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「Girls Meet STEM」とは? ホンダのエンジニアが参加して感じた驚きと、理系として働く楽しさ
皆さんこんにちは、本田技術研究所・先進技術研究所で知能化領域に所属する小室です。#8に登場した安井さんのもとで、AIをモビリティやロボットに活用する研究に取り組んでいます。
突然ですが、皆さんは「Girls Meet STEM」というプログラムをご存じでしょうか?
Girls Meet STEMとは、公益財団法人山田進太郎D&I財団が、女子中高生を対象に大学や企業と協力して実施している、ツアー形式のプログラムです。科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の頭文字を取った「STEM」、いわゆる「理系」の仕事を、大学や企業などの現場で体験することで、興味を持ってもらったり、魅力を感じてもらったりする取り組みで、Hondaもオフィスツアーへの招待やオンラインでのトークセッション開催という形で参加しています。
直近では、11月4日に六本木の「Honda R&D イノベーションラボTokyo六本木オフィス」でオフィスツアーを行い、多くの女子中高生が参加してくれました。そこで今回は、私を含めてオフィスツアーに参加したメンバー3人で、オフィスツアーを通じて感じたことや、理系を志した理由などについて話した内容をお届けします。
デジタルネイティブはやっぱりすごい。中高生向けオフィスツアーで感じた驚き
小室:今回のオフィスツアーには、今泉さん、貝田さんとともに、中高生にロボットとのコミュニケーションを体験してもらったり、トークセッションで自分たちの経験を語ったりという形で参加しました。まずは、オフィスツアーをするに当たって、参加してくださる人にどんな思いを持ってほしいと考えていたかを話していきたいと思います。
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私自身は、普段あまり接することのない若い世代にどんなロボットが「刺さる」のかを聞きたいと思っていました。結構、女子中高生って辛辣なことも率直に言ってくれそうだから(笑)。あとは「六本木のオフィス」という、ある種キラキラした場所でハードウェアを作ったりテストしたりすることで、良い意味でギャップを感じて仕事に興味を持ってもらえれば良いなと。
今泉:私も小室さんと同じように、実際に見てもらうことで研究や開発を身近に感じてもらいたいなと感じていたので、フランクに友だちのように話したり、質問したりしてもらえるように意識していました。ロボットの開発でデモをすることは多いのですが、女子中高生のみを対象にするケースってほとんどないので、良いチャンスだなと。
貝田:大学生向けに体験してもらう機会は結構あるんですよね。大学生と、今回参加してくれた中高生との大きな違いは、進みたい分野がまだ決まり切っていない人が多いことだと思っていて。
そういう若い世代が何となく「難しそうだ」と感じているものを見てもらって、フラットに選択肢の一つになれば良いなと考えていました。その点、さっき今泉さんが「友だちのように」と言っていたように、私も難しい用語をできるだけ使わずにコミュニケーションしました。
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小室:実際、参加してみてどうだった? 私は「さすがデジタルネイティブ!」という感じで、ロボットの動かし方に慣れるのがとっても早いなあと驚いた (笑)。
今泉:たしかに、特に説明しなくても上手に動かしている子が多かったですよね。あと、表情や声を開発している立場として「かわいい」という意見が結構出ていたのはうれしかったです。「大型犬みたい!}とか、「顔がかわいい」とか。
貝田:開発メンバーが気にしているような、ちょっとゆっくりした挙動に対して「かわいい」という意見があったのは意外でした。機械の挙動としてはマイナスでも、親しみやすさという観点からはプラスに映るんだなあというのは、単なる機械ではないロボットにとっては新しい視点ですよね。
小室:質疑応答では、質問の前提とか背景から話してくれる人が多くて「こんなにしっかり質問されたら、しっかり答えないと」と緊張する場面もあって。他のイベントでは、1個の質問で終わる人も多いのに、今回は1人で何個も質問してくれる子もいたよね。
貝田:将来のことを考えている生徒が多い印象も受けましたね。「仕事で英語はどのくらい必要ですか」とか、自分が中学生のときにそんなこと考えていたかな、と反省しました(笑)。テスト勉強のためだけではない、将来のためになる勉強方法を教えてほしいとか「おおっ」と思う質問も多かったです。
最初から目指していたわけではなかった? 3人が理系を志したきっかけ
小室:私は若い子たちを見ていて、あらためて自分はどうして理系に進んだのかなと振り返る機会にもなりました。今泉さんは理系に進んだきっかけって何だった?
今泉:私は最後の最後まで、文系と理系で迷っていたんです。大学に進んでも「これが好き、研究したい」というものがなかなか見つからなくて。逆に「これは嫌だ」と感じるもの、例えば「暗記」とか「目に見えないもの」とかを省いていった先に、機械工学の専攻にたどり着きました。
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貝田:私も教科では社会が苦手でしたね。とにかく暗記が嫌で、小中学生から何となく、理系に行くんだろうなと思っていました。それも「将来は理系の仕事に就く!」とかではなく、理系なら文系に変更もできるしなあ、くらいで。
就職先を探すときも、クルマ関係ではなく、衣類系の製造業なども候補でした。ただ、せっかく何か作るのであれば、大人から子どもまで、広い世代に使ってもらえるチャンスがあるものにしたい、世の中に役に立ちたいと考えて、インパクトの大きい自動車業界を目指すようになりました。
小室:実は私も、今でこそ「知能化領域」に所属しているけど、もともとAIと関係ない仕事をしていたし、中学までは文系だったんだよね。そこから数学や遺伝子の研究などを経験したけど、就職したのは全然関係のないGPUを製造するベンチャー企業で、そこから転職してHondaへ。
こうして振り返ると、選択肢を狭めずにいろいろなものに触れてきたんだなと思うし、2人も最初から「理系にしよう、理系として働こう」と明確に決めていたわけではないんだ! 学生時代は得られる情報が少ないから、一度学科や専攻を決めたらそれを続けるしかない――といった先入観があるかもしれないけど、今後のオフィスツアーでも、こういう点は伝えていきたいよね。
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エンジニアという仕事の楽しさ、理想のエンジニア像
貝田:結果的に理系を選んで良かった、と思っています。実証実験やデモで社外の方と接することが多く、社内の論理だけではないモノづくりができているのはとても楽しいです。例えば、私たちは「改善できた!」と思っている機能でも、一般の方に体験していただくと「まだまだ」という声をもらうことが多く、満足せずに研究開発を続ける大きなモチベーションになっています。
今泉:研究開発というのは、論文などを読んで勉強して、それを実験に取り入れて、外部のフィードバックを得て改善して――というサイクルで、自分の成長を日々感じられる仕事ですよね。
それに、自分の作ったものを誰か他の人が使うこと、そしてその姿を目にできる機会はなかなかないもので、感動することもありますし。常総市のお祭りでデモを行った際に、人間の後を追う「追尾モード」を使って小さなお子さんが鬼ごっこのように遊んでいるのを見て「大人はもちろん子どもにも親しまれるものができているんだな」と実感できました。
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小室:ちなみに2人の「理想のエンジニア像」ってどんな姿かな?
貝田:相手が文系でも理系でも関係なく、フラットに技術の話ができるエンジニアになりたい、と思っています。私は研究所に来る前、経営企画の部署にいたのですが、なかなか技術のことって伝えにくいんですよね。理系出身として、もどかしい思いをしたこともありました。なので、自分の持っている知識や技術を、理系の知識がない人にも説明できる、そして受け入れてもらえるようなエンジニアになりたいなと。
今泉:就職活動のときに感じたのですが、Hondaってイキイキと働いている人が多いと思うんです。入社してからもこのイメージは変わっていなくて、それはなぜだろうと考えたのですが、楽しいと思えることに向き合えるチャンス、環境があるからなのではと。自分自身、今は楽しんで働けていますし、そうした思いを常に持ち続けられるようにはしたいと思っています。ちなみに、小室さんはどんな理想を持っているんですか?
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小室:私はエンジニアとして働いているのが10年以上になって、今はマネジメントをやるようになったんだけど、この立場になってあらためて、何か問題が起きたときに、すぐ解決策を出せる人ってすごいなと感じています。
そのためには、日々のインプットもそうだし、他者の意見を取り入れる柔軟性も忘れないようにしないといけない。選択肢は多ければ多いほど答えを見つけやすいから。私たちの開発チームは若手も多いし、ただ指導するだけでなく、みんなが持っている素敵なアイデアも積極的に取り入れるようには意識していますね。
進路は何度変えても良い 自分の気持ちに正直になろう
小室:やっぱりこうして話していると、エンジニアってすごく楽しくて魅力的な職種だけど、やっぱり世の中的に理系に進む女性って少ないじゃない。オフィスツアーに参加した生徒の中にも、悩んでいる人は多いと思うんです。そうした方にメッセージを送るとしたら、どんな言葉をかけるのが良いかな?
貝田:私自身そうだったのですが、理系出身で理系の部署を志望しても、文系の部署に配属されることってあるじゃないですか。つまり「こうだ」「こうしたい」と思って道を進んでも、何だかんだでいろいろ結果は変わるものだと思っていて。
そう考えると、重要なのは後悔しないことではないでしょうか。自分を縛らず、あえてそのときの考えに沿って行動するのも良いですし、変に真面目になりすぎず、いろんなものに手を出してみる。その結果、理系やエンジニアに魅力を感じればそちらに進めば良いですし、その方が長続きすると思うんです。
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今泉:好きなこと、やりたいことではなく、嫌いなものを避けるといった考えでも良いと思います。私は中高生のときに、好きなもの、打ち込めるものがないことに悩んでいたのですが、結果として今、楽しんで働けているのは、嫌いなものを避けて、好きなものを見つけられたから。なので、好きでも嫌いでも、やっぱり貝田さんの言う通り、気持ちを大事にして行動してほしいと思います。
小室:進路選択はいつでも自分の意思で変えられますし、レールを何度敷き直したって良いですしね。
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小室:最後に、今回、オフィスツアーに参加した生徒たちが社会に出るのは、これから10年後くらい。まだ遠いようにも感じますが、そのときに実現したいことって、ありますか?
今泉:デモを体験した方から「これはどんな場面で使えるんですか」と聞かれることが多いんです。これは裏を返せば、まだまだ利用用途を想像しにくいということだろうと感じています。10年後には、こうした疑問が出ないほどに、私たちの生活にロボットが溶け込んで、一緒に歩いている世界にしたいと思います。
貝田:活用の幅を広げるのはもちろん、人間がロボットに語りかけるときに恥ずかしさなどを感じることもなくなっていると良いですよね。
小室:どうしてもまだ、ロボット=機械と認識している人がほとんどだからね。そこから何段もレベルアップさせて、ロボットでも意思のある、生きもののようなものだという世界観を広げたい。そして、その最初のきっかけが私たちの開発しているロボットになっていれば良いな!
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