超短編小説「ゼンマイ仕掛け」
僕たちの創造主は幼い子供たちだった
外界からおもちゃを持ってきて
無邪気に笑いながらゼンマイを回し
皆に命を宿してくれたらしい
子供たちの回しかたや力加減によって
多少のばらつきはあるけれど
大体僕たち
この町の住人は同じぐらいに
動かなくなって
ただのおもちゃに戻るみたいだ
そんな僕らの一挙一動を
子供たちは嬉しそうに空から覗いていて
僕らの最後を興味津々な顔で
見つめていた
一番早く動かなくなりそうなのは
この町で一番お調子者のトムだった
トムはふざけた顔しながらこう言った
最後までみんなを笑わせてやると
そう力強く宣言して
おどけた動きで爆笑をかっさらった後
やがて徐々にスローモーションになっていき
全く動かなくなっていった
そんなトムのラストショーに
子供たちは手を叩いて笑い
中には笑い泣きする子もいた
トムは素晴らしい
トップバッターだったと思う
トムに心から拍手を贈りたい
次に動かなくなったのは
わしもそろそろかなと呟いた
この町の町長だった
町長は皆に語りだした
「皆と同じぐらいの寿命なのに
なぜワシだけ年寄りなんじゃ
創造主の子供たちよ
次はもっと若くて
ハンサムな体にしておくれよ
一体ワシの体を選んだ子供は誰じゃ?」と
子供たちに優しい視線を投げかけると
ドッと笑いが起きた
それに満足したのか町長は
安らかに眠ったように動かなくなった
本当に素敵な町長だった
僕はこの町の住人でいれたことを誇りに思う
そして3番手はキャサリンと呼ばれている
若くて綺麗な女性だった
キャサリンは得意の歌とダンスを披露して
ノリノリで踊っていたので
これには皆一緒になって盛り上がって騒いで
自分たちが動かなくることさえ
忘れさせてくれた
そしてキャサリンは
段々と動かなくなっていく自分の体を利用して
ロボットダンスをしながら最後の時を迎えた
最高のステージだった
キャサリンありがとう!
その後 次々とみんな倒れていき
最後に残ったのは僕だった
僕にはトムやキャサリンのように
特技や才能もなかったから
どうしていいかわからなかったけど
子供たちはそんな僕に
凄く期待していたから
その期待に応えたいと思っていた
考えて考えて
僕に出来ることは
1つしかないことに気づいた
みんなとの思い出を
おかしく語ることぐらいだ
覚悟を決めて僕は大きな声で語り始めた
「子供たち!聞いてくれ。僕は!!」
そういい始めたら
口が回らなくなって力が抜けた
(あれっ・・)
僕はそのまま倒れこみ
動かなくなってしまった・・
しまった。もう終わりのようだ
ちくしょう・・まだ何も出来ていない
最後の力を振り絞り体を反転させて
子供たちのほうを見上げると奇跡が起きていた
「いったい何が言いたかったんだよ!!」と
子供たちが僕を指差して大笑いしていたのだった
(良かった・・ウケたみたいだ)
僕は安心して目を閉じて
穏やかな気持ちでみんなのように
オモチャに戻っていった。