【第2回】おたふくかぜ
執筆:伊藤 舞美
はしもと小児科看護師長
日本旅行医学会認定看護師/保育士養成学校講師
------------------------------------------------------------------------------------
子どもの病気の代表格である「おたふくかぜ」。いったいどんな病気なの?
おたふくかぜは、「ムンプス」あるいは「流行性耳下腺炎」ともよばれ、ムンプスウイルスによって起こる全身感染症です。
おたふくかぜの症状は、耳の下が腫れて(はれて)痛がることです。腫れるのは、耳の下にある唾液を出す耳下腺(じかせん)です。飛沫感染(つばでうつる)でムンプスウイルスが入り込んで全身にまわり、唾液腺(だえきせん)である耳下腺が腫れます。熱が出ることもあります。よく「ほっぺが腫れた」と来院するお子さんがいますが、腫れる場所はほっぺではありません。ほっぺが腫れるときは、ちがう病気である(または、そもそも病気ではない)可能性があります。
【正しい】 耳の下が腫れて痛がる
【間違い】 ほっぺが腫れて痛がる
唾液を出す唾液腺は耳下腺だけではない!?
美味しい食べ物を目の前にすると、口のなかにじんわり唾液が出てきます。この唾液を出すところが唾液腺です。唾液腺には、耳下腺・舌下腺(ぜっかせん)・顎下腺(がっかせん)があります。おたふくかぜのときは、耳下腺だけではなく、舌下腺や顎下腺が腫れることがあります。舌下腺が腫れると、あごの下あたりがふくらみます。ただし、顎下腺が腫れても外からはわかりにくくなります。
つまり、耳の下が腫れる以外にもおたふくかぜの症状があるため、おたふくかぜの診断は難しくなります。
・おたふくかぜは唾液腺が腫れる病気
・唾液腺には、耳下腺(じかせん)、舌下腺(ぜっかせん)、顎下腺(がっかせん)がある
おたふくかぜと見た目は一緒、「反復性耳下腺炎」!
実は、耳下腺が腫れる病気は、おたふくかぜだけではありません。おたふくかぜと見た目は一緒ですが、反復性耳下腺炎という病気があります。おたふくかぜは、ムンプスウイルスが原因で、反復性耳下腺は、ばい菌(細菌)が原因です。反復性耳下腺炎は、ばい菌が口の中から耳下腺に入って炎症を起こして腫れます。
おたふくかぜと反復性耳下腺炎を症状だけで見分けるのは難しいですが、次のような差があります。おたふくかぜは、熱が出ることが多く、左右両方の耳下腺が腫れます。これに対して反復性耳下腺炎は、熱が出ることはなく、片方の耳下腺が腫れることが多いです。また、おたふくかぜは、基本的に一度かかったら二度とかかりませんが、反復性耳下腺炎は何度も繰り返しかかることがあります。
おたふくかぜには「こわい合併症」あり!
おたふくかぜは、ふつうは1~2週間の自然経過で治りますが、こわい合併症があります。合併症には、髄膜炎(ずいまくえん:脳を包む膜の炎症)、難聴(なんちょう:耳が聞こえなくなる)、男の子ならば精巣炎(せいそうえん:おちんちんのふくろのところの炎症)、女の子ならば卵巣炎(らんそうえん:卵子をつくる器官の炎症)などです。
「男の子はおたふくかぜにかかると子どもがつくれなくなるかもしれないので心配」ということを耳にすることがありますが、リスクは女の子も同じです。
おたふくかぜで難聴に!
おたふくかぜの合併症に難聴がありますが、一度耳が聞こえなくなると、治るのが難しくなります。日本耳鼻咽喉科学会が調査したところ、2015年と2016年の2年間に300人以上が、おたふくかぜが原因で難聴になったことが分っています。
では、おたふくかぜやその合併症を予防するにはどうしたらよいのでしょうか?
おたふくかぜを予防するためには、予防接種が最も効果的です。
おたふくかぜワクチンはいつ接種すればいいの?
おたふくかぜワクチンは、間隔をあけて2回接種します。
1回目は1歳になったらなるべく早めに接種します。2回目は5~6歳ころで、ちょうど小学校入学前に接種します。
大きくなると、精巣炎や卵巣炎の症状がひどくなることがあるため、6歳を過ぎてもワクチンを接種することがすすめられています。
おたふくかぜワクチン(武田薬品ホームページより)
おたふくかぜワクチン(第一三共ホームページより)
おたふくかぜに治療薬なし
おたふくかぜには、特別な治療薬がありません。痛み止めを使用して、自然に治るのを待つことになります。そこで、おたふくかぜを予防するには、予防接種しかありません。予防接種をすれば、たとえ、おたふくかぜにかかったとしても、合併症を防ぐことができます。
【著者プロフィール】
・東京都立駒込病院消化器外科病棟
・東京都立八王子小児病院(現・東京都立小児総合医療センター)NICU主任
・1999年より、医療法人まなと会はしもと小児科にオープニングスタッフとして勤務
・へるす出版の月刊誌『小児看護』にて、連載「外来で役立つ小児看護技術」を2014年より約3年半にわたり執筆
・所属学会:日本外来小児科学会/日本ワクチン学会/日本旅行医学会/日本在宅医学会
伊藤 舞美さん近著:クリニックナースがナビゲート 子ども外来ケア
へるす出版月刊誌『小児看護』
☆2020年8月号:NICUに入院となった子どもの親のこころのケア
☆2020年7月号:小児看護における継続教育;2年目以降の看護師を対象に
★2020年7月増刊号:基礎疾患のある小児のフィジカルアセスメント
#クリニック #予防接種 #おたふくかぜ #ムンプスウイルス #ワクチン #反復性耳下腺炎 #ホームケア #出版社