HEY-SMITHのBack To Basics TOURの話
去る八月二日、この日は父の誕生日だった。五十二歳になる。
私をここまで育ててくれた父への祝いの言葉は忘れず、しかし何よりも優先したい用事がこの日はあった。私が愛してやまないバンド、HEY-SMITHのツアー初日である。
そもそもライブハウスというものが久しぶりで、それだけで胸が高鳴った。BIGCATに行くのは初めてだったが、友達と待ち合わせて物販に並び、他愛もない話をして、CDとラババンとステッカーだけ買って外出て、暑い中しょうもない話をする。
なんだかもう、これだけで内心堪らなかった。もう満足、帰ろか!というレベルだった。
ウイルスに失われた非日常的な楽しみが、本当に非日常になってしまうところだったことが恐ろしくて、悲しくて仕方なかった。
ライブに行く頻度というのはコロナ前から人それぞれだったと思う。月一回必ず行く人、ワンシーズンに一回の人もいるだろう。
私は2ヶ月に一回程度だったが、それがゼロになってしまったとき、そのゼロがずっと続いたらどうしようと、漠然とした不安を抱えた人は多かったと思う。
だから私は、もう会場周辺にいる、ハーフパンツを履いて、バンドのTシャツを着ている人がたくさんいるという事実だけで十分だった。
いよいよ入場すると、床には色付きのテープが貼られている。ここに立って見てくださいという印だ。でも思ってたより人は居て、なんだか安心した。スカスカすぎず、でもちゃんと距離も保たれている。ライブハウスのいいところが失われていなくて嬉しかった。
今日の対バンはSHIMA。ハッピーで誰も傷つけないライブは、曲を一切知らなくても楽しかった。(途中で駐輪場に停めた自転車の鍵を抜いていないことに気がついて、心から楽しめなかったのは内緒。ちゃんと自転車ありました。)
SHIMAのライブがあっという間に終わって、転換中は換気タイムになる。ドアというドアを開けて換気してから、いよいよ電気が暗くなって、HEY-SMITHのSE「Villains/Mad Caddies」のイントロが聴こえてきた。
Villainsを聴いただけで目頭がかっと熱くなる。今からヘイのライブですよ!という目覚まし時計的な役割なので、さっきまで自転車と充電のことだけを気にしてきたのに、すっかり忘れて手拍子をしていた。
この曲のボーカルが始まるとメンバーが出てくる。なんだかもうたまらない。心底楽しそうなメンバーが大好き。
このためにたくさんリハーサルをして、キャパやチケットのこと、グッズなんかも色々考えて、地元である大阪でツアーへ走り出してくれたメンバーが楽しそうにしていることが嬉しくてたまらず、拳を突き上げた。
最初から最後までトップスピードのセットリスト、Vocalの猪狩さんの熱いMC。心を素手で掴んで、グラグラ揺らして興奮させる演奏に痺れた。もう一生終わらなければいいのになと何度考えただろう。
私のこの拙い文章でHEY-SMITHの良さが伝わるとは思えないが、もし知らずに読んだ人がいるなら、ぜひHEY-SMITHの音楽を聴いて欲しい。
最高にカッコよくて、アホになれて、面倒なことも忘れて楽しめて、疲れた自分のケツを叩いてくれる、HEY-SMITHを聴く人が今以上に増えると嬉しい。