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【映画レビュー】シニアイヤー
『シニアイヤー』を観た。
ハイティーンだった主人公は、人生最高の時期に転落事故により20年間昏睡状態となる。
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37歳という「若い」とは言い切れない歳に目覚め、精神年齢が17歳のままの彼女が、過去の光栄を再現しようと奮闘する話だ。(彼女とは対照的に、彼女の同級生がキャリアを積んでいたり、第二の人生を生きていたりする描写がされている。)
劇の序盤は、20年という時代の変化について語る。
競争、セクシャルな時代から→公平、多様性へと認識の違いを説明しつつ、両時代のデメリットも表現されている。
「過去のレイシストな価値観は消えるべきだが、決して今も正解ではないよ」、と。
それと同時に、その過去の「嫌な」価値観を否定してきたはずなのに、今もなお同じことが起きてるということも。
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20年前は「プロムクイーン」がスクールのトップだったが、今は競争はしない!主張しつつ、そのクイーンが形を変え、「インスタグラマー」がスクールのトップとして君臨しているのだ。
(セクシーな素人たちをモデルとして起用し、「綺麗でかっこいい人が着る服」とマーケットを展開していたアバクロンビー&フィッチが、20年前のスクールカーストの一例として挙げられていたこともとても面白かった。)
そして劇の全般で、今の新しい価値観として、特にMZ世代にとってプライオリティなキーワードの、「自信」が強く表されている。
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主人公は、37歳でも17歳っぽく振る舞うことを恥ずかしく思わず、スクールカースト上位であることを信じ切っていてどこかいつも自信に溢れている。
それに昏睡状態になったことで叶えられなかった、プロムクイーンになりたい!という願い一つで、高校を通い始めるのである。(卒業するまでの数ヶ月間という期間)
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そして若い子ばかりの環境にもよく馴染んで願いを一つ一つ叶えてゆく。(ここでは多様性を認めるという現代の良さが描かれている)
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高校生の時に作ったウィッシュボード(叶えたい姿の写真や言葉を貼ったもの)を、自分の状況に応じて作り替えて、一つ一つ叶えていく姿がまた印象的だ。
そんな主人公の、変わってしまった学校の雰囲気にも屈せず自分らしさを出していく姿が、「昏睡状態を乗り越えて何歳でも挑戦し続けるあなたがかっこいいわ!」と、インスタグラムのフォロワーから応援されるのだ。
自分らしさを出せない周りの人や、人の目を気にして本来大切にすべき人を見失ってしまうシーン。
この映画は、わたしたちに他者から否定されることを怖がりビクビクしていないか?と問いかける。
そして主人公の真っ直ぐで素直な言動が、私たちにその殻を破るべきと語りかけるのだ。
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『シニアイヤー』
最近の映画らしく、誰も傷つけず、ハッピーに都合よく終わってしまうところや、説明が足りない箇所はあった。
しかし、ネットの世界まで他者と繋がってしまっている今、知らず知らずして他者を意識していたのではないだろうか?と一度考えさせられる映画でもある。
わたしたちは、この世界とどう付き合っているのだろうか。
一度考えてみてもいい問いかもしれない。
○
インド系の女の子が、将来アメリカの大統領になる!と野望たっぷりで、そのために高校生のうちからスキャンダルを意識して過ごすシーンがある。
彼女や主人公周辺のメンバーのシンボルがアメリカの文化をよく体現していて、そういった勉強したい人にちょうどいい映画だと思う。