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収銀車が走る......香港から硬幣は消えるか?
香港のコインは重く、厚く、かさばる。そんな香港コインを電子マネーに変える便利なサービスがある。それは、タンス預金を一掃し、キャッシュレスへの一歩を踏み出すための現実的なアイデアであった。収集車ならぬ収銀車が団地の広場にやってきて、かさばるコインの山を飲み込む。別名を神沙車とも言う。
硬幣の退蔵
紙幣を使って買い物をすると、お釣りの小銭を受け取って、硬貨が貯まっていく。カードと携帯アプリで生活するようになると、小銭入れの出番は減るが、貯まった硬貨はいつまでも減らない。
キャッシュレス社会を推進するためには、カードとアプリを提供するだけでなく、貯まったコインの解消も重要な課題である。そんな問題を解決するユニークな方策が香港にみられる。
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収銀車が走る
香港の街を走る収銀車は、デリバリートラックのような外観であるが、商品を販売するのではない。家庭に眠るコインの山を飲み込み、退蔵量を減らすことが役目である。
収銀車は集合住宅の広場など、住宅街の便利な場所に停車して、住民がやって来るのを待つ。硬貨を袋に入れた住民が代わる代わる普段着でやって来て、小銭の山を軽くして去っていく。
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オクトパス
収銀車の前には机をが置かれて、住民は持ち込んだ硬貨をプラスチックのカゴに流し込む。係員がクリップやボタンなどの混入物がないか確認してから、係員の案内で収銀車を利用する。
要綱によると、収銀車に持ち込める硬貨は、一人あたり10キログラム以内である。計測を終えた硬貨は、香港紙幣、または、オクトパス電子マネーもしくは電子銭包へと変換される。
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電子の銭包
オクトパスは香港で普及する電子マネーとして、日本でも知名度が高い。では、電子銭包とは何を指すのだろうか。ここでは、QRコード決済などのカードレス決済をまとめて電子銭包と呼んでいる。
電子銭包には、アリペイ、ウィーチャットペイなどの大陸系アプリのほか、香港ローカルとして、O! ePay、Tap & Go、そして香港由来の送金サービスTNGが含まれている。
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俗称は神沙車
TNGのホームページには、収銀車による換金先としてQRコード決済アプリが加えられたことを歓迎する記事がある。それによると、収銀車はニックネームで神沙車と呼ばれることがある。
どうやら、コインを飲み込むマシンを神沙機と呼ぶようだ。香港には、キオスク端末型の神沙機として、民間のHEYCOINSと換龍機の2種類があって、公的な収銀車とあわせて三大神沙機に数えられる。
収銀車を造る
香港金融管理局HPの硬幣収集計画のページには、収銀車1号と収銀車2号が香港の18区を巡回するスケジュールが載っている。月曜日から日曜日にかけて、一つの場所で一週間単位でサービスを提供する。
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収銀車製作過程影片という項目を開くと、トラックを改造して収銀車を製作する過程を映像で見ることができる。一部の工程はカーテンに隠されているが、1分13秒の早送りで収銀車が出来上がる。
お金の収集車
キャッシュレス社会を推進するには、現金を電子に置き換える仕掛けが必要である。重たいコインを銀行まで運ばずに済み、金額を数える手間も省ける収銀車は、住民目線のサービスだと言える。
10キロのコインが電子的貨幣に置き換えられるサービスには、重さ以上の価値がある。数値計画にとどまることのない、地に足の着いたキャッシュレス推進策の例として、参考とすべき点は少なくない。
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Photos by H.Okada in Hong Kong