継ぎ足しおでん
この冬は寒い。
そしてオレは年々寒さに弱くなっている。
冬と言えば、静岡で生まれ育ったオレはやっぱり静岡流のおでんが好きだ。駄菓子屋にはきっとあった。何しろオレの実家がそうだった。
今、オレは寒い間中おでんを継ぎ足して続けている。静岡では具は何でも串に刺してあるが、家では面倒なのでそのままだ。
醤油と出汁、後はその都度、日本酒やら、味醂やら、水やら、残った煮物の汁やらを足していく。
蒟蒻、豚モツ、大根、竹輪、さつま揚げ、なると巻き、玉子、厚揚げ、豆腐、小松菜、キャベツ、牛蒡、魚肉ソーセージ、ウインナー、何でもかんでも入れていく。
尤もいっぺんに全部は入らないし入れない。
少しずつ、その日その日の半端物を気分でちょっとずつ入れるのだ。
毎晩家に帰ると先ずおでんに火をつける。部屋が暖まって、鍋が沸いてきたところで前夜食って減った分の具を足す。
作り始めの1週間程はあまり旨くないし色も白っぽくてよそよそしいが、そのうち油が浮いてきて、色んな具の出汁が出てきて、真っ黒になってナンとも言えない旨さになる。
これさえあれば、飯も食えるし酒も呑める。
何の魚の粉かわからない魚粉と青海苔をかけて食うのだが、家では煮干しの粉を使っている。
この晩は、底の方で真っ黒になっていたモツとさつま揚げ、蒟蒻を食った。
散々飲み食いした後だが、これでもう一杯やって、それで決まりがつくのだ。
路地裏の、カウンターだけの、小さな飲み屋さん、女将さんが一人でやっているようだ。オレのおふくろより先輩かもしれない。L字のカウンターの角に大きな鍋がある。鍋を覗くと真っ黒なつゆが入っていて、そこから沢山の串が生えている。炭なのかガスなのかわからないがほんのりと湯気がたつかたたないか、けっしてグツグツはしていない。
知らない人が見たら食べ物だとは思わないかも知れない。たぶん、何年も継ぎ足しているのだと思う。本当は違うかも知れないけれど。そんな風に見えるのだ。
蒟蒻と黒はんぺんを頼んだ。
いくら鍋を覗いても汁が真っ黒で何が入っているかわからない。女将さんがちょっと串を持ち上げて確認して、蒟蒻と黒はんぺんを皿にのせてくれる。
どちらも真っ黒だ。黒はんぺんという名前だが元々黒くはなく、つみれのような灰色をしている。これだけ黒いのはだいぶ煮込んである証拠だ。こういうのが旨いのだ。
だし粉とよばれる魚粉をかけて青海苔をかけて、ビールをぐびり、それから、はふっと、で、ぐびぐび。
そういうお店、今でもあるのかなあ。