カメラと行く建築さんぽ#4 ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅) 兵庫県
Date
所在地 兵庫県芦屋市山手町
竣工年 1924年(大正13年)
設計者 フランク・ロイド・ライト
重要文化財指定 1974年(昭和49年)
撮影機材 Fujifilm GFX50R
GF30mm F3.5
pentax A645 120mm f4 macro
初めまして、フランク・ロイド・ライト
みなさんフランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright 1867-1959)ご存知ですか??
最近建築にハマり気味のワタクシはついこの間知ったのですが、建築に興味のある方はもちろん、興味なくてもなんとなく名前は聞いた事があるって方は多いのではないでしょうか。
アメリカを、いや世界を代表する近代建築の巨匠の一人であり、数多く手がけた作品のうち、タリアセン・ウエストや落水荘、ロビー邸など8件が世界遺産に登録されている、有名な建築家です。
日本でも旧林愛作邸、帝国ホテル(解体後一部移築)、旧山邑邸、自由学園明日館の4件の作品が残っています。
なかなかその生涯は波瀾万丈なようで、そのせいか非常に人間臭いというか、彼の、人間の生活と自然との調和を図る有機的建築という思想とも相まって、何となく暖かい印象を持つ作品が多いような気がします。
まあ、あくまでついこの前ライトを知ったばかりの新参者の見解ではありますが・・・
この後、いろんな建築を目の当たりにしてその見解がどのように変わっていくか自分でも見ものではあります。
さて今回はそんな新参者がヨドコウ迎賓館で初ライト建築を堪能したお話。
結構長くなりそうなので、お時間許される方はぜひ最後まで。
ヨドコウ迎賓館(旧山邑邸)の歴史
まずは簡単に建物の歴史をご紹介。
(館内案内看板より)
1915年〜1922年まで帝国ホテルの建築の為来日していたライトに1918年、神戸の酒造家、8代目山邑太左衛門が山邑家別邸として設計を依頼しました。
着工は1923年、完成は1924年。
建物の規模からすると結構早い印象。
着工前にライトが帰国した為、実施設計、施工管理は弟子である遠藤新氏と南信氏の両名により行われました。
その後1935年に天木氏の所有となり、1947年には淀川製鋼所の所有となります。
1958年からは貸家となりますが、1971年から1973年まで淀川製鋼所の独身寮として使用されていました。
こんな名建築で寮生活とは羨ましい!!
1974年、国指定重要文化財として認定されます。
その後改修などが施され、1989年ヨドコウ迎賓館として一般公開されました。
しかし1995年の阪神淡路大震災で一部破損。
1998年、震災の修復工事が完了し、一般公開が再開されました。
以上が簡単な歴史。
迎賓館と呼ばれているのは、淀川製鋼所時代に接客の場として利用されていたからとの事です。
さて早速お邪魔します。
外観〜車寄せ
初のライト建築、ワクワクが止まりません。
芦屋川駅から迎賓館までの急な坂、通称ライト坂の中腹に建物はあります。
進行方向右手に石積みがあり、小高い丘になっています。
建物はその上に、崖の地形に沿うように建てられています。
一応4階建てらしいのですが、垂直に4階あるのではなく、崖の傾斜に合わしてスライド風に段々で施工されています。
自然との一体感という意味ではライトの有機的建築を感じられる部分ではありますが、実際こちらのアプローチ側からでは木々が乱立している事もあり、少々建物の構造や配置は分かりづらいです。
少し離れて西側から望遠するとよりイメージしやすくなるかもです。
アプローチを進むと車寄せが見えてきました。
その奥には神戸の街並みが一望できます。
直上のガラス窓部分は応接室。
特徴の一つ、大谷石の外装と低めで水平基調な天井。
非常に重厚な趣きです。
床面にも大谷石が貼られています。
前後は吹き抜けの開口部。
奥の木々の借景があたかも巨大なスクリーンのよう。
ちなみに現在一般的にも普及しているカーポートですが、名付けの親はライトらしいです。
この角度からならなんとなく階段状になっている建物の構造が分かるでしょうか。
玄関ドアです。
建物の規模からするとこじんまりとした印象を受けます。
あくまで一般住宅なので必要最小限なのかも知れません。
ただ質感は非常に高く、ずっしりとした重みのドアです。
ではお邪魔いたします。
応接室
玄関ドアを入るとすぐ受付です。
料金(大人500円)を支払い、スリッパに履き替えます。
すぐに階段。
大谷石の階段ですが、絨毯が敷かれています。
階段を上がると応接室があります。
この部屋がやはり迎賓館の中でも一番豪華な部屋でしょう。
見所はたくさんあります。
まずは一番目を引く、中央の大谷石で造られた暖炉。
大谷石は日本でのライト建築の特徴の一つで帝国ホテルでも大量に使用されました。
大谷石は栃木県で産出される石で、特徴として耐火性に優れること、そしてやわらかく加工がしやすい為、ライトの幾何学的な装飾の助けになった事などが挙げれます。
特徴的な大谷石の彫刻。
確かにこれほど複雑に、そして大量に掘り込むには少しでも作業性が良い素材が欲しいですよね。
さらに有機的建築を標榜するライトらしく、大谷石の表面は変化に富んでおりひとつとして同じものはありません。
そのあたりもこの石を好んだ理由かも知れません。
そして迎賓館のいろいろな場所で目にする事になる飾り銅版。
植物の葉がモチーフとの事です。
緑色をしていますが、塗料を塗っているのではなく銅板に緑青(ろくしょう)と呼ばれるサビを発生させているとの事。
ドアにも銅板が貼られています。
また各ドアや家具に使用された木材は外国産のマホガニー材でした。
日本のスギやヒノキで無かった理由はなぜか。
どうやらマホガニーの方が木目が目立たなかった為と言われています。
スギやヒノキのはっきりした木目はライトの装飾と相性が悪かったのかも知れません。
天井には可愛らしい扉付きの小窓が並びます。
ライトは湿度の高い日本の気候を考慮してこうした通風口を各部に設けました。
ただし実用重視な部分でありながら単純な造作に留まらないところがライト建築。
非常に凝った造りでおしゃれです。
当初は網戸だけの本当の通風口でしたが、雨水の侵入に弱く現在はガラスが埋め込まれており、明かり取りとして活用されている様子。
そして応接室をサンドイッチするように両サイドに造られた大きなガラス窓。
木々を借景に、瑞々しい光を部屋に呼び込みます。
奥の木々は秋には紅葉もするのでしょうか。
和室
階段を上がり三階へ来ました。
ガラス窓が連続する、長い直線の廊下がお出迎え。
ここのガラスにも先ほどの飾り銅板が使われています。
廊下に映り込む葉っぱモチーフ銅板の影。
木漏れびを表現しているとの事です。
おしゃれですよね。
写真好きにとって木漏れび程尊いワードはございません。
必ず会心の作品を生み出せる場所、それが木漏れびスポット。
大好きです、木漏れび。
廊下を進み、右側へ一段上がると和室となります。
この和室はライトの設計段階では無かったようで、施主の強い希望で弟子の遠藤新や南信が実現しました。
ただし欄間には例の飾り銅板を使うなどライト建築らしさを残しています。
ここにも銅板が見えますね。
畳にカーテンの和洋折衷。
上部には例の通風口。
襖の取手もダブル菱形でおしゃれ。
飾り台の奥のガラス窓にも例の銅板モチーフが。
そして日本伝統の縦格子。
特徴的な菱形の窓。
菱形は古くからある日本の伝統模様。
木々を借景にこうして眺めてみると和を感じます。
和室の南側は広間になっており、建築模型が展示されていました。
南北に細長く、丘の地形に合うように段々に施工された建物全体の構造がよく分かります。
浴室・洗面室・使用人室
さてさらに奥へ進みます。
洗面室です。
こちらにもしっかり飾り銅板。
そして浴室。
床と壁の下半分はタイル張り仕上げ。
菱形の窓もありますね。
畳敷きの使用人室。
家具も作り付け。
ドアと同じマホガニー材で作られています。
上部は飾り棚となっていて、花瓶などを置くには丁度良いスペース。
こうしたスペースは館内あちこちにあり、実際生花が置かれていました。
ちょっとした空間に花や置物があると途端に生活に潤いが生まれますよね。
少しでも豊かに暮らせるようにとのライトの願いでしょうか。
いまいち分かりにくい写真でごめんなさい。
廊下の天井を撮った写真です。
三角錐の壁面が一点で交わる面白い構造。
単なる装飾なのか、建物構造的に必要な部分なのかさっぱり分かりませんが、面白かったので撮りました。
北側廊下と家族の部屋
さらに廊下を奥に進むと部屋が4つあり、それぞれ家族の寝室となっています。
細長い廊下を進むと部屋があります。
ただし現在は売店、迎賓館の解説ビデオの鑑賞部屋、復刻家具の展示部屋として利用されています。
これらの机と椅子は竣工当時の姿を再現した復元家具です。
実際座ったり、触ったりできます。
特に机が面白く、普通なら四隅に来るはずの脚が中央部にオフセットされています。
そのおかげで遠目に見ると机が宙に浮いているように見えます。
ライト設計の照明器具の復刻品の展示もされていました。
有名なテーブルスタンド、タリアセン4。
この形で照明器具だとは。
驚きです。
売店やビデオ鑑賞部屋も撮りたかったのですが、結構な数のお客さんが居られたので今回は遠慮しました。
そういえば廊下の天井には1箇所天窓がありました。
明かり取りだと思われますが、どうでしょうか?
食堂と厨房
さていよいよ最上階へ向かいます。
四階は食堂と、そして絶景を独り占めできるバルコニーがあります。
食堂への入り口はガラス扉。
例のモチーフがここにも。
最後の階段を上がると食堂です。
最上階のせいか非常に明るい室内です。
北側に暖炉と厨房、南側にバルコニーです。
大谷石の暖炉があります。
暖炉を中心に左右対称な天井の装飾。
この装飾にライトがどんな思いを込めていたかは定かではありませんが、とにかく凄いです。
当時は換気窓だったらしいです。
今では明かり取りとして、夜には星空を眺めることができるとの事。
ロマンチック。
ワタクシはその形状からネクタイ穴と名付けました。
北奥に進むと厨房です。
厨房とは思えないおしゃれな空間。
ここには当時まだまだ非常に高価だった外国製の電気製品が並んでいたとの事。
例えばドイツ製の冷蔵庫やアメリカ製のオーブン、炊飯器、電気湯沸器などなど。
また各部屋や廊下には暖房器や掃除機もあったみたいです。
今では一般的なこうした装備ですが、迎賓館の竣工年1924年といえば大正13年です。
そんな時代にここまでの電化製品を揃えていたとは驚きです。
日本で冷蔵庫が普及し始めたのは1950年代後半からで、1965年時点でもまだ普及率50%程度だったのですから・・・
食器棚と思われる収納の中にはコーヒーカップが置かれていました。
いよいよバルコニーへ
食堂と厨房を堪能したら、いよいよ最後のスポットです。
スリッパをサンダルに履き替えて食堂からバルコニーへ出ます。
四階バルコニーから三階バルコニーへつながる通路。
トンネル状に狭くなっているのはその先の広さを強調するためとの事。
バルコニーの先端まで行くと神戸の街並みが一望できます。
凄いな、これは。
強いて言うなら青空の時に来たかったです。
応接室の時に紹介した、当時は通風口として利用されていた小窓部分の外側の装飾。
どっかの宮殿の入り口みたい。
なぜこのデザインなのか。
どうしてこれでないとダメなのか。
謎は深まるばかり。
バルコニーから食堂への入り口部分です。
それにしても、このバルコニーからの夜景もさぞかし絶景でしょうね。
一度は見てみたい。
夜間見学会など開催されないかな〜。
最後に
いやぁ、良かった。
本当に楽しかったです。
見所満載なヨドコウ迎賓館。
個人的なおすすめポイントを3つ紹介させて下さい。
1.三階 和室前の木漏れび廊下
晴れた日が絶対おすすめ。
写真好きは大体木漏れび好きですよね。
ライトの想いを反芻しながらシャッターをお切りください。
よだれ注意。
2.四階食堂と厨房
応接室も捨て難いですが、最上階の食堂の装飾と明るい雰囲気は最高です。
バルコニーから舞い込む風を感じながら備え付けの椅子にずっと座っていられる。
ここでコーヒー飲みたい〜〜
3.リーズナブルな入館料、そして写真撮り放題。
何気にこの規模の建物、そしてフランクロイドライトの建築という事を考えると入館料500円は破格のお値段。
写真も取り放題なので写真好きも安心。
正直初めてのライト建築だったのでテンション上がりすぎたのか撮り逃しもたくさんありました。
まあそれも次回への楽しみな宿題という事で。
ではではまた。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
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