
11年目の一大決心 受注生産から量産体制へ
レタルのリニューアルについて語らないといけないことがある。
なぜリニューアルするの?と聞かれたら端的に言えば「子どもができたから」だ。
でもそれだけではない。
レタルは副業的な活動で留まり、お世辞にも売れてる訳ではないし、赤字である。
私のただの創作活動と言って等しい。
妊娠をした瞬間に「もうレタルをやれないな」と正直思った。
今後は自由に使う時間は限られるし、「自分一人野垂れ死にしようが構わない」みたいな生活はもうできない。
でも、私にとっては10年以上も続けてきたことである。
そして、今までレタルを温かく見守り、展示会に何度も足を運んでくださり、支えてくれたお客様や、こんな気まぐれな私と一緒に仕事をしてくれた仲間もいる。

レタルは私の作ったものかもしれないけれど、レタルは私のものではないんじゃないか…?という気持ちがふとよぎる。
支えてくれるお客様や仲間たちがいるのに、私個人の私的な理由でレタルというブランドをなくしてしまっていいのだろうか?と考えた。
ブランドも子どものようなもので、いつしか生み出した自分から手を離れ、一人勝手に育っていくものなのだと実感する。
「生まれてくる子どものためにも、今までレタルを支えてくれた人たちのためにも、ここで思い切ってレタルをしっかりリニューアルして、いっそ売れるブランドにしてやろう!」と思ったのだ。
お客様だって、長年知っているブランドが売れて人気になることは、きっと好きなバンドやアイドルが売れて嬉しいみたいに、嬉しいことだったり、誇らしいことじゃないかと思うのだ。
しかし、売れるためには今のままではいけない。
それにはまず売れるための経営改革、限られた時間でも運用出来る働き方改革が必要である。
それにはまず、ここ数年ずっと抱えていたある悩みを解消する必要があった。
レタルはずっと「セミオーダー」という受注生産体制を取っていた。
サンプルを1点作成し、それを見せて受注を取るというシステムだ。
受注生産だと初期コストが抑えられるので、資金がない私には都合がいい、というよりこれしか出来なかった。
加えて、私がパタンナーであることを活かし、袖丈や着丈は無償で調整、プラス料金でバストなどの調整も可能としていた。
パターンの調整出来ることはレタルにとってはかなり売りになっており、普通のシャツ屋ではなかなかサイズの合わないお客様が、プラス料金を支払ってでもお直ししするケースが多くなっていった。
しかし、オーダー時にサイズ調整などするため、売れれば売れるほど、その後の生産管理が煩雑になる。
それでなくても私は管理が苦手なADHDなのだ…。
ここ数年は生産管理がパンク気味で、パターンのお直しをするために、たびたび全体が納期遅れを起こしてお客様に迷惑をかけてしまうことがあった。
せっかく来てくれたお客様が離れてしまうという悲しい結果に…。
売れて嬉しい反面、心のどこかで生産管理の不安から「あんまり売れないで!」と願う自分が出てきてしまう。
これではいけない。
もちろん、お直ししたお客様は喜んでくれて、リピーターになってくれることも多い。
お客様が喜んでくれることは私にとっても嬉しいことだし、長年「自分のサイズにあった服を着たことがなかったから、こんなに快適なことにびっくりした!」との声をもらうとパタンナー冥利に尽きる。
それに時代としては、量産体制から受注生産体制に移行するのがトレンドでもある。
しかし、今まで通りのセミオーダーを続けるにはレタルの資本力や私の体力が足りない…。
苦渋の決断だけど、出産を機会に受注生産から量産に切り替えることにした。
***
去年の11月のピカレスクギャラリーさんでの展示から、試験的に小ロットの量産を行ってみた(ちなみに出産は10月)。


サイズ感は、出来るだけ多くの人が合うようにたっぷり着られるタイプのシャツにした。
しかし、それでも「サイズ感が合わない人がいたらどうしよう…」と何度も悩んだ。
「いっそやっぱり受注生産にした方が…」と思っては「いやいや、そんなパターン直して納品する時間ないでしょ」と引き返す。
サイズから取りこぼされてしまうお客様のことを考えると本当に悩ましい。
サイズを決定することがこんなにも難しいのかと実感した。

しかし、量産をやってみて実感したことがある。
生産管理がスッキリして時間に余裕が出た分、宣伝する時間に当てられたり、次の制作に向けての時間を作ることができる。
展示の時点で売るものがあると、お客様に勧める気持ちが全然違う。
まず、生産どうしよう?と不安に思う気持ちがないだけで、こんなにもポジティブにお客様と向き合えるのか、と自分でも驚いた。
今までもネガティブな気持ちがあった訳ではないが、私は結構心配症なところがあり、その後の納品まで考えると、知らず知らずに不安になっていることが多かった。
そうやって不安をためるせいか、展示会のあとに具合が悪くなることも多かったのだ。
サイズ感の不安は、今後のお客様へのヒアリングやマーケティングを行う中で解消していくとして、量産することによる時間的、心理的な余裕を体感したのであった。
つづく
レタルのリニューアルまでのnote『レタルお直し中』は毎月第二・第四火曜日にアップします。