
カレン・ザ・トランスポーター #16
白く発光する2mのスキンヘッド中年男性が丸太のように運ばれていったのを見送ると、私は周囲を確認して、彼らが飛び出してきた林の中に分け入った。
あのやりとりと腰の金銀メイス、間違いなくこちらの方向に私の目的地があるからだ。
それにしても林業の地とは思えないほど手入れがされていない。
いや、意図的に手入れされていないのだろう。
【見つけられると困る】から。
しばらく藪をかき分けていくと、進行方向にいくつかの気配。
音を立てないように藪の向こう側をのぞき込む。
そこにあったのは直径が5mほどある泉だ。
水の透明度は高いようだが、ここからでは深さがうかがい知れない。
まぁなんてことはないそこらへんの森にもよくある泉に見える。
だが、この泉のある光景を異常なものにしているのが、気配の正体である9名ほどの人間だ。
例の自警団が6人ほど、それとは別にグレートソードを携えた重装備の戦士や、フード姿で杖を持ってて明らかに魔法使いそうな奴、さっきのオッサンのような神官。こいつら3名も草色の腕章をしている。
計9名が泉の周りを取り囲むように立ち、周囲を警戒しているのだ。
通常の警備がいるだけでもおかしいのに、あんな傭兵まがいの冒険者までいるとなると
《ここは特別な泉なので厳重に警備をしていますよろしく》
と大々的に宣伝してるようなもんだ。
そもそも泉なんてもの警備する理由がない。
しかしそれは普通の泉ならば、の話だ。
そう、私は通常ならざるこの泉に用があってここまで来たのだが、肝心のお届け先は物騒な森林警備員どもではない。
とはいえ、うかつに近づけばあのオッサンの二の舞だろうし、十分注意と準備をしたところで、あの人数を捌けるとは到底思えない。
結構強そうだし。
私は運び屋であって、国士無双の英雄様ではないのだ。
豪華な墓の下で吟遊詩人に謳われるよりは、床に敷いたシートの上で二度寝を楽しむ生を選ぶ。
視線を外さずに静かに後ずさりをし、距離を取ったらそのまま来た道を引き返す。
やがて藪を抜け、さっきまでオッサンが白く光って大騒ぎしていたとは思えないくらい静かな林道を再び歩き始める。
目的地は、林の所有者であり自警団の雇い主、ラジャック村。
ひとまずはそこで情報収集をすることにした。
今回のお仕事は現地の視察も兼ねており、荷を引き渡さなくとも現地の状況を報告することで半額は受け取れることになっている。
だが、床に敷いたシートで二度寝人生を送るにしても日々のパンは重要で、それが美味しければ美味しいほど良いというのは誰にも否定できない真理でもある。
十数分ほど林道を歩いて村の入口へ。
運び屋であることを秘して「斧を売りに来た」と告げる。
斧は不足しているからきっと全部売れるよ、だそうだ。
もちろん知ってる。
不足しているのが「木を切るための」斧ではないこともね。
さて、とりあえず宿でも探して...
ガツン!
後頭部に軽い衝撃が走る。
思わず振り向くと、10mほど先に小さな女の子が涙目で立っていた。
私の足元には投げつけられたものであろう小石...結構でかいぞこれ。
石にしよう、石が転がっている。
視線が合うと、彼女は私を潤んだ目で睨みつけたままこう怒鳴った。
「お前も金儲けにきたのか!」
【続く】