初雪カズラ。
われや先、ひとや先、今日ともしらず、明日ともしらず、遅れ先立つ人は、元のしずく、すえの露よりもしげしといえり。されば朝には紅顔ありて、夕べには白骨となれる身なり。
ハタチを過ぎたあたりだったかな・・・。京都に住む学生のワタシは、はじめて親父に誘われて飲みに行った。あれが最初で最後の親父とのサシでの時間。親父が常連となっているらしい小料理屋に入った。これといった会話もなく、女将にすすめられるがまま酒の肴を冷めたお茶で胃袋に流し込んだ。気の利いた話なんて何もない。できるわけもなかった。ただただ重苦しい時間。考えてみると、あの気まずい時間を共にした親父は、いまのワタシより若い。嫌になるくらい不器用な男である。ひとつだけ良かったのは、親父にも、常連の小料理屋があることを知ったこと。女将さんとは、嬉しそうに話していた。そんなことを見せてもらったことである。
互いにいたたまれずに小一時間。「じゃあな」と開放されて外に出た。あの小雨降る夜から、次に、親父とまともに話したのは、多臓器不全に陥っていた最期の日。病院のベットの上から「また帰ってこい!!」。翌日には、何もしゃべらない骸となった。
「白」という字は、頭蓋骨の形からできた字であるらしい。重い扉の中から出てきた「白骨」の親父は、イヤというほど勝手によくしゃべる。元気か!?孫娘たちはどうだ!?仕事は順調か!?家の庭の花は咲いているか!?遺したお袋を頼んだぞ!?うるさいくらいに、あれからずっーとしゃべっている。
ホントはツレェんだよ。意外と見栄はってんだよ。娘たちとは、しゃべることもなくなったよ。息子に何を期待していたのか教えろよ。酒の相手ができなくてゴメンな。「白骨」となった親父には、告白も、自白も、なんでもできるから不思議だ。
また帰ってきてやったよ。
今年のお盆も約束を守る。
親父が遺した小さな庭には、
きっと、真っ白な初雪カズラが咲いている。
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