TOMORROW X TOGETHERとの出会い
ここではわたしがTOMORROW X TOGETHERを好きになったきっかけについて話したい。
ベテルギウス
これは私が彼らの沼にハマることになった最も直接的なきっかけだ。
TXTのメンバーの1人、ヒュニンカイが音楽番組にてカバーした「ベテルギウス」は大きな反響を呼んだ。
実際私も当日リアルタイムで見ていたわけではなく、SNSに流れてきたその動画に心を奪われたのだった。
彼の優しく甘く切ない歌声はあまりにも私の心に刺さってしまった。何がそんなに良かったのかと聞かれても今の私ではあの感情の10%も伝えられない。
励まされたのか、共感したのか、驚いたのか、感動したのか、そのどれでもあるような気がするし、どれもなんだか違うような気もする。
届かないと分かっていながらも伝えようと苦しんでしまう切なさ、そんな思いを認め抱えながらも前を向いて生きていく姿がそこにあるようで、それはまるで自分が押し殺した自分自身であるようだった。
弱気になりがちで、自分を守るために何も考えないことを選択するようになっていた当時の私には、その姿は猛烈に眩しく美しい光だった。
雷が落ちたような衝撃とも違くて、その歌声はすぐさま私の心に染み渡り、ただただ満たして肯定してくれるような温かさがあった。
この人の歌が好きだと直感的にそう思った。
その人の歌が好きというのは、私からすればその人自身を好きだと言っているのと変わらなかった。
認めざるを得なかったし、既成事実としてもうずっと長いことそこにあったかのような顔をしてその鮮やかな感情は存在し始めた。
とはいえそれだけでTXT、ヒュニンカイにハマったわけではなかった。
元々わたしは“熱しやすく冷めやすい”を体現したような激しく飽き性な人間で、何かを好きになっても「どうせすぐ飽きるんだ」という諦めが付き纏う。
これはときに私の心を蝕むような寂しさでもある。今回もきっと今までと同じだ、ぽっと燃え始めたこの感情もすぐに初めから何もなかったかのように消えてしまう。あまり思い入れを持たないようにしておこうぐらいに思っていた。
9と4分の3番線で君を待つ
そんな矢先、あることを思い出してしまった。
そういえば私、TOMORROW X TOGETHERを生で見ることが夢だったな…
というのも約3年前、私は彼らの「9と4分の3番線で君を待つ」という楽曲の虜となり、一時期狂ったように聴いていた。
当時の私は高校1年生。
対人関係、部活動と悩みの尽きない高校生活を送っていた。そして私は時折無性に死にたくなる厄介な人間だった。ちょうどこの楽曲に出会ったのも希死念慮に襲われていたときのことだった。
だらだらと見ていたTikTokに流れてきたその歌詞動画に、私は気づけば涙を流していた。それこそ雷に打たれたかのような衝撃を受けて。
何よりも私の心を突き刺したのはこのパートだった。この苦しい現実から逃げ出したくて、どこか遠くへ、誰も私を知らない場所へ行ってしまいたかった。一緒に逃げようかというその歌詞は、その時の私を救うには十分で、何より求めていた言葉だったのだと今になって思う。
ハリーポッターが大好きで、魔法の世界に逃避することで救われた中学時代を過ごした私には、尚のことこの歌詞が大きな意味を持っていた。
「一緒に魔法の世界へ逃げよう(私の勝手な解釈)」だなんて、この曲は私のために作られたのだろうかと思ってしまうぐらいには、私の苦しみ全てを請け負ってくれる希望だった。
どうしても学校に行きたくない日はこの歌を聴いてなんとか登校したことをよく思い出す。
当然、TOMORROW X TOGETHERというグループにも興味を持った。しかし、私が陶酔したのはあの曲でありあの世界観だった。
彼らがアイドルだったから好きになったのではなかった。美術館に並んでいてもおかしくないそのビジュアルに惹かれたのでもなかった。
9と4分の3番線で君を待つというその一曲が、当時の私が惹かれたすべてだったのだ。
余談になるが、当時は0X1=LOVESONGの日本語バージョンがちょうどリリースされた時期(2021年11月)。2022年秋頃、Good Boy Gone Badの日本活動期間をリアルタイムで追った記憶もあるしこれはすごく刺さった記憶がある。が、結局ハマることはなかった。
メンバーの顔と名前は一致していたが、TOMORROW X TOGETHERは、私の中で“なんとなく好きなグループ”にとどまっていた。かっこいい上にパフォーマンスのレベルも高く、KPOPに疎かったわたしには彼らがその象徴でありトップですらあった。なにより彼らは本当に実在してるのか?とまで思っていたぐらいだ。あまりに遠い存在だったのかもしれない。どれだけ魅力的なグループがあろうと結局はタイミング次第で、かつその出会いは自分から掴むしかないのだなと思う。
ある日、“9と4分の3番線で君を待つ”を日本で披露しているライブの映像が流れてきた。
「え、これってライブに行ったら生で聴けるものなんだ…」という至極当然の事実に私は衝撃を受けた。そもそも私はアイドルと無縁の人生を歩んできており、初めてアイドルにハマったのもコロナ禍だったためにアイドルは会える存在だという認識がなかったのだ。そのうえ「あの歌って幻じゃないんだ!?」というバカみたいな理由で驚いている自分もいた。
それだけ9と4分の3番線で君を待つという楽曲と、TOMORROW X TOGETHERというアイドルは、私の中で神格化されていた。
その動画を機に、彼らのライブに行って943を生で聴くことを夢みるようになった。
これまた余談になるが、当時の私は「逃げようか」のパートを歌っていたヨンジュンさんに心を奪われ彼の943のチッケムは一通り見たほどで、その現実離れスタイルを死ぬまでに一度は拝見したいという思いも少なからずあった。
TXTを推すことになったら間違いなく彼が推しだろうなんて思ってもいたのだが、実際いま私が最も熱を注いでいるのはヒュニンカイさん…。人生なにがあるかわからなくて面白い。
ACT:PROMISE
943についてだいぶ話しすぎてしまったが、ヒュニンカイのベテルギウスに聞き惚れた私は「彼の歌声を生で聴きたい」と思い立ち、浮き足立つような心持ちで[TXT ライブ]と検索をかけた。するとACT:PROMISEというツアーがヒットした。あれ、先週東京ドームで公演してる…行けたじゃん…とかなりショックを受けるなどした後、残りの会場を確認すると大阪、名古屋、福岡。どれも遠征になってしまう。やっぱり厳しいかなと諦め始めた。
ここでふとそういえば私、TXTのライブに行って“9と4分の3番線で君を待つ”を聴くことが夢だったと思い出したのだ。
これはもう行くしかないと次の瞬間には決済画面にいた。半ば勢いに任せてチケットを取ったが、冷静にかかる費用を計算したら5万円と発覚した。決してお金に余裕はなかったので後悔の念が押し寄せ始め、楽しめるかな…という不安を抱えながら公演当日を迎えた。
この考えなしに行動に移してしまう浅はかさに私は幾度となく苦しめられてきたのだが、今回のように時にとんでもない幸運を運んでくれるからやめられないし憎めない。
8月5日。
蒸し暑さに全ての気力を奪われかけながら会場に到着。
ライブはあっという間に終わってしまった。
とんでもなく楽しかった!
これほどまでに楽しかったライブは初めてだった。ただただ楽しかった。夢が叶ったという実感より、TOMORROW X TOGETHERって実在していたんだという感動より、その日は本当に純粋に、「たのしかった!」としか言いようがなかった。
そして桁外れにかっこよかった。強烈でありながらも優しく、穏やかな5つの光を見たようだ。
デビュー6年目にもなる彼らは公演には十分慣れているだろう。ところどころでその余裕は感じるのだが、妥協のようなものは一切感じさせず、その代わりに彼らの覚悟というか気概のようなものを感じるパフォーマンスだった。
一心不乱に踊り歌って、絶え間なく幻かの如く輝く彼らに心を奪われたのは言うまでもなかった。そして彼らの人を幸せにするエネルギーにただただ圧倒された。ライブ前「5万円か…」と激萎えしていたのが嘘かのように、わたしは幸福感に包まれ、すごいものを見てしまった…と半ば放心状態でホテルに帰った。
パフォーマンスのレベルの高さはさることながら、天井席でも十分に楽しめてしまう演出の豪華さ、日本人がいないにも関わらずずっと日本語でMCをしてくれること、感動したポイントは無数にあった。だが、何よりも彼ら自身の楽しそうな姿に私は心打たれたのだと思う。
つまらない日常、つまらない悩み、つまらない自分自身、なにもかも吹き飛ばしてくれるような鮮烈な輝きで、私の心に鮮やかで幸せな記憶として刻みこまれた3時間だった。
この日の高揚感は今まで味わったことがなかった。軽い気持ちで参戦したライブで、いまでも鮮明に思い出せるほど心躍る煌めく時間をもらってしまったのだ。
私がMOAになったのはこの日だ
明確にそう言いきれてしまうほど、私はこのライブを通して彼らのことが大好きになった。ぼんやりとした「好き」が「大好き」に変わった日だった。
そこから日も経たないうちにFCに入り、今日まで彼らへの思いは強く重くなっていくばかりだ。
今回もきっと一時的な気の迷いだ、なんて悲しく諦めていた過去の自分を微笑ましく思えることが嬉しい。
9と4分の3番線で君を待つという楽曲に救われた3年前の私、ヒュニンカイのベテルギウス、ACT:PROMISE、そのどれかひとつでも欠けていたら私はきっとMOAにはなれなかった。
彼らのおかげで輝く日常を見ることも、こうしてどうにか言葉にして残したいと思える感情と出会うこともきっとなかった。
“9と4分の3番線で君を待つJapaneseVer.”にはこんな歌詞がある。
TXTのライブで943を聴くという夢が叶ったあの日を思い出すと、この歌詞が浮かぶ。
あの日は、トンネルを出て目を開けた先に、夢見ていた魔法の世界を見つけてしまったかのような一日だったからだ。
わたしにとって魔法は現実からの避難所であり、何よりも救いだった。そんなものが存在しないというのは分かっていて、でも信じる事で救われる自分も確かにいて、そんな、祈りに近いなにかを感じられる場所。
トンネルを出て目を開けるのには随分と長い時間をかけてしまったけれど、この偶然と気まぐれの連続が、わたしの中に夢として存在していた彼らを、その煌めきを失うことなくたしかな現実にしてくれた。
魔法のような夢は、現実になりえないと分かっている。
それでも、たしかな現実のように感じられるほど、それが大きな力を持ち始めた瞬間だったのだと思う。
3年の時を経て叶った夢は、私とTOMORROW X TOGETHERを繋げてくれた。
私はこの奇跡をいつまでも忘れず、彼らが約束してくれる明日を生きたいのだ。