!
(優美)お付き合いしている男性とか、いらっしゃらないんですか?
(優美)出会いがないものですからぁ。
(優美)好みの男性はどんなタイプですか?
(優美)月並みだけど、包容力のあるタイプかな。
(優美)芸能人のKさんとの噂がありますが?
(優美)えー、気になるタイプですけど…あの人も死んじゃったし…
(自分の言葉に落ち込み…立ち直る)
(優美)好きな食べ物は何ですか?
(優美)アンパンと白牛乳。
(優美)それが美しさの秘訣ですか?
(優美)うーん、どうかしら。さすがに牛乳は恐くて飲んでないし…
(優美)座右の銘とかおありでしたら教えて下さい。
(優美)明日は明日の風が吹く、なんて。
(優美)今後の活動のご予定は。
(優美)最後の最後まで希望を捨てずに、どすこく生き抜く覚悟です!
(こぶしを握り顎を上げて遠くを見た視線が凍り付く。 なにかを見つけた様子。 表情が強張り、慌てて物陰に隠れる)
(優美)人よ、あれは間違いなく人!かげろうの向こうにぼんやりだけどこっちに向かって歩いてくる。
(優美)なんで逃げるのよ、優美? なんで隠れるの? 人よ! 探しまくった私以外の生き残りなのよ…
(優美)でもさ、でもさ、核戦争後の世界なのよ。文明崩壊後の世界なのよ。相手がまともな人とは限らないじゃない。
(優美)頭おかしくなってて襲ってきたりする人かもしれないし…鋲の付いた皮ジャン着て、ひゃはは、なんて笑う人だったらどうしよう。涎垂らしながら、きれーなねーちゃんだぜぇとかいって私の腕を掴んで軽々と持ち上げるの。それであんなこととかこんなこととかされちゃうの…
(優美)ううん、それでも人間だったらまだマシ。全身ケロイドで、あーあー言って襲ってくるとか…のーみそ沸騰しちゃって、狂暴化してるのよ。なぜか牙と爪だけみょーに鋭いのはお約束よね。
(優美)人の肉とか食べたりするのよね…スーパーレアとかで…
(優美)遺伝子レベルで変身しちゃって、緑の巨人?掌のぽっちを押すと糸が飛び出る変なコスプレーヤー?そういうのなんて言うんだっけ…
(優美)ミュータント!そうそう、突然変異の変な人。額の前の方に稲妻がちろりんとか走って、昼間から変な夢見るのよ。ららぁとか口走って…
優実 (急に真面目に)腕が四本とかあったら、どの手で握手すればいいんだろう。
(優美)…ハゲで中年のおじさんだったらイヤだわ…
(優美)えーえーどうするのよ、優美!そんな馬鹿な事あるわけないじゃない。現に私はちゃんと人間なんだから。勇気を出して!ファイト!
(がたんと物音、優美、息を潜める)
(忍び寄る男の影、優美、震えて丸くなる)
(浩志)ヘイ、かのじょ、お茶しない?
(優美、ぶっこける。浩志、にやついている)
(優美) こここここ
(浩志) わー照れちゃって、ウブなんだね
(優美) こここここ
(浩志) 色っぽい格好だね。Cカップ?いや、B…
(優美) こここここ(と言いながら、前ボタンを閉める)
(浩志) この出会いには運命的なものを感じるんだけど、君もそう?
(優美) この非常時に何呑気な事を言ってるのよ、あなたは!
(浩志) ばたばたさわいだって仕方ないじゃない。世界は滅亡しちゃったんだからさ。
(優美) 地球最後の女に対して「ヘイ、カノジョ」はないんじゃない?
(浩志) それをいうなら、地球最後の男に対して「こここここ」はないんじゃないかなぁ。
(浩志) 僕としては地平線のかなたから目と目をじっと合わせて無言で歩み寄り、がっしり抱きしめあって、流れるように口付けを…とか狙っていたんだけど。
(優美) 相手の好みを考えて。
(浩志) あーあー言いながら、じりじり近寄って、人差し指と人差し指をくっつけるとかってのがお好みだったのかな?
(優美) そうじゃないけど…
(優美) もっとこう、感動的な出会いってあるでしょ。世界が滅亡したのよ。文明が崩壊したの。人類の歴史に終止符が打たれたの。
(浩志) 学があるね。
(優美) ずっと…もう何日も…私が世界最後の女なんだって思ってた。
(浩志) 地球最後の女、おめがまんk…
(優美) それは言っちゃだめ!
(浩志) 検閲。
(優美) 私だっていつまで健康でいられるかわからない。
(浩志) 健康そのものに見えるけど、持病の癪でも持ってるのかい。
(優美) 放射線…
(浩志) なんだー(つまらなそうに)
(優美) なんだーじゃないでしょ。
(優美) 私、きのこ雲3つも見ちゃったし。
(浩志) 俺8つ、勝ち。
(優美) たっぷり放射線浴びてる…だからもう長くないわ。
癌、白血病…でももっと恐ろしい放射線病。
(優美) 修学旅行でヒロシマに行ったとき、原爆記念館行ったんだ。壁に、写真みたいに写った人の影。焼けこげた、人だったもの。
でも、私が一番恐かったのは、それでも生き残った人達の姿。
被爆直後は平気なの、でも発病のタイマーは確実にセットされてる。ある日突然、髪の毛がごそっと抜けるの。手足が痺れて動けなくなって、真っ赤な血をバケツ一杯も吐いて。
(浩志) ベタだなぁそういうお約束、なんかの宗教に入ってる?
(優美) 何百万アンペアの放射能浴びたかわかんないわ。
(浩志) ガウスじゃない?
(優美) いいじゃん、なんだって
(浩志) 学がないんだね。
(優美) あんたもね。
(浩志) それでメロウな気分になってるわけ。
(優美) なによ、その目は…普通なるでしょ。
(浩志) わっはっはっはっは!
(優美) なによ!なにがおかしいのよ!
(浩志) 大笑い海水浴場
(優美) おやじ
(浩志) わーっはっはっは!ひーっひっひっひ!ふーっふっふ!
(優美) やめー!笑うのやめー!
(浩志) 僕、放射線病の特効薬持ってるもん。
(優美) え?
(浩志) 欲しい?
(優美) あったりまえじゃない!
(浩志) あげようか。
(優美) ちょうだい。
(浩志) 高いよ。
(優美、足元を掘り返し、アンパンを発見)
(優美) これで
(浩志) …仕方ないなぁ…お客さん、カワイイから特別だよ。
(優美) わーい!
(浩志、茶色の小瓶をうやうやしく取り出す。キンカン。)
(浩志) はいこれ。
(優美) これ…って。
(浩志) そう。
(優美) なにこれ?
(浩志) キンカン、しらないの?
(優美) キンカン塗って、また塗って…で全国的に有名な。
(浩志) That’s right! 虫刺され、かゆみ止めに、おじいさんからお孫さんまで全国的にご愛用、常備薬のベストセラー!
(優美) (おもむろに腕に塗る)すーっとするぅ。
(浩志) 塗ってどうする!
(優美) 塗らなくてどうするの!
(浩志) こう腰に手を当てて…200ml一気に飲む!そうすりゃあ奥さん、あら不思議、放射能なんざ翌朝にゃおしっこと一緒に…
(優美) 流れる?
(浩志) That’s right!
(二人、顔を見合わせて大笑い)
(優美) だまらっしゃい!どこの世界にキンカン一気飲みする奴がいるか!そんなもんで放射能が出りゃ誰も苦労しないわ!
(浩志) キンカンを飲んだ放射線病患者の臨床例って聞いた事ある?
(優美) あるわけないじゃない。
(浩志) それじゃ少なくとも決して効かないとは言いきれないわけだ。それが弁証法、Understand?
(優美) 馬鹿馬鹿しい
(浩志) 馬鹿馬鹿しい?ああ、馬鹿馬鹿しいさ。今でもこの世界は何万ヘルツの放射能で充満しているんだ。
(優美) ヘクトパスカル?
(浩志) お、通だね。ミリバールとか?
(優美) ニュートン
(浩志) ギガバイト
(優美) んー…ミリリットル?…キロメートル?…
(浩志) 話、戻していいかな?
(優美) う…どうぞ
(浩志) この世界がいい見本だ。 大規模な核戦争が起これば死の灰は大気圏上層に分厚い層を作り日光を遮断する。 地表に到達する太陽光は1/100以下に減少し、平均気温は20℃以上下がる。 生きとし生けるものは凍り付く。 核の冬。
大量の放射線を含んだフォールアウトを核にして地表に大粒の雹が降り、焼け残った建造物ごと生き残った生物を潰し殺す。
フォールアウトの雲が洗い流された後に残るのは跡形もなく寸断されたヴァンアレン帯にぱっくり開いたオゾンホールから降り注ぐ殺人的な紫外線。 この段階で地表の状態は金星と大差ない死の荒野になっている…偉い肩書き背負った科学屋さん達が大本営発表した定説だ。
実際はどうだ? フォールアウトは早々に降り積もり、地上は放射能のぎっちり詰まった死の灰の砂漠。 空はピーカン。
(浩志) 誰も試そうとも思わなかった、馬鹿みたいな量の放射能をガンガン浴びまくって未だ元気に転げまわってる僕らの方がよっぽど非科学的。 僕らがこうして息をしていること自体、既存科学を真正面から大否定してるんだよ。
知ってるか?学会なんてのは所詮学者先生の仲良し会。 学会が認めた定説ってのは真実じゃない、その時の流行に過ぎない。 正しいことなんて全部やってみなきゃわからない。 科学は常に事実の後追いに過ぎない。
(優美) そうなの。
(浩志) 一流の学者なら学会追放されてなんぼだろ。 鉄腕アトムを作った天馬博士だって、キカイダー作った光名寺博士だって、一流の学者はみんな追放されてるんだから。
(優美) そういうこと言うから信頼度さがるのよね。
(浩志) (ふっと気持ちが切れて、落ち込む)信じられないんだよね。コペルニクスやコロンブスもこんな気持ちを味わったんだろうな。ああ、悲しいなぁ、重力に魂を売り渡した人たちは。
(優美) …
(浩志) ぶっ壊れたのは文化や社会だけじゃない。既存の科学信仰って奴等もまとめて崩壊した世界なんだ、ここはさ。
それでもまだ、例の、魔法の言葉を唱えるのかな『非常識だ』『非科学的だ』って…
(優美) …わかったわ…私が悪かった。あなたを信じる。
(浩志) いい子だ…はい(キンカンを手に持たせて)腰に手を当てて…一気に。
(優美) んぐっ…んぐっ…んぐっ…
(浩志) うわぁ…
(優美) けほっ!けほっ!
(浩志) 美味しい?
(優美) 美味しくて飲んでるんじゃないわよ。
(浩志) いやー凄い。本気にしたよ、このお嬢。いやーぶらぼーぶらぼー!
(優美) なにそれ
(浩志) 本気にした?
(優美) 冗談なわけ?
(浩志) どこの世界にキンカン一気のみする奴がいるかいw
(優美) 飲んじゃったじゃない!
(浩志) 中身はただの重曹だよーん。
(優美、拳を振り上げて浩志を追い掛け回す…やがて疲れて座り込む二人)
(浩志) この砂…ただの砂じゃないんだぜ。フォールアウト、核爆弾の残りカス、僅かでも強力な発癌性のある高濃度放射線放出物質。
(優美) 知ってる。
(浩志) この世界はさ、原子炉の中と大差ないくらいの放射線が充満してるんだ。 生きているのがなにかの間違い、ここから先のことなんて誰も体験してない、仮定さえしていない世界なのさ。
(優美) 知ってるってば。
(浩志) (にかっと笑う)ポジティブに生きるしかないじゃない。
(優美)わかってるよ、多分
(浩志)君が暗いから、なぐさめたんじゃないか。
(優美)あんたのやり方、キライ。
(浩志)…元気になったでしょ…
(優美)…まぁね…悩むの馬鹿馬鹿しくなっちゃった…
(浩志)川崎浩志、S大二年…君のお名前は? どーぞ?
(優美)篠原優美、高三… どーぞ。
(浩志)ゆうみって、どう書くの? どーぞ。
(優美)優しく美しい…どーぞ。
(浩志)高三って、受験だったんだ…ラッキーだったね、世界わやになってさ…どーぞ。
(優美)推薦決まってたから…どーぞ。
(浩志)それはまたご愁傷様でした…どーぞ。
(優美)…
(浩志)やっと巡り合えた二人なんだからさ、仲良くしようよ…どーぞ。
(優美)カルイ男はキライです、どーぞ。
(浩志)やっぱり、胸に七つの傷を持ってる人とか好みなの。
(優美)藤岡弘、様とか
(浩志)仮面ライダー?
(優美)あの武士道精神、シビれちゃうと思わない?
(浩志)俺、君の思考回路にシビれてる。
(浩志)(自分を指さして)一緒にいると得だよ。俺、S大探検部。サバイバル結構得意分野なんだ。
(優美)どうせパリピ系サークルでしょ。
(浩志)馬鹿にしてはいけない。経験は豊富なのだよ。
(浩志)いろんな所を探検して回ったなぁ、命懸けの冒険もあった
(優美)どんな所?
(浩志)高いところはスカイツリー展望台から低いところは六本木の地下秘密クラブまで。
(優美)それって、パリピサークルって言わない?
(浩志)そうともいう。
(優美)頼りにならないわね。
(浩志)わりかしいい線いってると思ってたんだけどなぁ。
(優美)うぬぼれよ、うぬぼれ。
(浩志)上下ベルサーチなんだぜ、これ。 そりゃちょっと砂が入っちゃったけど、しょーがないじゃん。
(優美)TPOってのがあるでしょ。
(優美)銀座のナイトクラブ、訳アリの女が一人寂しくカクテルを傾けている。白髪交じりのバーテンが差し出すグラスに、注文していないわと言いかける女を制して、あちらのお客様からです。視線の向こうにベルサーチの男…
(浩志)いいじゃない。
(優美)人跡未踏のアマゾン奥地に踏み込んだ女冒険家。
(優美)右を見るとワニ!
(優美)左を見るとヘビ!
(優美)前を見るとベルサーチの男…
(優美)感動出来る?
(浩志)ごっつのコントみたいだな。
(優美)今がまさにそんな感じなの!
(浩志)言わせてもらうけどね、ここはアマゾンの奥地でもなきゃ南海の孤島でもない。 渋谷センター街、109の前方数メートル地点。若者のメッカ、ナンパのワンダーランド、ヘリウムより軽い空気で満ち溢れた地帯だよ。 郷に入っては郷に従う。僕の方が正しい。
(優美)ここ、渋谷?
(浩志)今、証拠を見せてやる!
(浩志、やにわに地面を掘り始める、そしてなにかを摘み上げる)
(優美)なに?
(二人で摘み上げたものを見つめる)
(二人) 浅草名物雷おこし?
(優美、どっと疲れて座り込む、浩志も)
(浩志)おっかしーなーどこで道間違えたんだろう
(優美)おかしいのはあんたの頭
(浩志)あーあれだ。そりゃまぁ多少の誤差はあったけど、結局のところ東京には変わりないんだし。
(優美)わかってるわよ。
(浩志)結構、気を遣ったつもりだったんだけどな。
(優美)そうかもしれないね、ごめん。
(浩志)怒ってない?
(優美)怒ってないよ。がっくりしただけ。
(浩志)理想ばっかりに固執してるといい出会いができないよ。恋愛には割り切る勇気が必要さ。
(優美)恋愛じゃなくて、人類の存亡を賭けた出会い。
(浩志)モア感動的じゃない。
(優美)もっとサバイバルな感じだと思ってた。
(浩志)モヒカンで、ピアスで、タトゥーで、鋲の付いた皮ジャン着てひゃはははとか笑ってたりして?
(優美)胸に星座の形の傷がある方がいい。
(浩志)おまえはもう死んでいる?
(浩志)天気はピーカン。食い物は足元を掘れば出てくる。サバイバルどころかとんだ桃源郷じゃないの。今と比べりゃ崩壊前の日本は妖怪百鬼夜行。
(優美)明日には核の冬がやってくるかもしれないわ。
(浩志)気象予報士のあまたつが生きてれば、うまいこと季節のうんちく教えてくれたかもしれないのにね。
(優美)食べ物だっていつまで続くか分からない。
(浩志)一億三千万人の食料、二人じゃ食い切れないだろうさ。
(優美)物は腐るのよ
(浩志)カップ麺って賞味期限何年あるんだろう
(優美)五年も拾い食いで生活する気?
(浩志)とりあえず喪が明けるまではだらだらしてようよ。
(優美)…(再び現実に立ち返り、沈む)
(浩志)あ、ごめん…
(優美、立ち上がる)
(浩志)何処に行くの
(優美)どこでもいいでしょ。
(浩志)まさか、このままバイバイってわけじゃないよね。
(優美)さぁ、どうかしら。
(浩志)おいおい、ただのナンパじゃないんだぜ。
(優美)あんたが言わないで。
(浩志)俺は人類最後の男、オメガマン。そして君は人類最後の女、オメガマンk…
(優美)それは言わない。
(浩志)好みじゃないから次の男って訳にはいかないんだぜ、この出会いには人類の存亡がかかっているといっても過言ではないんだよ。
(優美)いいからそこどいてよ。
(浩志)藤岡弘、に出会える可能性なんて限りなく0に近いんだよ。
(優美)話し合う時間がないの。(真剣)
(浩志)よしわかった、こうしよう。五年計画で胸板30cmアップを公約しよう。
(優美)どいて。
(浩志)どかない。
(優美)どきなさい!
(浩志)(真剣)俺、多分、これが一億三千万分の一の出会いだったとしても、君を見つけたと思うよ。自信がある。
(優美) …
(浩志)無理強いはしないよ。君の心が傾いてくるのをじっと待っている。時間は幾らでもあるんだから。
(優美)…トイレ…
(浩志)あ…失礼しました。
(優美はける)
(浩志、ボーッと待っていると、微かな物音に気づく。今までになくシリアスに、遠くから聞こえるその音に耳を澄ます)
(耳をそばだてていると、優美が帰ってくる)
(優美)はいはい、あなたの愛しい優美ちゃんが帰ってまいりましたよ。
(浩志)し!(強引に引き倒して口を塞ぐ)
(優美)なによ、乱暴しないって言ったじゃない。
(浩志)静かに。
(優美)ちょっと止めてよ、怒るわよ、本気出すわよ!こうみえてもあたし東京ドーム地下闘技場でわりといい線いってたんだからね!
(浩志)静かにしてくれ!
(優美)…
(浩志)聞こえないか?
(優美)…大勢の…人の声…
(浩志)多分…正解…
(優美)…わぁわぁ言ってるみたい…変なの…
(浩志)かなりの人数がいるみたいだな。
(優美)犬の遠吠えみたい…なんであんなに叫んでるの…
(浩志)行こうか。
(優美)どこへ?
(浩志)皆さんのところへ。
(優美)ちょっと待って…なんだか不気味じゃない…変よ、わぁわぁ言ってるじゃない。
(浩志)だから?
(優美)なんか…邪教のお祈りみたい…まともな人たちじゃなかったらどうするの?
(浩志)人に変わりはないさ。
(優美)私やあなたみたいに理性的な人間とは限らないわ、こんどこそ、皮ジャン着てひゃははって笑う人たちだったら…見上げるくらいの大男なのにお化粧してるのよ、それでもって、あたしって奇麗? とか涎垂らしながら言うのよ。
(浩志)三流劇画の見過ぎだよ。
(優美)でも。
(浩志)人間はそんなに弱い生き物じゃない。俺や君に出来て、他の人に出来ない道理がないさ。
(優美)だけど。
(浩志)この世界、二人だけじゃ広すぎる…そう思わない?
(優美)…うん…
(浩志)行くぞ!
(優美)あ!待って!
(暗転)

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前半ここまでです。



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