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連載「司法書士の契約書作成権限を考える」Vol.2 大正11年3月2日民事局長回答を根拠とする主張
一度、ひとつの記事として公開した内容と基本的に同趣旨です。長すぎるので連載として分割することにしました。既に以前の記事をお読みの方は、本記事はスルーされてください。
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大正時代、司法書士は、司法代書人法の改正を目指して活動を行い、司法代書人法に「関連書類」の作成を追加することを政府に要望していました。ここに「関連書類」というのは、裁判所や登記所に提出しない「権利義務ニ関スル諸般ノ契約書類」を指します。
これに対して、大正11年3月2日民事局長が「司法代書人ノ作成スル司法書類ハ、関連書類ヲ包含シアル」ので「権利義務二関スル諸般ノ契約書類」である「関聯書類」を追加挿入する必要はないと回答したことにより、上記法改正運動は収束しました。
として、前身の司法代書人法時代から、司法代書人には「権利義務二関スル諸般ノ契約書類」が認められていたので、現在の司法書士にも当然それが認められると述べる。
しかし、既にVol.1でご紹介したとおり、判例は、大正時代以降の長きにわたる行政書士法と司法書士法の沿革を研究した福島地裁郡山支部判決を支持した上で、(「権利義務に関する書類」とほぼ同一の外延を有するであろう)登記原因証書になり得る書類の作成が原則として行政書士の業務であると指摘し、その例外として、「初めから登記原因証書として作成される場合は」司法書士の業務であるとの解釈を示している。
昭和26年頃までに司法代書人法と代書人取締規則が既に廃止され、司法書士法と行政書士法に再編された上で、前記のとおり最高裁の調査官解説が示されている以上は、仮に司法代書人に対して宛てられた大正8年の行政解釈が存在するとしても、後法優先の原則に照らして、これを理由として現在の司法書士に契約書作成権限が付与されていると見るのは困難であろう。
この「後法優先の原則」については、ある税理士の解説が参考になるので、引用させていただきたい。
後法優先の原理は、形式的効力を同じくする法令の規定が相互に矛盾抵触する内容のものであるときには、後から制定された法令の規定が、前に制定された法令の規定に優先する(その限りで前に制定された法令の規定は改廃されたものとなる)とする原理をいう。上記特別法優先の原理によって解決できない場合に、この原理が適用される。
社会が常に変化していく中で、その変化に対応した新しい法令が次々と制定されていく。そして新しい法令を制定しようとするときには、新法令と矛盾抵触する内容を有する既存の法令は、これを改正や廃止、調整する規定を置くなどの措置が講じられる。しかし立法上の不備等からその矛盾が整備されず、そのまま残されることもある。その場合に、新しい法令こそがその時点における法の内容を表現したものであるとして、後から制定された法令の規定を優先するのである。
これは実定法上明文の定めがあるわけではないが、立法者の意思を尊重するものとして、法の本質からくる必然的な帰結として承認されているものである。なお「後法は前法を破る。」という法格言は、このことを表わしている。
なお、筆者においては、大正11年3月2日民事局長回答の原本を入手すべく調査中だ。通知の内容云々ではなく、その後の法律の整理により、司法代書人を名宛人とする回答が現在も有効だと解することに無理があるのではないかというのが筆者の立場だが、念のため調査は尽くしておきたいと思っている。