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はぜ。

焦り気味に家に着いたオレは急いで着替えを済ませて冷蔵庫を開けた。
傍目にはいつもと変わらないが内心は焦っていた。
オレはラップに包まれたそれを取り出して包みを開き、においを嗅いだ。
大丈夫、痛んではいない。
ほっとして水を一杯飲んだ。
3日ばかり前に隅田川ではぜを釣ったのだが下処理だけしてしまっていたのをさっき思い出したのだ。
釣りの後は酒を飲んでしまい、みんな忘れるといういい習慣を身につけているのだった。
といってもたったの四匹。真冬並の釣果だが釣ったものは有り難くいただく。
頭を落としてウロコと内蔵を取ってあるのですぐに調理にかかれるのだが、これっぽっち天ぷらにするのもなんだかなあ、と、小鍋に日本酒をトクトクと入れて火にかけた。
得意のなんちゃってかえしをタラーリとまわし入れ、生姜を千切りにして放り込み、沸いたところへうやうやしくはぜを並べた。
弱い火で煮込んでいく。ちょっとだけあくがでたのでとっておいた。
キクマサピンを用意しておく。
しばらくするとちょっと艶っぽく煮詰まって来たのでそうっと器に移した。

頭がないとやっぱり貧弱だ。
しかしいい匂いだ。
キクマサピンをそば猪口でゴクリとやってからはぜの背中辺りに箸を入れた。ホロリ、と身がほぐれた。
そうっと口に入れた。
きゃー、上品。
薄あまじょっぱい煮汁の中から白身の淡い身がホロっとくずれてたんぱくの先から旨味がじんわりしみだしてくる。
ピンをコクコク。
骨ごとパクリ、小骨が多いのが難点だが骨の回りをちゅうちゅう。
ゴクゴク。
ホロ、チュウ。
もう少し釣れたらよかったが、授かりものだから仕方がない。
家の人も遠慮して一匹しか食べなかったが、あっという間に無くなってしまった。

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