【第1回】ロタウイルスワクチン
執筆:伊藤 舞美
はしもと小児科看護師長
日本旅行医学会認定看護師/保育士養成学校講師
--------------------------------------------------------------------------------------
子どもは、小さなおとなではなく、子ども特有の病気や症状があります。
はじめて子育てをする保護者の方は、子どもが発熱したり、湿疹が出たりすると、慌ててクリニックを受診することがあります。症状が出てすぐは、からだの変化に対応できずに、子ども自身もぐったりして、クリニックへの移動がかえって負担になります。また、診察する側も、症状が出てすぐだと、どんな病気なのか判断がむずかしくなります。
そこで、「このタイミングで受診」が分ればいいのですが、それも一概には決められません。そんなとき、子どもの病気のことを少しでも知っておくと、「今は、熱の出はじめでつらそうだから、少し落ち着いて水分を取ってから受診しよう」と判断することができます。
この連載では、子どもが病気になったとき、また、その予防のために知っておくべきことを、クリニックナースがやさしくナビゲートします。
ロタウイルスワクチン。いったいどんな病気のワクチンなの?
「予防接種は大切だから、生後2か月になったら、すぐに開始」
と聞くけれども、いったいどんな病気がワクチンになっているのか、知らない方も多いと思います。
0歳のうちに接種しなければならないワクチンは、標準で6種類あり、合計で15~16回接種しなければなりません。
「え-っ、16回も予防接種のために病院へ行かなければならないの?」
と言いたくなりますが、複数のワクチンを同じ時間に接種する「同時接種」ができます。
今回は、生後2カ月から接種する「ロタウイルスワクチン」について解説します。ロタウイルスワクチンは、2020年10月から定期接種になる重要なワクチンです。
ロタウイルス胃腸炎はどんな病気?
秋から春先の寒い季節になると、ウイルス性胃腸炎が流行します。いわゆる、吐いて、下痢する子どもに多い病気です。原因となるウイルスは、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルスなどです。
いままで元気だった子どもが突然吐きはじめて、続いて水のような下痢(レモン色~白色)になります。熱が出ることもあります。症状が改善するまで1週間くらいかかります。嘔吐や下痢をすることで入ってきたウイルスを出そうとしているので、無理に症状を止めようとすると病気が長引く可能性があります。
感染した子どものほとんどは、自然経過で治っていきますが、水分が取れないと脱水症になることがあります。そうならないように、経口補水液による「経口補水療法※」が効果的です。また、ごくまれに、けいれんや脳症などの合併症を起こすことがあります。
※経口補水療法とは、経口補水液(塩分と水分がバランスよく配合された水溶液)を少量ずつ摂取することにより、脱水症を予防する方法です。
ロタウイルスのおどろくべき感染力の強さ
ウイルス性胃腸炎のなかでも、ロタウイルス胃腸炎はとても感染力の強い病気です。感染者の下痢便1g(指の第一関節部分くらい)中に、1,000億個から1兆個(!!!)のウイルス粒子が存在して排泄されます。そして、接触感染により、ウイルス粒子10~100個が体の中に入ると、感染が成立します。このように少量のウイルス粒子で感染してしまうため、5歳までにほとんどすべての子どもが感染します。そして、初めての感染のときがもっとも重症となり、その後感染を繰り返すごとに症状が軽くなっていきます。
予防接種でびっくりするくらい防げます!
ロタウイルス胃腸炎を防ぐために、現在、2種類のロタウイルスワクチンが発売されています。日本では、ロタリックスが2011年11月に、ロタテックが2012年7月に発売されました。2種類のロタウイルスワクチンの効果は大きく、ロタウイルス胃腸炎でクリニックを受診する赤ちゃんの数はとても少なくなりました。
ロタウイルスワクチンの接種スケジュールとは
標準として生後2カ月からロタウイルスワクチンの接種を開始します。ロタリックスは、4週間隔で2回接種、ロタテックは4週間隔で3回接種です。ワクチン接種といっても、ロタウイルスワクチンは飲んで免疫をつけるワクチンです。注射のような痛みはありません。生後2カ月から開始する他のワクチン※と、同時に接種することができます。2種類のワクチンの違いを表にしてみました。
※生後2カ月から接種できるその他のワクチンは、B型肝炎ワクチン、ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンです。
(表)2種類のロタウイルスワクチンの特徴
ロタウイルスワクチン接種の注意点
ロタウイルスワクチンには、腸重積症(ちょうじゅうせきしょう)の合併症があります。腸が腸の中に入り込んで、血行不良を起こして、腸の動きを止めてしまいます。発見や手当が遅れると命にかかわる場合もあります。
腸重積症の症状は、「嘔吐、血便、不機嫌」です。吐いて、血便が出たならば、すぐに医療機関を受診しましょう。ただし、生後2~3カ月の赤ちゃんは、このような特徴的な症状が出ないこともあるため、様子がおかしかったならば、まず、医療機関に相談することが大切です。
腸重積症は、ワクチン接種にかかわらず特に乳児にみられる病気です。ワクチン接種時期が遅れると、自然にかかる腸重積症の好発時期になるため、ロタウイルスワクチンは、生後15週までには開始することがおすすめです。
ロタウイルス胃腸炎の感染を広げないために
ロタウイルス胃腸炎の感染を広げないためには、ロタウイルスに感染した赤ちゃんの便を処理した後に、流水で十分に手洗いをすることです。ロタウイルスは、アルコール消毒が効かないため、アルコール消毒薬を手にシュッとしておしまいでは効果がありません。便で汚染した衣類などは、次亜塩素酸ナトリウム(いわゆる漂白剤)を入れて洗濯するのがおすすめです。
ロタウイルス胃腸炎は、感染予防が重要ですが、結局は子どもが全員感染する病気です。あまり過剰に反応せずに、できる範囲の予防をすることが大切でしょう。そして、予防接種で予防することがもっとも効果的です。うれしいことに、2020年10月より、ロタウイルスワクチンが定期接種となり、基本的にすべての赤ちゃんが無料でワクチンを受けることができるようになります。
参考文献:伊藤舞美著、クリニックナースがナビゲート 子ども外来ケア、へるす出版、2018年
【著者プロフィール】
・東京都立駒込病院消化器外科病棟
・東京都立八王子小児病院(現・東京都立小児総合医療センター)NICU主任
・1999年より、医療法人まなと会はしもと小児科にオープニングスタッフとして勤務
・へるす出版の月刊誌『小児看護』にて、連載「外来で役立つ小児看護技術」を2014年より約3年半にわたり執筆
・所属学会:日本外来小児科学会/日本ワクチン学会/日本旅行医学会/日本在宅医学会
伊藤 舞美さん近著:クリニックナースがナビゲート 子ども外来ケア
☆2020年7月号:小児看護における継続教育;2年目以降の看護師を対象に
#クリニック #外来看護 #予防接種 #ロタウイルス #ホームケア #出版社
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?