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『つ』の名は。

生きているだけで額から汗流れる3連休の初日

Spotifyで音楽を聴きながら歌詞を追っていたら、少しピントを外した眼球がとらえた文字の集合体が表現する独特な形にハッとして

忘れられない、
あの文字の形がフラッシュバックした

2017年12月9日に発売された宇多田ヒカルの歌詞集「宇多田ヒカルの言葉」

デビュー楽曲「Automatic」から
最新曲「あなた」まで
これまでに発表したすべての日本語歌詞が
レコーディング順に綴られた一冊

この本を手にした2017年の12月9日
右手にピンクの蛍光ペンを持ち
グッときた歌詞を噛みしめ線を引きながら
彼女の言葉を貪るように味わった

そして気がつく

「どう考えてもこのフォントは、宇多田ヒカルの言葉を綴るために作られた特別なものなのではないか?」

という事に

だって、明らかに文字の形がうつくしい…

独特で、少しの怪を感じるバランス
細いけれど、しっかりとした存在感のある線

その中でも特に『つ』の文字が素晴らしく
左右のバランス、右側の曲線、線と線の間隔
どの観点からも、私が今まで見てきた『つ』ではない

部屋でひとり、
「うおお、このフォントすきだすきだすきすき」と思いを募らせていたら急に

このフォントの…名は…

という思いに、その穴にすとんと落ちた

ルックスだけの一目惚れとはいえ
こんなにも好きなのだから
名前くらい知りたくて当然だろう
単に<フォント>と呼ぶより
<明朝さん>とか<ゴシックさん>
とか呼びたい、呼ばせて欲しい

出会ったばかりのフォントへの興味に興奮しつつ一番最後のページをめくる

株式会社エムオン・エンタテイメント
TEL:03-××××-××××(お客様相談係)

よ、し!
問い合わせよう、聞きたいことは直接聞こう

電話番号を確認し、iPhoneのパネルを人差し指でタップする
そのまま右手にそっと持ち
電話マークの緑のボタンで電話をかける

「お電話、ありがとうございます。エムオン・エンタテイメントでございます。」  (おおお…本当に出た。。)

「あ、すみません。わたくし、「宇多田ヒカルの言葉」を購入させて頂いた者なんですが…。あの、もし可能であれば、こちらの本に使用している<フォント>の名前をお教え頂くことはできないでしょうか?」

「…。お問い合わせ頂きありがとうございます。「宇多田ヒカルの言葉」の<フォント>ですね。担当者に確認致しますので、少々お待ち頂いても宜しいでしょうか?」

「はいっ。お願いします。」

(優しい保留音)

「お待たせしております。申し訳ございません、只今担当者が外出中でして…折り返しのご連絡でも宜しいでしょうか。」

「あ、はいっ。大丈夫です。」

自身の電話番号を伝え、電話を切る
切った瞬間、襲う自意識

あれ…この問い合わせ何か気持ち悪くないか…絶対やばい奴だと思われたな、、あわあわ。でもまあいいか、顔も名前も知らない人だし

そして翌日、担当者の方に確認をとって下さった、お客様相談係のお姉さんから丁寧な留守電が入っていた

「お問い合わせ頂いておりました「宇多田ヒカルの言葉」のフォントの名前についてなのですが。現在、デザイン会社に確認をとっておりまして…。大変恐縮ですがもう少しお時間を頂けますでしょうか。また、デザイナーの意向によりお教えできない場合もあるとのことです。ご了承頂けますと幸いです。」

…ですよね、ですよねーー。
そもそも、書籍に使用しているフォントを問い合わせるなど、もしかして物凄くタブーなんじゃないか…大人としてどうなのよ、その辺のマナーは

結局、再度お客様相談係のお姉さんから

「宇多田ヒカルの言葉」のフォントの名前について確認致しましたところ、やはりデザイナーの意向によりお伝えできないとの事でした。お問い合わせ頂いたにも関わらず誠に申し訳ございません。」

と丁寧な留守電が入っており、未だに『つ』の名を知る事はできていない

そして今日もまた、名も知らぬ『つ』に思いを馳せている

#宇多田ヒカルの言葉   #宇多田ヒカル #音楽  #雑念 #エッセイ #フォント

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