NETFLIX流フィードバックを学べる 『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』

NETFLIX創業者のリード・ヘイスティングス本人による著書『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』。

本書を手にとったきっかけは、NETFLIXの開発組織と開発者像のの一つの提示モデルである「フルサイクル開発者」の定義を現職でも取り入れたことに始まる。

BASE BANKの開発チームでは、自分たちで開発したサービス・機能をグロース・サポートまで担当します。そのため次のようなシステム開発ライフサイクル全般に積極的に関わっていただきます。

「フルサイクル開発者にしよう」というよりも、現在の状況を鑑みて最も齟齬がない定義をする場合結果的にフルサイクル開発者という定義がしっくり来たという思考過程で選定した言葉である。

しかし、フルサイクル開発者という言葉自体はNETFLIXの組織の実装の結果定義された語彙である。なるべく用心をして周辺の情報を集めた上で理論的背景も加味してはいる。しかし、そもそもNETFLIXという企業がどのような文化的背景・カルチャーにあるのか、ということを知らないと猿真似の骨抜きになる可能性がある。

ゆえに、創業者がどういう組織にしたのかというカルチャー的背景を知るため手にとった。

読んだ結果フルサイクル開発者の理解の修正は必要なかったが、かわりにフィードバックについての考え方に個人的なブレークスルーがあった。

背景:「ピュア・ソフトウェア」の経験

創業者がNETFLIXを創業する前「ピュア・ソフトウェア」という会社を経営されていた。

社員の増加に伴い発生するミスによる余計なコストの再発防止を防ぐために新しいプロセスを取り入れ続けた結果、管理手続きが山のようにできた。結果、決められたルールの中でうまくやれるものが出世する一方で、クリエイティブな一匹狼タイプが会社を辞めていく。そうすると、迅速にイノベーションが生み出せなくなり、業務の効率が高まる一方クリエイティビティが低下、市場の変化(C++からJavaへ)に適応できなくなった。そして身売りする結末になった。

その体験があるゆえ、ミスを防いでルールに従うよりも、柔軟性・自由・イノベーションを重視することを考えた背景がある。

このエピソードを聞くとNETFLIXに代表される取り組みの入口が見えてくる。

背景:ドットコムバブル崩壊に伴うレイオフ体験

ドットコムバブル崩壊に伴い当時のNetflixも例外ではなく、レイオフ等によるコストカットにより社員の1/3が解雇することとなった。発表当日は解雇された社員が泣き出したり起こったりと当然混乱が生まれたようだが、予想に反してその後残った社員からの不満や混乱は生まれなかったという体験をしている。

だがフタを開けてみると、涙を浮かべ、明らかに悲しそうに見える者もいたが、みんな落ち着いていた。それから数週間も経たないうちに、なぜか社内の空気は劇的に良くなった。会社はコストカットを進めており、社員の3分の1がいなくなった。それにもかかわらず社内には突然、情熱、エネルギー、アイデアが満ち溢れるようになった。

むしろ社内の雰囲気がよりイノベーティブになったことから、のちに優秀な社員が集まるプロスター選手の集団と捉え、能力密度を高めるべきだという現在のNetflixの姿へとつながっていく。

土台となる2つの要素

土台となるのは2つの要素だとしている。

能力密度を高める
率直さを高める

能力密度を高めるとは、優秀な人材で組織を作ればそもそもコントロールの大部分は不要になるという考え方。

率直さを高めるとは、パフォーマンスの質的向上にために必要なフィードバックをできるようにする。

これらの要素を土台とすることでコントロールを減らせるというのがNETFLIXのモデルである。なお、途中でカルチャーの醸成にかかった年数がサラッと言及されていたが、おおむね8年の年月で「率直さを高める」カルチャーになっていったそうだ。

カルチャーに齟齬がある状態で経費規定・休暇規定を廃止するといった具体的な施策を真似すると単純にカオスになってしまうことがこの土台理解から明らかになってくる。

コントロールを撤廃することで結果的に「Freedom & Responsibility」というカルチャーにつながっていく。

Our goal is to inspire people more than manage them. We trust our teams to do what they think is best for Netflix — giving them lots of freedom, power, and information in support of their decisions. In turn, this generates a sense of responsibility and self-discipline that drives us to do great work that benefits the company.

従業員の立場として参考になるのはこのカルチャーを醸成するために多くのテクニック・知見を持っていてそれを紹介してくれているところだった。

特に参考になるのはフィードバックのもらい方・あげ方だった。それについての社内ドキュメントがあるくらいなようだが、「率直さ」をカルチャーとするためにフィードバックについての望ましいふるまいがしっかり定義されている。

率直なフィードバック

Netflixではとにかく率直にフィードバックを渡すことが推奨される。

ネットフリックスでは、同僚と違う意見があるとき、あるいは誰かに役立ちそうなフィードバックがあるときに口にしないことは、会社への背信行為とみなされる。会社の役に立てるのに、そうしないことを選択しているのだから。

率直なコミュニケーション、フィードバックは人は基本的に嫌いであることは言及した上で、フィードバックによって次の次元に成長していけるメリットを重視している。

能力密度を高める中で、極めて性格的に難があったりする人は勇気を持って解雇されていくため、会社として望まない罵り合いのようなフィードバックは起きないという理屈になっている。

これ「無私の率直さ」・「Brilliant Jerk」という2つの言葉で区別している。「Brilliant Jerk」とは、デキるけど嫌な奴という意味である。NetFlixではチームに率直なカルチャーを醸成するため、Brilliant Jarkは排除する必要があるという立場を明確にしている。

率直なカルチャーについてより正確に理解するための言葉は次の内容だ。

率直なカルチャーとは、相手にどんな影響を及ぼすかなど気にせず、思ったことを口にしていい、ということではない。むしろその逆で、誰もが「4A」ガイドラインをしっかり考えなければならない。ときにはフィードバックをする前に熟考し、事前に準備することも必要で、それに加えて責任ある立場にいる者は状況のモニタリングとコーチングをする

※ 4Aガイドラインについては後ほど当書評内で言及する。

実際にとある研究では、肯定的フィードバックよりも修正フィードバックのほうが自らのパフォーマンス向上につながると答える人が3倍程度いることがわかっているようだ。

フィードバック・ループはパフォーマンス改善に最も有効なツールのひとつだ。チームワークの一環として日常的にフィードバックを組み込むと、社員の学習速度や仕事の成果が高まる。フィードバックは誤解を防ぎ、互いに共同責任を負っているという意識を生み出すのに役立つとともに、組織の階層やルールの必要性を低下させる。

フィードバックループを回す文化を作ることがそんなにかんたんな話ではないことはもちろん述べられている。

裸の王様にならない

「上司」的な立場になると周りからのフィードバックは受け取りづらくなってしまうことについて言及されている。これについて、Netflixの管理職がよく使う方法が個別面談でフィードバックを議題に含めることだという。

ここでいうフィードバックとは、部下から上司に対してのフィードバックである。

これを議題に入れておくのはもしかしたらいいかもなと思った。もちろんこのカルチャーはアメリカ的なもので普通に日本で展開するにはadjustが必要である点は、Netflixのグローバル化の際に起きた課題としてあげている。「フィードバックありますか?」と言われて率直に言える人なんて特に日本人には難しいよなとおもったがそれはアメリカでも同様なようだ。実際に上司にフィードバックをして変に不利益を被るリスクを負うのは嫌だろう。

そのため、部下からフィードバックを受け取るためには、フィードバックの受け取り方が大事だと言っている。

フィードバックの受け取り方

これが一番ためになった。日本で出版されるフィードバックについての本は基本的に「送り手」をターゲットにしているため「受け取り手」について語ってる内容はそこまでないように思う。本書ではとくにフィードバックを受け取ったときについても多く言及していていい。

ここでカギとなるのが、フィードバックを受け取るときのふるまいだ。あらゆる批判に感謝を述べ、そして一番大事なこととして「帰属のシグナル」を頻繁に発することで、部下にフィードバックを与えても大丈夫だと感じてもらう必要がある。

まず感謝を述べるというところまでは想像がつきやすい。そのうえで「帰属のシグナル」を頻繁に発することが一番大事らしい。『カルチャーコード』という帰属意識を高めることに焦点を当てた書籍内で言及されている。

フィードバックを与えることで、あなたはこの部族で一段と重要なメンバーになる」「あなたが私に正直に話してくれたことで、あなたの仕事や私との関係がおかしくなることはない。あなたはここの仲間だ」ということを伝えるためのしぐさだ。

たとえば、声色に感謝の色を混ぜるとか物理的に話してる相手に近づくとか相手の目を親しみをこめて見つめるとか、意見を言ってくれたことに対する感謝の言葉を直接伝えるとか、大勢の前でその一件を話題にするとか。

最近身近で帰属のシグナルを発していたという例を思い返すと、3・4回くらい言うのを迷ったフィードバックを個別のdmでこっそり伝えた際に、その週のpublicな週報でその件を話題にしていた方がいた。フィードバックを送ってよかったんだとちょっと安堵した覚えがあるのだが、そういうシグナルを送ることが大事なんだなと。

たとえば、Managerなどになるとよりフィードバックが受けづらくなって、人間的にも技術的にも「裸の王様」になるリスクが高まるので、「帰属のシグナル」を過剰なくらい出していくことが今後のアクションアイテムとなった

フィードバックのガイドライン 4A

「率直なフィードバック」と聞くとなんでも言っていい文化なんだろうかというそういうわけではないようだ。率直なフィードバックといって個人を攻撃するようなことを言う輩も現れかねない。そのためNetflixでは全社員にフィードバックの与え方・受け取り方を教育するらしい。

それがフィードバックのガイドラインである 4A というものだ。

AIM TO ASSIST 相手のためを想って

前向きな意図を持って行うもの。相手を傷つけたり自分が優位に立つために行うものでない。相手自身あるいは会社にとってどのように役立つのかを明確に説明する。

ACTIONABLE 行動を促す

それを受けた相手がどのように行動を変えるべきかに焦点を当てるべき。ゆえにただ発言と行動の矛盾を指摘するだけではフィードバックとは言えない。

APPRECIATE 感謝

批判されると自己弁護や言い訳をしたくなり、自尊心や自分の評価を守ろうとしてしまう。しかしこの自然の反応に抗い感謝する。この自然な反応に抗うための方法はマインドフルネスなり瞑想の分野等でよく語られていたりする。直近では 『反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』 あたりを読んだのが関連として参考になった。

ACCEPT OR DISCARD 取捨選択

心からありがとうをいうが、取り入れるかどうかは本人次第であることを、フィードバックを与える側も受ける側も認識として持つ。個人的にはこの4つめは大事だなと思って、フィードバックが相手にとってはちょっと違うかもしれないと思うと口を閉じてしまうときが往々にしてあるが、取捨選択されて本人が違うと思ったら受け入れないことがガイドラインとしてあるならば少し気軽に発言できるようになりそうだ。

ネットフリックスはアメリカからグローバルに展開した際に、このアメリカ初の率直な文化とガイドラインについて、ある問題が発生したことを語っている。「率直さ」が国によって異なる点だ。

この指標における各国のポジションを決めるひとつの要因が、批判するときにどのような言葉を使うかだ。直接的な文化は言語学者が「強意語」と呼ぶ言葉をよく使う傾向がある。「これはきわめて不適切だ」「どう見ても職業人としてあるまじき行為だ」といった具合に、否定的なフィードバックの前後に「きわめて」「どう見ても」「明らかに」といった印象を強める言葉を挿入するのだ。対照的に間接的文化では、「多少」「幾分」「ちょっと」「もしかしたら」「やや」など、批判を弱める効果のある「緩和語」が使われる傾向がある

日本であればわかりやすく人にフィードバックを行ったりちょっと大胆なことを言う場合ついつい「ちょっと」といった緩和語を使う傾向にある。

 こういった間接的文化の国では正式なフィードバックの場を増やすのが良いと言う。ネットフリックスでは「いつでもどこでもフィードバックすること」を推奨しているが、なかなかそれをする文化ではない場合がある。その場合に正式なフィードバックの場を増やすという試みだ。

この日本でのローカライゼーションの話が本書で一番ためになったかも知れない。こう考えるとレトロスペクティブといった「スクラムイベント」として正式に実施することでフィードバックの時間を作ったり、360°フィードバックの時間を設けたりする試みについて異文化研究の側面から裏付けされるということが面白い。異文化研究の分野も学ぶと良いのかもなぁ。本書では『異文化理解力 ― 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』が紹介されていた。

これによってフィードバックのガイドラインに ADAPT(適用させる)が追加され 5A となった。

適応させる(ADAPT)望ましい結果を得るために、フィードバックの伝え方や受け取り方を相手の文化に適応させる。

ルール廃止のためのコンテキスト

たとえば、出張旅費と経費に関するガイドラインは「ネットフリックスの利益を最優先に行動する」という一文だという。この一文によって社員にコンテキストを設定していると言える(もちろんお金の出口ではしっかり目を光らせる用にはなっているようだ)。

実際にルールを悪用した社員は現れたことを本書では赤裸々に語っていてそれでもなおルールを廃止することによる「自由」によるクリエイティビティが生まれるメリットのほうが大きいと言うスタンスを取っている。

これを「コントロール(規則)ではなくコンテキスト(条件)によるリーダーシップ」と表現している。

コンテキストかコントロールどちらを選択するかは、「ミスを防ぐこと」に目的があるのか「イノベーション」に目的があるかどちらかであると、実際の適用指針についても示していた。

高額報酬と脳の自由度

市場評価額の最高額を報酬として社員に支払うというのがネットフリックスの戦術となっている。これはロックスターの原則に基づきスター選手が集まることを最も優先している点が見て取れる。そこで脳の自由度について言及している点が参考になった。

クリエイティブな仕事には、脳がある程度の自由を感じる必要がある。成果次第で高額報酬がもらえるかどうかに脳の一部が集中していると、すばらしくイノベーティブなアイデアが湧いてくる「自由な認知ゾーン」に没入できていないことになる。

これに関して、短期的に優先度が高くて重要度が高いような、事業計画の実現だけに追われてしまう組織か、優先度が低いが重要が高い問題にも取り組めれる組織かというのもこれが言える気がしている。

つまり、中長期的な課題に対して取り組むことが組織戦略と合致しており成果になる、という心の余裕を持てるか持てないかでそこに対してイノベーティブなアイデアを出せるし、そのためにはその取組が組織的に評価されるという安心感が必要と(書いてみてあんまり関係ないなと思った)。

こういった話は『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』で展開されていた話を思い出した。

過ちを語ることで信頼を得る

リードは「自分が失敗した時」どうするべきかという点について、成功は小声でささやき、失敗は大きな声で叫べという。リード自身が人事管理に失敗した際に、その真実を取締役会で語り誤りを白状したことによって、本人の肩の荷が下りるばかりか、率直に弱みをさらけ出すことでリーダーシップに対する信頼が高まったという経験を話している。

この点自分は失敗を大きな声で叫べてないと課題に感じている。自分は最後の防波堤をおいておくところがあって、失敗したけどあまり深い傷ではないと思っているところに対して大きな声で叫ぶことで、突っ込まれたくない個人的に深い傷をおった失敗から目をそらそうとする傾向にある人間だと思っている。

今後は、ちょっと「気まずい」・「言いづらい」失敗についてもリードのように大きな声で失敗を叫んでいかないといけないと思った。

リーダークラスが失敗を包み隠さず公表することは、失敗に対して恐れなくていいと皆が思えるメリットが有ることを本書は言う。自分自身の実体験としても、昔同僚のリードクラスのエンジニアでよく「今日もサービスを壊してしまった」とハハハとさらけ出す方がいるのだが、私はその姿を見て「あの人レベルで失敗することがあるんだから自分もリスクとってチャレンジしていこう」と密かに思っていた。

リーダーやロールモデルが謙虚さを示すのは大切なことだ。成功したときには控えめに語る、あるいは他人の口から言ってもらう。一方、失敗したときには自らの口ではっきりと語る。それによって誰もがあなたの過ちから学び、恩恵を享受できる。要は「成功は小声でささやき、失敗は大きな声で叫べ」ということだ。

本当の勇気は「弱さ」を認めること』という書籍で定性的研究が紹介されているらしい。

個々で大事だなと感じたことは例外がある点。リーダーがまだ有能さを証明できていない・信頼を勝ち得ていない場合は、失敗を堂々と認める前に、まず自分の能力の信頼を勝ち取ることを優先するべきだという。

このバランス感と自己認識は難しいなと思っている。具体的には信頼を勝ち得ているかは様々な状況・ファクターによって異なりうる。自チームではいいかもしれないが他チームで関わりが薄いとやめたほうがいいとか。ここは自己の「見られ方」や相手との関係性を慎重に分析して立ち振舞方の判断をしないといけない。

上司は判断・承認者か?

本書を読んでこの上司観について考えさせられるものがあった。大抵の会社では、上司の役割は部下の判断の承認・阻止だとされるが、それは確実にイノベーションを阻害するとリード氏は断言する。

経営者同士のシャドーイングというものをシリコンバレーではするらしいが、その際Facebookのシェリルサンドバーグ氏とのシャドーイングで仕事ぶりを高評価したらしい。

1日あなたと過ごしてすばらしいと思ったのは、自分ではひとつも意思決定をしなかったこと

Managerの仕事は「意思決定」することであると一般的には言われる。たとえば『駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する』では意思決定がManagerの一つの課題であるとしているが、ネットフリックスのManager観はそれの反対を行く。ネットフリックス社員の意思決定は次のような考え方だ。

ネットフリックスでは社員に、判断を下す前に上司の承認を得ることは求めていない。ただ優れた判断を下すには、コンテキストをきちんと理解し、さまざまな立場の人からフィードバックを受け、あらゆる選択肢を理解することが不可欠だと考える

コンテキストをきちんと理解し、様々な立場からフィードバックを受ける。ネットフリックスのルールを削除していった際に出てきたコンテキストの考え方と、率直な文化によるフィードバックが融合している。自分自身コレを実現したいんだと言語化された。

上の記事はアジャイル開発プラクティスの積み上げという話を書いたものだが、その中で中心的価値基準・判断基準となる「北極星」・「技術戦略」という2つを掲げた。

『駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する』では、メンバーが同じ船に乗って納得感を持つためには計画に自分の意思決定が適度に反映される「対話空間」を用意することの重要性について語っています。技術戦略は対話空間を設計するための目線合わせのためのツールとなります。

この技術戦略はネットフリックス流にいうならば「コンテキスト」を作り出し個別の意思決定を現場のメンバーができるようにする、という言語化になる。

ネットフリックスでは、「ネットフリックス・イノベーション」と呼び次のステップを踏むことを推奨している。

1. 「反対意見を募る」あるいはアイデアを「周知する」。
2. 壮大な計画は、まず試してみる。
3. 「情報に通じたキャプテン」として賭けに出る
4. 成功したら祝杯をあげ、失敗したら公表する

「情報に通じたキャプテン」という表現を結構気に入った。いわば「各分野においてビジョンを示すリーダーであり率先して実行するプレーヤーである」ニュアンスが良く出ている。この「情報に通じたキャプテン」が重要な意思決定ファクターであり、意思決定の完全な自由を持っているというのがネットフリックスの捉え方。

1のステップは現場では「井戸端会議」というプラクティスを設定してアイデアを形成することを支援したりしている側面があると理解した。

何らかの問題が発生しているが次の方向性・やることは決まっていない場合や、 使用可能な道具が目の前にあるがその活用可能性・活躍のさせ方についてアイデアが得られていない際に、 その課題に対して、大まかな見解を得るための対話(Dialogue)を行う。(井戸端会議 at https://devblog.thebase.in/entry/bank-practices-2020)

ただ、単純にそのまま「情報に通じたキャプテン」という概念モデルをそのまま日本に輸入することは難しかったことを本書では語っている。

たとえば決断の指標(指標4)を見ると、オランダと日本はともに合意志向の極に近い。アムステルダムと東京の拠点で、たった1人の担当者が「情報に通じたキャプテン」として意思決定を下すというモデル(第6章を参照)に苦手意識を持つ社員が多いのは、このためだったのだ

実際に一人で決めていいよとするのはときにかなりハードルが高いのはわりと腑に落ちる。

足並みが揃う組織の構造は「木」である

この表現はおもしろかった。組織構造としてピラミッド式に考えることが多いが、ネットフリックスでは「木」であるとしている。つまり、ネットフリックスにおける意思決定の主体は「情報に通じたキャプテン」であるため、CEO等の上司ではない。

CEOが根っこでコンテキストを設定し、情報に通じたキャプテンが一番高い木の枝で意思決定をする構図だといっている。

いわば、CEOや会社として行動指針やプロダクトの価値観を根っことしてはやし、そこからさらに木が育ち各フィーチャレベルまで枝が育っていき、その先で「情報に通じたキャプテン」が意思決定をする。

この考え方は組織のメタファとして自分の引き出しにしまった。こんなんなんぼあってもいいですからね...。

画像1

(余談)道具とビジネス

Twitterランドは道具を「手段に過ぎない」といったりするのが定期的に繰り返されるが、NETFLIXの現在のストリーミングサービスの前身であるオンラインDVDレンタルストアは、DVDという道具によって生まれたことがエピソードとしてある。

つまり、DVDより前世代のVHSテープだと送料が高いためのオンラインはうまく行くアイデアにはならないが、DVDというテクノロジーを前提にすると局面が変わり送料が安くなり、発送を前提とするオンラインにのせられる。道具の発明によってビジネスが生まれる。

おわり

フィードバックの受け方について個人としてはかなりブレークスルーがある内容だった。マネージャーが意思決定しない組織モデルについて想いをはせれたしとてもいい本だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?