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みんなが帰る場所に、また〜和製ケビンおきなわツアー2023初夏「アルテにカエル」〜レポ
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(ライブレポとなりますので、出演者の皆様の敬称を略させていただいております。ご了承ください)
多くの人々に愛される場所、美味しい食事と楽しいイベント、ライブが行われる「アルテ崎山」。
今日(5月25日)は、以前レポートを書かせていただいた、和製ケビンの沖縄ツアー最終日を見届けるためにやって来た。
今回はラジオ番組が縁で知り合った沖縄県立芸術大学の学生、けふさんが、コラボしているというので、楽しみが倍増だ。
けふさんは、カエルイラストレーターとしても知られており、僕も何点も作品を持っている。
可愛らしいカエルのイラストは、タピオカドリンクで有名なクイックリーとコラボしたことがあるほど。
このツアーは、和製ケビンがカエル好きと言うことから生まれた、まさに夢のコラボだ。
はやる気持ちを抑えつつ、僕はアルテ崎山のドアに手をかける。
OP〜展示イラスト紹介〜
「アルテにカエル」のオープニングは、和製ケビンとけふさんとのトークで開始。
トークは珍しいとのことなので、実際に現場にいた皆さん、ライブ配信を観ていた皆さんは、かなりレアな様子の目撃者だ。
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けふさんは、キャンバスに絵の具を乗せて描き始めるそうだ。
この絵については、下書きから始めたということで、珍しい作品とのこと。
カエルが巨大なのか、それとも女性が小さいのか、鑑賞する側も想像力を掻き立てられる素敵な1枚。
スイカには窓やドアが見て取れ、家になっているのも面白い。
カエルの国に迷い込んだのか、それともカエルの惑星があるのか。
空想が無限に広がる面白さだ。
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木の根のスケッチをしているところから発想が浮かんだという1枚。
夜の森だろうか、暗い中に瓶が落ちている。
よくよく見てみると、そこにはカエルが。
瓶の中に入ってしまったのか、それともそこがすみかなのか?
これもまた、想像力が掻き立てられて面白い。
絵画などのアートも、音楽同様にインスピレーションを刺激してくれる素晴らしいものだと、僕は確信している。
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最後に紹介したのは、本日出演するアーティストのイラスト。
それぞれ特徴をとらえていて、可愛らしい仕上がりに。
ここにもしっかりカエルが存在感を出している。
けふさんのカエル愛は本物だ。
これから、カエルイラスト界の超新星として名前を聞く日が来るかもしれない。
そんな時、僕はきっと、この素晴らしいライブのことを思い出すに違いない。
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ricco
オープニングアクトを飾るのは、ricco。
riccoの歌声には、パワーがある。元気がある。そこに重ねて、何とも言えない優しさも。
とても魅力的な音楽パワーを持っているricco。
ライブの口開けは「単細胞 癌細胞」からスタート。
「負けるもんか」「単細胞であれ」と力強く歌うriccoの声は、本当に心を打つ。
何となく悪いイメージを持たれがちな「単細胞」というフレーズ。
例えば、これを「一つのことに全力で取り組む」ことを考えれば、「単細胞」とは、何と素晴らしいものだろうか、と思えてくる。
この曲を作ったのは、シンガーソングライターの松浦泰祐。
riccoのために作ってくれたという、この曲の力強さは、2人の歌声のパワフルさと似たのかもしれない。
2曲目は「届くといいな」も心を打つ素晴らしい曲だ。
ポップなメロディーラインに乗って流れてくる歌詞は、どこまでも優しい。
「空に浮かんで遠くから見てみればとても小さいこと」で、「黒い雲の上はまぶしい世界」だと歌いあげる。
時折見せる、笑顔が何とも優しい気持ちにさせてくれる。
3曲目も、力強さの中に優しさが溢れる歌声が、アルテ崎山に満ちあふれる。
「勇気と優しさだけで未来が輝きだす」と言うフレーズは、たくさんの人の心をとらえるのではないだろうか。
ほんの些細なこと、それが背中を押してくれることがある。
そんな当たり前のことを思い出させてくれた瞬間だった。
オープニングアクト、最後はアルテ崎山を歌った歌「アルテの歌」で締めくくった。
アルテ崎山に集う、ミュージシャンだけでなく、多くのお客さんの顔が浮かぶような、素敵な曲だ。
優しさがあふれる場所、温かく迎えてくれる場所、アルテ崎山という場所の肌感覚を見事に言葉として紡ぎ出している。
「会いに来てくれる」と「会えますように」という、双方向の思いやりの感じられる歌詞。
全曲を通じて、riccoの曲には、優しさが根底に流れているように感じる。
だからこそ、優しさに満ち満ちた「アルテ崎山」は、彼女を必要とし、彼女もまた、その大事な場所を必要とする。
そんな、魂の引きつけ合うものを感じたような気がする。
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じゃぱな
ラップやHIP HOPは怖い感じがする、そんなイメージを持っている人には、ぜひ知ってほしいミュージシャンがいる。
それが、じゃぱなだ。
ラッパーとしても活躍しているが、デザインにも長けており、グッズとして製作している「こむぎこ」Tシャツは大人気。
さらに、沖縄で活躍する「やきとりのことしか歌わない」バンド、やきとりバンドでも活躍している。
彼が歌うのは、何でもない日常でありながら、どこか滑稽でシュールな心情。
1曲目の「Shall We 変なダンス?」は、まさに滑稽ながら、心に大事なことを紡ぐ。
書店で働く彼が見つけたという『誰でもできるのにほとんどの人がやっていない 科学の力で元気になる38のコツ』の帯に書かれていたことからインスピレーションを受けたという。
変なダンスを踊ると、落ち込んでいても元気が出るらしい。
「仕事中でもトイレで踊ればいい」というリリックは、ストレスフルで落ち込むことの多い現代人には、優しい言葉の薬。
「レッツ☆チャリティー ピーポー」は、募金という行為の善意の部分にスポットを当てた素晴らしい曲だ。
「お前の金が誰かのため」とはっきり言い切れる、じゃぱなという男、優しさに満ちている。
「可愛い店員さんと友達になるぞ」は、打って変わって男の下心と、優しさの入り混じった面白い曲になっている。
所々、ポエトリーリーディングのように捲し立てるのが心地良く、下心はふっとかき消されているように感じられるから不思議だ(笑)。
「あっち向いてホイ」は、もともと、ちゃんとしたタイトルがなかったと言う。
「現実から理想の世界へホイ!」で、辛い現実から逃れる術を教えてくれる。
現実の世界は、辛いことが多い。そんな時に、あっち向いてホイ!とすることで、自分を守る。
そんな社会派な一面も感じられる、素敵な曲だった。
「沖国大の学園祭にゲストで呼ばれたい」は、じゃぱなの本音ダダ漏れの1曲。
そして、表に出る活動をしている人ならば、きっと思っているに違いない、心の奥底にある叫び、「母校の学園祭に呼ばれたい!」。
僕は、完全に裏方仕事なので、呼ばれることはないだろうが、呼んでもらえるなら呼ばれたい(笑)。
「呼ーばれたい!」のコール&レスポンスもバッチリ決まって、会場内も盛り上がる。
「サクラザカアサイラムにゲストで呼ばれたい」も、表現者としての心の叫びがにじみ出る作品。
サクラザカアサイラムは、那覇市にある桜坂劇場を中心に行われる街フェスだ。
2022年は、希望ヶ丘公園やライブハウス、バーをサーキット形式で行われている。
「そこに、ゲストで出たい!呼ばれたい!」という切なる思い。
これだけ、さまざまな心情を言葉で紡げるのだから、きっとゲストで呼ばれるはず!と、僕個人としては思っている。
ラストは、じゃぱなの代表曲と言っても良い「売名行為」だ。
自分に興味のない人間を振り向かせるには、売名行為も必要なんだとコミカルなリリックで攻める曲。
それでも、ギスギスした感じがしないのは、じゃぱなのキャラクターはもちろん、「北風のように強引ではなく、太陽のようにその人の意思で」というリリックにある。
何もかも押し退けて、売名行為が大事だ!となれば、聴いている人の心もざわつくだろう。
そこを、強引にしないことが大事なんだと説く、じゃぱなには説得力がある。
そして、サビで見せる決めポーズ「広告塔〜」も、みんな心をざわつかせることなく、ほっこりする要因だ。
実は、際どいところも攻めているはずのリリックを、柔らかい表情と言葉で包み込むじゃぱなのラップは、「凄い」の一言。
近いうちに、沖国大の学園祭にも、サクラザカアサイラムにも呼ばれるに違いない、沖縄の稀有なラッパーの一人、じゃぱな。
会場のお客さん、配信視聴者もきっと心をつかまれたに違いない。
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和製ケビン
和製ケビンおきなわツアー2023初夏「アルテにカエル」の主役登場に、会場からは割れんばかりの拍手が起こる。
約3ヶ月ぶりの沖縄でのライブ。多くのウチナーンチュファンが待ちわびていたに違いない。
ちなみに僕は、昨年12月のワンマンライブ以来、5ヶ月ぶりとなる。
和製ケビンのワンマンライブが、僕の初のライブレポだったこともあり、思い入れも深い。
セットリストは?何が聴けるだろう?とにかく、ワクワクが止まらなかった。
ギターの音が、アルテ崎山に響く。いよいよ、和製ケビンのライブが始まる。
最初の曲は「ことば」。曲を歌い上げる際の和製ケビンの表情も素晴らしいのだが、この力強く響く声が彼の武器だ。
彼を中心とした波紋が押し寄せるように広がる声。
そして、ブルースハープの悲しげな中に感じられる哀愁が一体となる。
そこで、ふと気が付いた。
和製ケビンの声は、どこかブルースハープに似ているのではないか、と。
時折、掠れる声の艶やかさが、僕にはブルースハープのそれと重なって聞こえた。
その艶やかな歌声で紡がれる「ことば」の歌詞を聴きながら、音楽の楽しみ方を今一度、教えてもらえたような気がする。
「アスファルトにチョーク」は、心の内面に訴えかけてくるナンバーだ。
その力強い歌声が心の扉を開いたかと思えば、「魂に火をくべろ」「命燃え尽きるまで」という歌詞が心の扉を通り、奥底にある燻っているものに火を付けるような感覚。
ガツンとパンチのある歌声に、熱のこもった言葉を紡ぐ楽曲の数々。きっと、そこにファンは惹きつけられるに違いない。
「30歳」は僕の好きな曲のひとつだ。
自分の進む道に前のめりで進む若者の姿が描かれている。
両親の望みや、そこに対するアンサーとしての彼女との別れの描写。
コミカルながら、なぜか自分とも被るシーンを思い起こさせてくれ、クスッとなってしまう。
しかし、そこにあるのは歌が好きで好きでたまらない男の心情。
これしかやりたくなかったから、やり続けてこれたという歌詞には、音楽への愛がギュッと詰め込まれている。
もう一曲と言わず、何曲でも歌ってほしい。何曲でも聴きたいからと、アンサーしたくなる名曲だ。
「あの子の顔を思い出せない」は、艶っぽい体験を綴るムーディーな一曲。
しかし、そこに被せるように出てくる、名曲を思い出せないというシーン。
夢か現か幻か、という常套句は少し陳腐になってしまうが、そんな言葉を思い起こさせる、不思議な曲だ。
絡みつくような歌声は、何ともゾクッとする感覚がある。
カエルが好きになった理由のMCから入る「蛙の雨宿り」。今日のコラボにピッタリの選曲に、思わず微笑んでしまう。
歌声も優しく、好きな人と一緒にいる気持ちが、ゆっくりと思い起こされる。
40を過ぎ、恋するという感情が薄れつつある僕だが、この歌を聴いていると、本当に昔々の淡い感情がフルフルと揺り動かされた。
ポツポツ、ケロケロという擬音語が、この曲の優しさを際立たせている。
「背中」を聴いて、僕の感情のピークが来てしまった。
父親をイメージして作ったというこの曲。
僕は、1年前に父を亡くしたこともあるからだろう。「あなたのような父親になりたい」という歌詞や、愛情はいつも知らない間にそばにあったという表現に、涙腺がゆるんでしまった。
涙をこぼすことはなかったが、じんわりと視界が滲み、父の姿が思い出された。
僕は、父が「いなくなる前に」十分に伝えることができなかったが、いつも心の中で伝えようと思えた。
「父さん、僕はあなたの子供に生まれて幸せでした。あなたのような父親になります、きっと」と。
琴線に触れる歌詞が、力強い父の背中や優しさを思い出させてくれ、最後の方はほとんど前が見えていなかった。
まだ聴いたことがないという人には、是非とも聴いてほしい楽曲だ。
「燕」は、和製ケビンが好きな球団、「東京ヤクルトスワローズ」を思い起こさせる曲。
おそらく、そのイメージもどこかに入っているのではないだろうか。
燕が低く飛んでいくのは、高く飛び上がる為だとイメージし、どん底を生きていくと歌詞に励まさせる人は多いだろう。
「まだ諦められないからこそ 諦めてきたものがある」という歌詞には、人が生きていく中で、きっと感じたことのあるシーンだ。
音楽を生業にしているからこそ、そんなシーンを何度も経験したことがあるのかもしれない。
しかし、音楽を生業にしているからこそ、「あなたの声がなかったら辿り着けなかった今が」あり、「たった一人のその声が大きな翼に変わ」ったこともあったに違いない。
人生は辛さだけではなく、人との出会いによる喜びや幸せがあることを高らかに歌い上げる「燕」。
何度も繰り返し聴き、前向きに人生を進む道標にしたいと思った。
ラストに選んだ曲は「朝陽」。和製ケビンが歩んできた人生が目の前に広がってくる名曲だ。
そして、彼の大事にしていることが伝わる、素晴らしい曲でもある。
「ずるはせず嘘はつかず 言葉を大切にしなさい」という歌詞は、きっと彼の支えになっているに違いない。
だからこそ、自分の信じる道をしっかりと進めているのだろう。
スニーカーとギターを旅の友として、全国各地を飛び回り、歌を届けていく。
その歌に励まされ、励まされた人々もまた、自分の道を進み続ける。
「線路はなくとも旅に出ろ 朝陽を迎えに旅に出ろ」
そう自らを鼓舞し、そして僕たちの背中を押しながら、和製ケビンの旅はまだまだ続くのだ。
万雷の拍手は、次第にアンコールを求める拍手へ変わる。
アンコールに選んだ曲は「かぞくのうた」だ。
「初めて会ったのに兄弟だなんて」の歌い出しで始まるこの歌は、沖縄を思って作ってくれた曲。
血のつながっていないにもかかわらず、「あなたは家族だから」と迎えてくれ、どうか元気でと送り出してくれる。
沖縄は、不思議な場所だと思う。
誰もが心を開いてしまう何かがあり、心を開いた人を受け入れる何かがある。
だからこそ、多くの人が、また会いに来てくれるのだろう。
そして、お互いにこう思いあうのだ。
「どうか幸せでありますように」と。
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またきっと会いましょう
3組のミューシャンが共演した今回のライブ。
各ミュージシャン、違った魅力を見せてくれた。
しかし、3組ともに根底に流れるものは同じだったように感じる。
それは「優しさ」だ。
ロック、ポップス、ブルース、バラード、ラップ、色々な曲が演奏されたが、そこには人を励まし、勇気づける「優しさ」があったように感じる。
希望を歌い、背中を後押しし、そして、辛ければ逃げ込む世界を作っても良いと、僕らを包み込んでくれる曲の数々。
そして、音楽にひたむきな姿は、聴く人々の心をつかんだに違いない。
音楽は、言葉と音で人々の心に、熱い思いを伝えてくれる。
だから、僕は音楽が好きだ。
そして、今日出演した3組のミュージシャンが大好きでたまらない。
また、きっと会いましょう。ここで。
またきっと会いに行きます。
その時はまた、前向きな気持ちをもらって帰ることになるだろう。
高揚したまま、僕はアルテ崎山を後にする。
振り返ってみる。
そこには、素敵な笑顔だけがある。
また、会いましょう。きっと。
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左から、じゃぱな、和製ケビン、けふさん、ricco