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連載「司法書士の契約書作成権限を考える」Vol.9 ”グループ”の主張に関する結論

一度、ひとつの記事として公開した内容と基本的に同趣旨です。長すぎるので連載として分割することにしました。既に以前の記事をお読みの方は、本記事はスルーされてください。


結論

グループは、

以上、検討の結果、どのような観点からしても「司法書士には、当然に契約書作成権限があることは明らか(登記の添付書類であろうがなかろうが)」であって、これに反するものは一切見当たりませんでした。
自信を持って、登記に関係しない契約書であっても受託していただきたいと思います。
また、万一、司法書士会以外の団体から「契約書作成は司法書士業務ではない」などという文書を受領した場合には、ご連絡いただければ、微力ながらお力添えしたいと思います。

佐藤大輔司法書士のホームページより

と述べるが、ここまでの検討と資料を総合すれば、「どのような観点からしても『司法書士には、当然に契約書作成権限があることは明らか(登記の添付書類であろうがなかろうが)』」ということは到底できない。
これをグループが知ってか知らずか、筆者には知るべくもないが、平成23年2月28日福岡法務局長の懲戒処分例という最大の反例が存在するという厳然たる客観的事実からこれ以上目を背けることは道義的に許されないといえよう。

また、そもそもグループの論理的立場=向原弁護士の説に賛成する立場からは、司法書士は、法的整序の範囲内でかつ専門的判断に至らない方法でしか契約書を作成できず、しかも、これに瑕疵があった場合、損害賠償責任保険が適用されるかも明らかではないものになる。
かかる状態で、「自信を持って、登記に関係しない契約書であっても受託」することが適切であるとも、依頼者にとって利益であるとも到底思えない

唯一、グループの主張する事実として根拠があると見えるのは、日本司法書士会連合会執行部員が、第87回の定期総会において、「権利義務に関する書類作成を司法書士が行うことについての法令上の制限はない」と発言したとされることである。
その詳細な論拠は不明であるものの、平成23年2月28日福岡法務局長の懲戒処分例「裁判所提出書類」に関する(グループが支持する)裁判例を踏まえれば、「法令上の」制限ではないものの、いわゆる紛争性がないことは当然として、さらに、その作成の範囲は「法的整序」であって、なおかつ「専門的判断」に至らない範囲内の書類作成に限られ、しかも、認定司法書士であっても訴額140万円しか作成できないことになり、「法令」以外の規範に基づく相当強度の事実上の制限があるように思われる。

仮に、グループがいう「司法書士も契約書を作成できる」との主張が、このような法的・論理的状態のもとに置かれているものであることをあらかじめ知っていれば、一般的な依頼者・相談者は、ふつうは、「それなら、最初から弁護士に依頼したい」と考えるのではないか。

行政書士試験に合格すればいいのではないか

私見だが、一般論として、行政書士試験は、司法書士試験よりも遙かに容易であるといわれているし、筆者もこの感想に賛成である。

余談になるが、筆者の場合は、1ヶ月半ほどの試験勉強で246点(本試験成績通知による)を得点して合格し、予備校TACの統計では全国2位、LECの統計では全国5位との順位が示された(ただし、両予備校に成績を提出した3000人余の中での順位である)。

もっとも、TACによれば、最高得点者は290点を得点したということであり、筆者はこれに遙か遠く及ばないものであったので、偉そうなことはいえないのであるが。


司法書士業務と関係なく契約書等の権利義務関係書類を作成したいのであれば、判例や懲戒処分例、損害保険会社の運用に反する無理な解釈に拘泥して無理矢理行政書士の独占業務に「進出」するという「軍事侵攻」を試みるまでもなく、難易度の低い行政書士試験に合格し、安い(東京会であれば7000円)月会費を支払って行政書士登録をなした上で、依頼者とともに真に安心して契約書等の作成を手がければ良いのではないか。

そうでないと、平成23年の懲戒処分例という明白な「反例」があること、なおかつ、(グループの「見解」に基づけば、)紛争性がない契約書等の作成についても、いわゆる法的整序・専門的判断という桎梏の範囲内でしか関与できないというかえって不自由な結論に帰すること、しかも損害賠償責任保険により保護される保証が全くないことなどからすると、こうした「見解」は、単に行政書士試験に合格する自信がないから、あるいは会費を「節約」したいから、司法書士の業務として契約書等の作成ができると強弁しているようにしか見えず、そこには、「法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家」として「国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする」(司法書士法第1条)真摯な姿勢は窺えない。

グループが、以上指摘したとおり数々の事実誤認や法令解釈の誤りを原因とする「見解」を速やかに撤回し、行政書士法及び司法書士法の適正な解釈が周知されることを、一市民として切に希望するものである。

参考資料

本稿で引用等したものに限りません。

『月報司法書士』第471号、日本司法書士連合会、平成23年5月10日発行
『月報司法書士』第627号、日本司法書士連合会、令和6年5月10日発行
『注釈 司法書士法(第4版)』、テイハン、令和4年6月発行
『歴史に見る行政書士像江戸の奉行所と公事訴訟の実態』、宮原賢一行政書士、平成24年6月24日発行
『司法書士法第3条第1項第5号と第7号における法律相談の研究』、八神聖(司法書士、名城大学法学部特任教授)、平成27年
『契約代理人の心構え』、山上和則弁理士、平成14年
『市民と法』第102号”司法書士の業務範囲(5)”、七戸克彦九州大学教授、平成28年12月1日

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