アルファロメオ犬
大学の頃、私には嫌いな授業があった。
必修科目だった、数理社会学を専門とする先生が繰り広げるその授業は数式をよく扱い、数字に触れたくなくて文系の道に進んだ私にとってげんなりするものだった(私だけではなく、学科の人のほとんどがげんなりしていた)。
その授業の唯一のいいところは、配布されるレジュメの所々に犬の写真が散りばめられていること。
シェットランドシープドッグだったかと思うが、これがめちゃくちゃ可愛い。
ほんとに可愛い。もふりまわしたいくらい可愛い。
犬の名前を聞いたときに無愛想な顔でめちゃくちゃ遠まわしなヒントをくれただけで答えてくれず、実は聞かれて嬉しいのに全然素直じゃない先生と比べると何億倍も可愛い(先生のことは尊敬している)。
そのわんちゃんは愛らしさ故に一気にみんなの癒やしの存在となった。
そんな私に転機が訪れる。なんとそのわんちゃんに会えるというのだ。
経緯は以下の通り。
私はその授業がたいそう嫌いだったしげんなりしていたけれど、内容が苦手なわけではなかった(構造を把握すれば、理解するのは容易だった)私は、友人に教えていたところをばっちり見られており、あれよあれよと気に入られ、その流れで先生が取り仕切るオープンキャンパスのポスター写真の被写体として協力することになり、そのお礼と称して複数人の同級生と先生の邸宅へと招かれたというわけだ。
当初はなんて迷惑なお誘いなんだと思った。とにかく授業も好きじゃなかったし、先生のこともその時は好きになれなかったからだ(何度も言うが尊敬はしている)。
どうにか断れないかとすら思っていた。犬に会えると気づくまでは。
とても失礼な話だ。お誘いに乗った決め手が犬なのだから。
当日、最寄りの駅まで先生自らお迎えに来てくれるというので待っていたところ、前方から赤い車がやってきた。
アルファロメオである。
目の前で停車したアルファロメオの窓がゆっくり開くと、犬が顔を出してきた。
めちゃくちゃアルファロメオの助手席が似合う犬。
優雅で愛らしいお顔、シェットランドシープドッグとかいう犬種だったっけなぁ。可愛いなぁ。
犬に吸い寄せられついていくといつの間にか先生が運転席におり(最初からいた)、あっという間に邸宅に到着。
そのあと存分にもふりたおした。
…で、終わると少し雑すぎてあまりにも先生に失礼なのでその日とその後の感想を少し。
・独身貴族の教授となるとさすがにお金持ちらしい、高級車に優雅な犬
・立派な一軒家に住んでいた、やはりお金持ちらしい
・アイランドキッチンにホームベーカリーに自家製リキュールまであった、お金持ちの匂い
・身内の方が作っている博多織のパスケースとキーホルダーを頂いた。パスケースはお釈迦になってしまったけれど、キーホルダーは未だに使っている。
・悪い先生ではなさそう。少しめんどくさいだけで、学生と仲良くなりたいんだなという気持ちが見えてよかった。
・恩師は何人いてもいい。
(失礼で上からな書き方ですみません、尊敬しています本当に)