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【第3回】そのヘルメット、どうします?

根本 学(埼玉医科大学国際医療センター 救急医学科・救命救急科)

 オートバイは楽しく、素敵な乗り物です。 しかし、“転倒”の可能性は常にあり、転倒したライダーは時に命に関わるけがを負うことがあります。救急車が来るまでの間、負傷したライダーを救うのはそばにいる“あなた”です。場合によってはヘルメットを脱がしてあげなければなりません。しかし,ヘルメットを脱がすのは難しく、特にフルフェイス形 (モトクロス用を含む)を装着している場合は、首の損傷をいっそう悪くする可能性もあります。ヘルメットを脱がす必要性や注意点などを正しく理解し、いざという時に備えてください。

自分で脱いでもらうのが一番良い!

 フルフェイス形であれオープンフェイス(ジェット)形であれ、オートバイから降りているときにヘルメットを被ったままでいるのはつらいですよね。転倒したときは息づかいも荒くなりがちですから、なおさらです。転倒した直後はどうしても気が動転して本人も傍にいる人もどうしたらよいかわからなくなりがちですが、一息つくと、何をするべきかだんだんとわかってきますよね。
 ライダーが転倒直後、あるいは、しばらくしてから自力で座ったり立ち上がったり、移動したりすることができるのであれば一安心です。可能であれば、自分でヘルメットを脱いでもらいましょう。

痛くて脱げないよ、手伝って!

 意識がしっかりしていて座ったり歩いたりできても、鎖骨や腕、手首の骨が折れているときは腕や手を動かすことができないので自分でヘルメットを脱ぐことができません。このようなときはヘルメットを脱ぐのを手伝ってあげますが、急ぐ必要はありません。落ち着いたところで本人と話しながらヘルメットを脱ぐのを手伝ってあげてください。

こんな時は緊急事態!

 転倒したライダーに意識があっても、首が痛く、手足がしびれていて動かすことができない時はどうしましょう。このような場合は、首のけが、すなわち、頸椎や頸髄が 損傷している可能性があります。また、普通の呼吸をしていない(死戦期呼吸、あえぎ呼吸)、意識がない、あるいは、意識が悪い、鼻や口から血が出ている、呼吸がおかしい(頻呼吸や努力性呼吸、腹式呼吸など)、食べた物をもどしている場合など、気道確保や補助呼吸が必要な緊急事態です。すぐに救急車を呼んで周りの人に助けを求めましょう(表1)。

表1:気道確保や補助呼吸が必要な緊急事態

ヘルメットの外し方

 緊急事態で救急車が到着するまでにヘルメットを外してあげなければ命に関わると判断したら、正しい方法で外すようにしましょう。図1から図5に手順を示しますが、病院前救護に関わる救急隊員でも難しい手技です。緊急事態時では、ライダーは首にけがをしているかどうか判断することができないため、首をしっかりと保護しながら外す必要があります。自分でヘルメットを脱ぐときも首に力がかかると思いますが、他人に外されるときはもっと力がかかります。お互いに外し合うことでヘルメットを外すことの難しさを体験できますので、万が一に備えて仲間と一緒に繰り返し練習をしてください。

図1:ヘルメットの外し方①
図2:ヘルメットの外し方②
図3:ヘルメットの外し方③
図4:ヘルメットの外し方④
図5:ヘルメットの外し方⑤

ヘルメットを外したときに気をつけることは?

 ヘルメットを被ったまま仰向けに寝ていると、ヘルメットの厚さの分だけ頭は高い位置にあります。この場合、成人では首の骨(頸椎)はまっすぐで安定した状態、すなわち、ニュートラル位を取っていますが、ヘルメットを被っていなければ頸椎は後ろに反った状態である伸展位になります(図6)。

図6:頸椎の位置

伸展位では首の神経(頸髄)に影響がでるので、ヘルメットを外した際は5cmほどの厚みがあるものに頭を置くようにしましょう。また、ハンプ(HUMP)がついているレーシングスーツを着ている場合はそのままだと頭が浮いてしまいますから注意してください(図7)。

図7:HUMPによる頭位の変化と対応

安全への取り組み

 ヘルメットの保護性能について株式会社SHOEIと実験していた際に気がついたことがあります。それは、性能が高いフルフェイス形ヘルメットは、ヘルメットが密着するようにチークパッドが開発されており、このチークパッドがヘルメットを外すときに大きな抵抗になっていることです。一方、チークパッドを外すと抵抗はほとんどなくなり、首に負担をかけることなくヘルメットを外すことが可能になりました(参考文献1)。ヘルメットを装着した状態でチークパッドを取り外すことができれば安全にヘルメットを外すことができるため、E.Q.R.S. (Emergency Quick Release System)が開発されたのです(図8)。

図8:安全への取り組み;E.Q.R.S. の使用方法
https://www.shoei.com/support/video/

現在、ヘルメットを装着したままチークパッドを取り外せるシステムは多くのヘルメット会社が採用していますので、ヘルメットを選ぶときの参考にしてください(図9)。

図9:ヘルメットを装着したままチークパットを取り外せるシステムを多くのヘルメットが採用

【注意】ヘルメットを被った状態でチークパッドを強く引っ張って外すと故障の原因になりますので、チークパッドをあらかじめ外してからヘルメットを被って練習してください。

【参考文献】
1:M Nemoto, M Shida, A Ichimura, I Nakajima, S Inokuchi, Y Sawada. The new-concept full-face-type helmet with removable cheek pads. J Trauma1998 Aug;45(2):379-82.

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※本記事は書き下ろしです。

【著者プロフィール】
根本 学(ねもと まなぶ)
埼玉医科大学国際医療センター 救急医学科・救命救急科 教授
日本救急医学会救急科専門医・指導医、日本外傷学会専門医
専門分野は救急医学全般、外傷外科、ショック、災害医学、外傷予防など

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