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ゴシック・ロリィタ・ロックンロール・エチケットVol.9〜荻窪駅はロックンロールの夢を見るか(下)〜
ベストアクトを掻っ攫いたいと言って再び、荻窪へ来た。
やるしかないなぁと思っていた。朝の電車で少し相方と喧嘩をした。プレッシャーに苛立っていた。
バンドの現実なんてこんなもんだ。
思えば、ずっと引き摺っている。高校時代から主人公になれなかった自分を。
周りの同期バンドたちは全国大会に出たり、軽音楽部の中だけではなく、学校の中でヒーローだった。文化祭の時だって、私のバンドには誰も興味を示さず、「あの全国行ったバンド見に行くね!」なんてクラスの子から言われて。
軽音部に所属してたけど、私がバンドやってるなんて誰が知ってたんだろう。
あの子、私がベースソロ決めたらどんな顔するんだろう。あの子に、私の音楽が刺さったらどんな顔するんだろう。
スクールカーストの中で渦巻いていた黒い感情を引き摺ったまま、健全じゃない形で大人になってしまった。
いつからなんだろう、当時色々あって最後まで余って誰も私とバンドを組みたくないと知った時からだろうか。
なんとなく見下される側にいることに気付いた時からだろうか。
みんな自分勝手で私のこと、どうとも思ってないことに気付いた頃からだろうか。
夏の大会で私だけバンド組めなくて、同期は出場して賞取ってるのに、私だけ受付でニコニコしながら保護者にパンフレット配り続けたときからかな。
友達のベースソロを野球部が笑った時に、「野球部全員雁首揃えて謝りにこいよ」って言えなかった時からかもしれない。
やっと。やっとここに来た。やっと私とバンドを組みたいって人のことを大事にし続けた。
同じ熱量で走れる相方が居て、周りからなんとなく一目置かれる存在になったと自覚しても、すごいでしょ!!って顔を上げたらあの頃目を丸くさせたいと思っていた人はそれぞれ音楽以外の幸せを手に入れていて、なんだか人生でまた置いて行かれていることに気付いた。
私だけずっと音楽をやって、音楽のために色々捨てて、ここに立っている。いや、まぁ全然捨てきれてないものもたくさんある。
もしかしたら今が一番虚しいのかもしれない。その先に何があるのかわからない。いつかあの頃の自分を振り切れるくらいになるしか、解放される道はない気がする。
とりあえず今日もがむしゃらにやろう。と荻窪駅を降りた。
今日も暑い。許されるなら毎日スーパー銭湯に行きたい。
出順は5番手、めちゃくちゃいい順番を貰って嬉しい反面、前のサーカスNOWの時もそうだったが、出順が遅いといつも緊張で胃が痛くなる。これも割と嫌いじゃなかったりする胃の痛みだ。生きているなー!!やったー!!!と思う。
かっこいいバンドが次々と出てくる。一緒にビラを配ったVALENTINE DAYはバンドのカラーがはっきりしたコンセプトのしっかりしたかっこいいロックバンドだ。
しっかりトッパーを勤め上げた。
さすがだなぁ、と映像を撮りながら、かましてんなぁ、とこちらまで嬉しくなった。
次々とかっこいいバンドが出てくる。
次!?いやまだ!?いや流石に次!?というのを何度も繰り返した。出順なんてずっと把握してたつもりだったのに。
楽屋で楽器を取り出した頃には、ライブも後半戦だった。
舞台袖から客席を覗くと、まさに大入満員という状態だった。howling dogsのライブはまさに待ってました!と言わんばかりの熱量。
このお客さんの前でできたら気持ちいいだろうな、これは本当、バンドが作ってきた土壌だ。私らを挟み、この後は忘れてモーテルズが控えている。正直、休憩時間にされるんだろうな。と思った。休憩時間にされたとしても、休憩してたことを後悔してもらえるライブをしたいな、と思った。
そうならないように、色んなところで自分の存在をアピールしてきたつもりではいる。
でもさ、今までだってそうしてきたじゃん?高校の文化祭だって大会でだって何でだって私は私のことを色々売り込んできたけどさ、誰も私に興味なかったじゃん。
ミスiD受けた時だってさ、わざわざ自分の考えとか、気持ち悪いところも晒した私より、陰で陰湿なDM送ってきた子や、他の出場者に私が2ちゃんねるで悪口書き込んでるらしいとか吹き込んでた子がさ、綺麗な部分だけ見えるように振る舞った方が結果出してたじゃん。
今それ思い出してもしょうがないけどさ、わかってるけど、わかってるけどさ。
知らないバンドの音楽なんて、ましてや歌もないギターもないロックなんて、ロックンロールと認めない人もいるだろうよ。休憩しようかな、って思うのも無理もないよ。
今までの人生、ろくにスポットライトも浴びてこなかったんだから、スポットライトを浴びたことのない人間はその陰でどんなすごいことをやっていても、誰にも見られてないからどうしようもないんだよ。だって私がすごいことできるって、誰も知らないんだもん。
でもやるしかない、少しづつ、何かの気まぐれで見てくれた人が、ここで興味を持ってくれたら。
今まで何もしてこなかった訳じゃない。
私は私に、ADDICTION に光が当たるように、主役に当たっているライトはもうそれはそれで固定されてるから仕方ないけど。
バックサスライトを無理やり捻じ曲げてこっちに向けるようなことをしてきた。
あ、あっちも光ってんな〜ってぼんやりでもいいから見てもらえるようにやってきた。
ステージに上がる、前リハだ。
客席はガラガラだった。みんな上のトークコーナーを見に行っている。きっとここに戻ってきてくれる。そう信じた。でもせめてここにいる人を引き止めたいと思った。
やれたらやろう、くらいの示し合わせで決めていたリハ用の曲。イントロのリフを鳴らす。
日本のガレージロックを象徴する曲。大好きな先人にリスペクトを込めて。
誰もここから動かないで、という思いで叫ぶ町の名前。
わかる、わかるぞ、と客席の人たちがちらほらと食いついた。
3回目のコールにはみんな手を挙げて叫んでいた。なんか楽しいことが始まる予感をそこにばら撒いた。
本番が始まるとお客さんがたくさん集まってくれた。嬉しい。後から聞いた話だが、我々を何度か見てくれたことがあるお客さんが、上に残ろうとした他のお客さんにうちのことを勧めてくれたらしい。絶対見た方が良いよ!って。
中には、そんな話を立ち聞きして見てくれた人や、前にビラを配っていた姿を見ていた人も居たらしい。
なんか全部無駄じゃなかったんだな。と思った。バンド活動ってこういう時に日頃のライブ活動だけじゃないものが現れるのかもしれない。
無事終わった、案の定、休憩にしようと思ってたけど見にきてよかったです!と言ってくれた方もいた。
やり切った思いでトークコーナーに入る。今までのADDICTION を支えてくれた方々がニヤニヤしながら見ていた。
くすぐったかった。面白いことは一つも言えなかった。
モーテルズのMCで少し泣いた。
我々後輩にかっこいい背中を見せてくれた先輩がたくさん居る。
キノコホテルの圧巻すぎるパフォーマンスを見た。なんだか初めてロックを聴き始めた時のことを思い出して。
これは激重い話だが、この日の物販でマリアンヌ様のチェキを購入し、チェキケースに赤い薔薇とハートのビーズを貼って、赤花ハガレ❤️🥀ついにキノコホテルと対バンおめでとう記念のキーホルダーを作成した。
仕事のカバンに仕舞っている。辛いことがあったら眺める。
ねぇ、あの頃見たかっこいいバンドからフォロー返ってきたよ。応援してくれてるよ、私のバンドのこと。CD、渡したらニコニコで受けとってくれたよ。車で聴くって言ってくれたよ。そのうち会えたらって思って、ずっとカバンに入れてたからケースは割れてたけど。
ねぇ、あの時貴方が勧めてくれたバンドの曲。めっちゃハマってずっと聴いてたんだけど。前対バンできて、ツーショットを撮ってもらったよ。嬉しい。あの時の私はここまできたよ。
安定を捨て切れてない私を甘ったれという人もいるだろうな。でも社会に迷惑をかけないための二足の草鞋はそれはそれできつい。
ねぇ、ここから、私がロングシュートを決めたら、いつぞやの貴方はどんな顔をしますか?
帰りの普通電車を待っていると、シュガーブーケがこっちを振り返って言った。
「どんな顔もしないわよ」
「同級生は誰も赤花ハガレを知らないし、元のアンタだって誰にも気付かれないような人間だったんだから。ロックンロールが好きな人たちの前で歪みで誤魔化しながらロックンロール的なフレーズをかき鳴らしてたらそりゃ、物珍しさもあってチヤホヤしてもらえるよ」
「ロックンロールなんて、あいつら聴いてないんだから」
「あいつらがロックと思って聴いてんのはロックの顔した別物よ」
「ロックの顔した別物しか聴いてない人たちはアンタなんか見てもポカーンよ」
「歌もないしギターもないんだから」
「あの中にアンタが入ったら白けて、高校の文化祭の時と同じ思いをするよ」
「ここは落ち着くね、あったかいね、やりやすいね。」
「幸せだね」
「めでたしめでたし」
終われるか。
満足したように見えた?
けど、またみんながロックンロールを聴く日を作るつもりでいる。
「あそこがアンタのゴールなんでしょ、そもそもアレを聴かない人はあそこに来ないよ」
来させる。来させられる音楽をやる。
「到達点じゃなくて原点にするってこと?んな無茶な。荷が重すぎるだろ。」
ここ、ここもそうだし、今目標にしてる場所を、いつか到達点じゃなくてその先の原点にしたい。
今の原点は絶対あの悔しい思いをしたあの時代だし、あの時だけど。
今日とか、その先とか、もっとキラキラしたところを原点にすり替えたいの。
原点にして振り切って走っていつかたくさんの人を引き連れてロックンロールが鳴る場所に帰れるようなバンドマンになりたいの。
「アンタ最近調子乗ってんな。そのうち嫌な思いするよ。」
「上等だわ」