プロキシは悪か/プロキシが許容されるゲームは民度が低いのか
はじめに
ポケモンカードゲームプロキシ(代替カード)を非公認大会で使うことが許されるか否かという話題で盛り上がっていたようですね。
また、他のカードゲームの非公認大会では通常許容されていないプロキシの使用について、容認される大会が存在するポケモンカードゲーム界隈は民度が低い、と見なす声もあがっているようです。
此度は、プロキシの仕様の是非について大きく分けて2つの観点から考察してからまとめ、またプロキシが許容される大会が存在することが、民度の尺度として適切かどうかについて考えていきたいと思います。
0.考察に値しない論点
まず、論ずるに値しないこととして、公式大会及び公認大会で使用することはルール上禁じられていますし、非公認大会においても代替カードの扱いが公式のルールに準じている限りは使用できないことは強調しておこうと思います。それと同時に、公式や大会の運営者にプロキシの使用を可能にすることを要求することもまた、論ずるに値しない愚行であると考えます。
ルールが合理的で適法である限り、競技の参加者はそのルールに従う努力をすべきです。
ついでに、フロアルールにて「すべての大会で代用カードを使用できない」と記載があることを根拠に非公認大会でも使用できないと主張する方もいらっしゃるようですが、原則的に大会のルールは主催者に委ねられているものであり、非公認大会のルールを拘束し得るものとは考え難いです。(もし拘束し得るのであれば、個人の行動を規制すべき法的根拠を示してくださると有難いです。ルール以外の部分の話で言えば、オンラインゲームなどは利用規約として営利目的での使用などを拘束し得るのですが、紙のゲームで問題になるとすれば、外観的に公認大会であるように意図して錯誤させた場合に何かしらありますかね。詳しくないのでちょっとこれ以上はわからないです。)
1.法的論点
プロキシの利用可否について論じるべき1つ目の点は、果たしてプロキシの利用が著作権法違反となるのか、というものです。
著作権法自体が親告罪であり、かつその性質故に高度な司法判断を要求されることから、これは即座にこの場合はOK、この場合はNGと私が明言することはできません。(親告罪であれば訴えられない限り何をしても良いとは言っていません。)
以下はあくまで他の事例を参考にしたケーススタディであり、これを法的根拠にすることはできないとお考え下さい。
プロキシの利用の形態ごとの考察
プロキシの利用形態は主に以下の4つに区別されます。
①カラーまたは白黒コピーの場合
②実物のカード枠を模したコラージュの場合
③それ以外(テキストやカード名のみ)
④海外版など、別のカードを代用する場合
これらのうち、著作権法上問題となる可能性の指摘を明確に免れないのは①から②で、この2つは著作権法第30条に規定される個人利用にあたるかどうか、が争点となるでしょう。(調べればわかると思いますがそれ以上の判断は個人では不可能です)
また、③に関してはテキストやカード名が著作権法上の保護対象になり得るのか、という争点がここに加わります。
一般的に、キャラクターは名前のみでは著作物としてみなされないとされる傾向がある(商標権により保護されるという話は今回の件とはほぼ無関係なのでしません)一方、具体的に表現されたキャラクターは著作物となり、保護されるというのが通例となっているようです。
この例を基に考えると、カード名のみでは著作物とみなされないようにも思えますが、これも結局は司法判断となるので明言は避けます。
では、カードテキストはどうでしょうか。著作権法上、著作物の定義とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とあります。
カードテキストに個性が表れている場合は著作物となる可能性があるようですが、一般的に説明文などは著作物にあたらないとされる場合が多いようです。(カードテキストは著作物にあたるか、という弁護士相談サイト上の質問への回答を参考にしているだけなので、これも明確にこうである、という言い方はできません。)
カード名とテキスト(の中で挙動のみを簡素に書きかえたもの)であれば他の事例を見る限りクリアしていそうですが、やはり自分は法律家ではないので明言は致しません。
④に関しては創作物の無断複製等にはあたらないことは明確でしょう。
以上のことを考慮すると、「プロキシを容認している非公認大会で使用する場合は、カラーコピーや既存のカード枠を流用したものでないのが無難で、カード名(または通称)とテキスト(説明を簡素に書き下したもの)のみは前者に比べると通例上認められそうだが、念のため海外版などを使用することが望ましい」となりそうです。
2.モラル的論点
一般的に批判される点について
では、法的な問題をクリアした場合、プロキシの使用は非公認大会で認められても良いものなのでしょうか。
プロキシは非公認大会でも認めるべきではないとする理屈で、主となるのは以下のようなものでしょう。
「プロキシの使用が当たり前になればカードを買う人が減り、メーカーへの損失となる。長期的に見て他のユーザーにも迷惑になる行為だから許すべきではない。」
ごもっともだと思います。
プロキシで遊ぶ場が当たり前のように横行した場合、プロキシの利用者は言わばその他のユーザーの経済的負担と企業の努力へのフリーライダー的行為であり、文化として声を大にして主張できるような、望ましいものでは決してないと私も考えます。
そもそも、ポケモンカード自体パックから出るカードは安いバージョンで揃えれば高額なカードは多くないため、プロキシを利用しなければデッキを組めないといったことにも陥りづらいでしょう。
ただし物事には限度と例外がある
発売前のカードのみ代用可能とした場合、果たしてそれはメーカーの利益を損なうでしょうか。
また、絶版の高額プロモーションカードのみ代用可能とした場合はどうでしょうか。
(繰り返しますがこれらも法的問題をクリアしている前提とします)
こういったケースでもあらゆるプロキシを許容する非公認大会を駆逐するべきであるとするならば、その根拠はどこにあるのでしょうか。(店舗が主催した場合のメーカーとの信頼関係についてはあくまで企業間のやり取りになるため割愛します。)
前者については特に語ることはありません。
法的問題をクリアしているプロキシで発売前のカードを代用可能とした大会なら、特に咎めるべき理由は無いように思います。(主催者は法的責任とは別に、参加者へ可能な限り法律上問題となりにくいプロキシを使用するように呼び掛ける道義的責任は少なからずあると考えます)
ここで主に触れたいのは後者についてです。
そもそもカードゲームという商品自体、個人間で遊ぶ場合は究極的には正規のカードを買う必要などありません。
個人が正規のカードを買う理由付けとは、公式および公認のサポートを受けられる(大会へ出場する)権利を得ることと、プレイヤーの良心もしくはプライド上の問題に過ぎません。
メーカーへ損失を与えるようなユーザーの行動は望ましくないと先ほど述べましたが、公式のサポートを受けることを目的にユーザーがカードを購入する以上、メーカーはユーザーが遊びやすい環境を整える責務があることもまた事実です。それは、メーカーが快適な対戦環境の整備を放棄した場合に起きることは、結局はユーザー側の望ましくない行動と同一で、ゲームの衰退であるからに他なりません。
メーカーがコレクション向けに売り上げが確保できているのをいいことに、まともに対戦環境のサポートを行わないようであれば、ユーザー側にも律義にメーカーの利益を尊重してやる筋合いなどないわけです。
そんな状態に陥った時、例えば1枚あたり何万円~何十万円のカードが必須となり、公式からの対応がない場合に、それでも可能な限り公式の利益を損なわない形でプロキシを許容する大会が行われていたとして、それが果たして非難するべきことであると言えるのか、私には甚だ疑問です。
現在のポケカ事情
まあつまり何が言いたいかというと、
これとかそれとかは流石にプロキシ可能の大会開かれても問題ないのでは?
ということです。
例えばウッウロボは海外版で代用可能、チャンピオンズフェスティバルは海外版もしくは事前に大会で取り決めたレギュ落ちのスタジアムで代用可能などとした場合、法的にはまず問題ないでしょう。
どちらも絶版プロモであり、メーカーの売り上げへの損失も考えられませんし。
著しく高額なプロモカードが環境上位デッキに必須である状況を放置し続け、更にスタンダードという狭いカードプールの中でそれ以上に高額なカードが有用となる組み合わせをリリースしている時点で、今のポケカの公式に信頼もクソもないでしょう。
ポケモンカードの性質(弱点の存在)を考慮すればそこまで一極集中的なメタゲームになることは考え難いですが、環境デッキの選択肢が大きく制限されることはプレイヤーにとってはストレスになります。
カードが高すぎて公式大会に出られず非公認も同様であれば、普通に個人間で遊ぶにとどまりますし、それこそちょっと高いカードは全部代用でいいよね、という人が増えてもおかしくありません。
文字通りの札束デッキが環境最上位になる、というのはかなり大げさな仮定かもしれませんが、ポケモンカードの再録および収録の手法は常にそういった危険と隣り合わせであることは紛れもない事実であると考えます。
それでも非公認大会であらゆるプロキシを許容するなというのは、あまりにメーカーの肩を持ちすぎではないだろうかと私は思います。
※筆者はウッウロボは所持しています。チャンピオンズフェスティバルは所持していません。現在はミュウとロストがメインでサーナイトを使用していないので問題はありませんが、これがtier1として固定化したらプロキシ使う使わない以前に普通にこのゲーム一旦辞める択をとります。
まとめ
著作権法が親告罪であり、同時に条文解釈に幅のある、司法判断を要するものである以上、一概にプロキシの非公認大会での使用が法的に白か黒かということは言い難いので、もし容認された大会に出る場合も、可能な限りの配慮が参加者に求められるでしょう。また主催者も法的責任とは別に、参加者へ適法なプロキシの使用を呼びかける道義的責任があると個人的には思います。
プロキシ容認の非公認大会を開くこと自体は、上記法的問題をクリアしている場合はモラルの問題となるので、批判はできても開催できないように圧力をかけるなどは、それもまた好ましくはないでしょう。
また、発売前のカードのみプロキシ可や、高額プロモに限りプロキシ可など、メーカーの利益が大きく損なわれないような形であれば、特に非難される謂れはないと考えます。
そして、現在のポケカは、常軌を逸した高額プロモが環境上位デッキに必須級でその対応がない、またはそれを考慮してカードを刷っていないと見なされてもおかしくないのも事実です。
もちろん、現在開かれているプロキシ容認の非公認大会が上記のように「仕方ない事情」によって開かれているものばかりであるとは全く考えていませんし、モラルハザードを招くような運営をしている場合は批判も受けても致し方ないでしょう。
公式大会での使用を認めるように求めた海外の別のゲームのプレイヤーや、プロキシが認可されていない非公認大会で許可を求めるようなクレーマーを擁護もしません。
ただ、断定的かつ一概にプロキシ=甘え、遊ぶ以上高いカードを揃えて当然、という思考は、それはそれで問題があると思い、これを書くに至りました。
おまけ(ポケカの民度って低いの?)
ポケカプレイヤーはプロキシに甘い=民度が低い、というのはまた別の問題だと思います。
個別のタイトルごとの民度の優劣を語るのは、結局のところ自身の経験に拠ることになり正確性に欠ける故控えたいので、あくまで同レベル以上といった括りで以下では記述します。
まず、タイトルを問わず高額賞品が提供される大会など、一勝の価値が重い場ほど、イカサマやルール・ジャッジの不適切な利用を行うようなプレイヤーは多くなります。
そして、そういった競技性が高い場所以外でも威圧的なプレイヤーが多かったり、積極的な盗難、キセル、詐欺といった犯罪行為やシャークトレードが横行していたりしたゲームと比べて、果たしてポケカはどうでしょう。
様々なタイトルのかなり酷かった時を見聞きしていた身としては、どう贔屓目に見てもポケカがそれよりも遥かに「民度が低い」とはとても思えません。良くて「同等」止まりじゃないでしょうか。
まあ、結局は個人によって見てきた世界が異なるのでしょうけれど、他タイトルのプレイヤーがプロキシや転売(そもそもこれはプレイヤーじゃない)の話を聞いて「ポケカの民度は低い」と吹聴するのはあまりに風評被害が過ぎるんじゃないですかね。
おわり。高額プロモが環境デッキに採用される不健全さについてはもうSNSで言ってもしゃーない(どうせそんなことで動いてくれるような会社じゃないと思っている)のでご意見ボックスへ投げましょう。僕は投げました。